スタグフレーションの時代における投資機会

経済成長の減速とインフレ率の上昇は、株式と債券の両市場にとってマイナス要因となる組み合わせといえます。しかしこの局面で、グローバル株式の投資家にとって絶好の投資機会が生まれているともいえます。


アレックス・テダー
グローバル株式・ 米国株式ヘッド兼CIO


今年は株式投資家にとって苦戦する状況が続いています。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、エネルギーとコモディティの価格高騰や、世界同時株安、株価変動の大きさ(ボラティリティ)の上昇を招きました。欧州ではもちろんのこと、おそらく米国でも景気後退に陥る可能性が高いとみています。また、物価が上昇し続ける一方で、実質的な経済成長がみられない「スタグフレーション」が長期化するリスクも高まっています。

今後景気後退に陥るか、またはスタグフレーションとなるか、どちらにしても企業利益にとってはマイナスの影響を与えると予想されます。今後数か月以内にコスト上昇圧力が顕在化し、収益成長が減速し始めるため、マージンが圧迫される可能性が高いとみています。このような環境において当運用チームが重視しているのは、企業の価格決定力です。気候変動などの長期的な成長要因は市場で見過ごされていますが、忍耐強く、そのような構造的な成長要因に着目する投資家にとっては多くの投資機会が広がっています。次の通りご説明します。


世界の株式市場が調整した
ハイテク株の多いナスダック総合株価指数は、5月は既に「弱気相場」に突入(直近のピーク水準から約20%下落)しています。S&P500指数とStoxx600 Europe指数は、米ドルベースで6月上旬に節目を超えて下落しました。英国株式市場は、過去数年間にわたりアンダーパフォームした後、12%の下落で留まり比較的良く持ちこたえている方です。英国株式市場で高い比率を占めるエネルギーとコモディティ関連銘柄が、アストラゼネカやグラクソ・スミスクラインのような大型の医薬品銘柄と同様に、FTSE指数を下支えしています。

弱気相場は歴史的にみると平均で290日間続きます。過去140年間において、このような局面で株式市場は平均37%下落しています。つまり、S&P500指数は3,250程度まで下落し、大西洋を挟んだ両岸の米国と欧州で一段と下落する可能性があることを示しています。弱気相場では通常、ニュースフロー次第で、ある時は大幅に上昇する可能性がある一方、大幅なドローダウンが見られる可能性もあるなど、高ボラティリティの展開となることが予想されます。特に、米国では7月中旬に開始される4-6月期決算発表のタイミングでその傾向が顕著になる可能性があります。


2021年後半以降の市場トレンド
年初来で優位に展開したセクターは予想通りエネルギーであり、その他主要セクターはマイナスのリターンとなりました。パンデミックが追い風となり、ロックダウンの期間中に大幅な増収増益となった情報技術や消費者関連のセクターは、その後特に大きな打撃を受けています。電気、暖房、ガソリン、食料品の価格上昇により、消費者は日常生活に不可欠でないものや高価なものへの支出を抑制せざるを得ない状況になっています。

米国では、ウォルマート、ターゲット、アマゾンなど、多くの小売企業で商品在庫が急速に積みあがっており、収益の伸びが大幅に鈍化していることに注目すべきです。売れ残った商品は値引きに追い込まれ、収益に大きな打撃を与えることになります。欧州でも同様の状況が起こっています。
2022年の株式市場のスタイル・ファクターでは、いわゆる「バリュー」株(株価が本質的価値を下回って取引されている銘柄)が最も良いパフォーマンスとなっています。バリュー銘柄には、エネルギーや素材の企業だけでなく、銀行や保険会社も含まれます。金利上昇により、ローンや債券ポートフォリオなどからの金利収入の増加が見込めることが好感されています。

それとは対照的に、「グロース」銘柄(市場平均を上回るペースで売上高と利益の成長が見込まれる企業)のパフォーマンスが低迷しています。これは2021年後半に米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ対応での利上げの可能性を強調したことで始まったトレンドが継続しているといえます。グロース銘柄は通常、将来の利益とキャッシュフローに基づいて評価されるため、金利上昇に伴う割引率の上昇はマイナス効果となります。

グロース銘柄のアンダーパフォームは当然と考えられる一方で、負債水準が低位であり、信頼性が高く、高収益の企業を表す「クオリティ」のファクターが著しくアンダーパフォームしていることについて注目すべきです。
クオリティ銘柄の約40%はハイテク企業ですが、その多くはマイクロソフト、グーグル、アドビ、インテュイット、テキサス・インスツルメンツなどのように、強固なバランスシートを有し、キャッシュフロー生成力のある大手企業です。その他のクオリティ銘柄は、ジョンソン・エンド・ジョンソン、イーライリリー、ビザ、コカ・コーラなどの大型でディフェンシブ性を有する複合企業です。この分野のドローダウンの大きさ(下落率平均-20%)を考慮すると、今後6~12か月間で回復する可能性が高いとみています。


今回の景気後退とインフレのバランスのどこが特殊なのか?
足元の景気後退とインフレのバランスは非常に特殊であり、注意深くモニターしています。市場関係者の間では、1970年代と現在の環境を比較する向きが多くあります。当時はインフレがまん延し、コストと賃金上昇スパイラルが発生する中、市場にとって非常に困難な期間となりました。その後、中央銀行による積極的な行動により、コントロールされることになった経緯があります。ただし、1970年代と現在で様相が異なっているのは、失業率が非常に低水準であり、低下傾向であるということです。

米国でインフレ率が8%を超え、失業率が4%を下回った時期は、1951年まで遡らなければなりません。実際に1948年以降、インフレ率と失業率がこれほど両極化した月は15回しかありません。両極化が起こるたびに、1年半以内に景気後退が起こり、その後に比較的安定した経済成長期が続きます。この統計に基づけば、今後景気後退に陥る可能性は高いですが、その後世界経済が比較的速やかに正常化する可能性があることを示唆しています。

このシナリオが現実となることを期待したいと思います。景気信頼感と経済成長を保持しながら、政策金利を通じてインフレを管理することは紙一重の差であり、各国の中央銀行が失敗する可能性もあります。我々の基本シナリオは、中央銀行の対策が成功することを前提に予測していますが、インフレの勢いを阻止できないというリスクがあることも明らかです。このような最悪の事態が発生した場合、株式と債券の両市場が非常に困難な状況に直面するといえます。


先行き不透明な時代への戦略
コモディティ価格の高騰により、エネルギーと鉱山企業の利益とキャッシュフローは著しく向上しています。これらの企業の多くは、収益の傾向が続くと仮定した場合、理論上今後5年以内に全ての株式資本を買い戻すことが可能です。当面の間、このエネルギー・鉱山の銘柄を保有することには意味があると考えます。
しかしながら、消費者にとっても企業にとっても、インフレのまん延と金利上昇の組み合わせが(長期間にわたる低利融資の後で)、既にマイナスの影響を及ぼしています。個人消費から設備投資に至る多くの分野で「需要破壊」が顕在化しています。このような環境では、多くの企業にとって値上げを実施することは困難であり、失望的な業績結果になると予想されます。株式市場は大幅に下落しましたが、企業業績がマイナス傾向であることから、株価は見かけほど割安ではないことになります。

このような背景から当運用チームでは、需要を損なうことなくコストの増加分を価格に転嫁する能力である価格決定力に着目しています。価格決定力が総じて非常に強い業界があります。例えば、ヘルスケアは技術革新が進む分野であり、多くの企業が1つかそれ以上のユニークな製品を持っていることから、製品価格を維持し利益を伸ばすことが可能となります。

その他の例として、情報技術、特にソフトウェアだけでなく最先端の半導体製造装置の分野でも、個別のフランチャイズ契約が求められ、困難な時期にもこれらの企業が好業績となることを可能にしています。マイクロソフトオフィスの使用を止めたいと思う人はほとんどいないとみています。むしろ、景気後退の環境下ではこれまで以上に使いたいと考えるかもしれません。


考察の最後に
理由は分からなくもないですが、足元の株式市場は非常に短期的な視点に集中していると見ています。ニュースフローは絶えず変化し、市場センチメントは悪化しており、株価変動幅の大きい高ボラティリティの展開となっています。しかし一歩下がってみると、今後何年にもわたって人々の生活に影響を及ぼすであろう重要なトレンドを株式市場は見失っているように見えます。例えば、気候変動は現実に起こっていることにも関わらず、投資家が石油、石炭、その他コモディティの価格に注目しているため、気候変動関連企業の株価は過去数か月間において比較的低調に推移しています。

その他にも、デジタル化は現実に起こっていることであり、水面下で大幅に加速していますが、ハイテク銘柄は過去12か月において最も軟調に推移している分野の一つです。また、バイオテクノロジーの進展も著しいですが、この分野についてもパンデミック以降、大きく株価が下落しています。いずれの例においても、足元の市場の混乱を見抜く能力と忍耐力を有する投資家にとっては、投資の好機が広がっているのです。このような構造的な成長がある分野への投資によって長期的に得られるリターンは計り知れないと我々は考えています。




【本資料に関するご留意事項】
  • 本資料は、情報提供を目的として、シュローダー・インベストメント・マネージメント・リミテッド(以下、「作成者」といいます。)が作成した資料を、シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社(以下「弊社」といいます。)が和訳および編集したものであり、いかなる有価証券の売買の申し込み、その他勧誘を目的とするものではありません。英語原文と本資料の内容に相違がある場合には、原文が優先します。
  • 本資料に示されている運用実績、データ等は過去のものであり、将来の投資成果等を示唆あるいは保証するものではありません。投資資産および投資によりもたらされる収益の価値は上方にも下方にも変動し、投資元本を毀損する場合があります。また外貨建て資産の場合は、為替レートの変動により投資価値が変動します。
  • 本資料は、作成時点において弊社が信頼できると判断した情報に基づいて作成されておりますが、弊社はその内容の正確性あるいは完全性について、これを保証するものではありません。
  • 本資料中に記載されたシュローダーの見解は、策定時点で知りうる範囲内の妥当な前提に基づく所見や展望を示すものであり、将来の動向や予測の実現を保証するものではありません。市場環境やその他の状況等によって将来予告なく変更する場合があります。
  • 本資料中に個別銘柄についての言及がある場合は例示を目的とするものであり、当該個別銘柄等の購入、売却などいかなる投資推奨を目的とするものではありません。また当該銘柄の株価の上昇または下落等を示唆するものでもありません。
  • 本資料に記載された予測値は、様々な仮定を元にした統計モデルにより導出された結果です。予測値は将来の経済や市場の要因に関する高い不確実性により変動し、将来の投資成果に影響を与える可能性があります。これらの予測値は、本資料使用時点における情報提供を目的とするものです。今後、経済や市場の状況が変化するのに伴い、予測値の前提となっている仮定が変わり、その結果予測値が大きく変動する場合があります。シュローダーは予測値、前提となる仮定、経済および市場状況の変化、予測モデルその他に関する変更や更新について情報提供を行う義務を有しません。
  • 本資料中に含まれる第三者機関提供のデータは、データ提供者の同意なく再製、抽出、あるいは使用することが禁じられている場合があります。第三者機関提供データはいかなる保証も提供いたしません。第三者提供データに関して、本資料の作成者あるいは提供者はいかなる責任を負うものではありません。
  • MSCIは、本資料に含まれるいかなるMSCIのデータについても、明示的・黙示的に保証せず、またいかなる責任も負いません。MSCIのデータを、他の指数やいかなる有価証券、金融商品の根拠として使用する、あるいは再配布することは禁じられています。本資料はMSCIにより作成、審査、承認されたものではありません。いかなるMSCIのデータも、投資助言や投資に関する意思決定を行う事(又は行わない事)の推奨の根拠として提供されるものではなく、また、そのようなものとして依拠されるべきものでもありません。
  • シュローダー/Schroders とは、シュローダー plcおよびシュローダー・グループに属する同社の子会社および関連会社等を意味します。
  • 本資料を弊社の許諾なく複製、転用、配布することを禁じます。

この企業の関連リリース

この企業の情報

組織名
シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
ホームページ
https://www.schroders.com/ja-jp/jp/asset-management/
代表者
黒瀬 憲昭
資本金
49,000 万円
上場
非上場
所在地
〒100-0005 東京都千代田区丸の内一丁目8番3号丸の内トラストタワー本館21 階
連絡先
03-5293-1500

検索

人気の記事

カテゴリ

アクセスランキング

  • 週間
  • 月間
  • 機能と特徴
  • Twitter
  • Facebook
  • デジタルPR研究所