子どもの先天性心疾患発症に関する母親のリスク因子が明らかに

妊娠初期のビタミンAサプリメントの摂取は発症の可能性を高める
~日本の約10万組の親子のエコチル調査より~

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)臨床研究センター データサイエンス部門の小林徹、朴慶純、岩元晋太郎、横浜市立大学エコチル調査神奈川ユニットセンターの河合駿、伊藤秀一らの研究グループは、日本小児循環器学会と協同で全国約10万人のエコチルデータを用いて母子ペアを妊娠中から3歳まで追跡調査しました。
その結果、子どもの先天性心疾患発症に母親の妊娠初期のビタミンAサプリメント摂取、バルプロ酸内服、降圧薬内服、先天性心疾患の既往、母親の年齢、妊娠中期のヘモグロビン血中濃度(貧血の指標)が関連することを明らかにしました。これらの先天性心疾患発症と母親のリスク因子との関連性は日本人の大規模母子コホートでは初めて見いだされました。特に妊娠初期の女性、また妊娠を考えている女性においても、ビタミンAを含むサプリメントの摂取は控えることが推奨されます。
本研究成果は、国際的な学術誌「Journal of the American Heart Association」に掲載されました。(2023年8月29日)


調整オッズ比 95%信頼区間
ビタミンAサプリメント内服 5.78 2.30–14.51
バルプロ酸内服 4.86 1.51–15.64
降圧薬内服 3.80 1.74–8.29
母親の先天性心疾患既往歴 3.42 1.91–6.13
母親40歳以上 1.59 1.14–2.20
ヘモグロビン血中濃度(貧血の指標) 1.10 1.03–1.17
【図 子どもの先天性心疾患発症に関連する母親のリスク因子】


【プレスリリースのポイント】
  • これまで日本では、妊娠期の女性の生活習慣と子どもの先天性心疾患発症の原因について十分に検討されておらず、今回は日本人の大規模母子コホートで初めての研究結果となります。
  • 子どもが先天性心疾患を発症する調整オッズ比は、妊娠初期の母親のビタミンAサプリメント摂取で約5.8、バルプロ酸内服で約4.9、降圧薬内服で3.8、先天性心疾患の既往歴で約3.4、母親の年齢40歳以上で約1.6、妊娠中期のヘモグロビン血中濃度(貧血の指標)で約1.1でした。
  • 妊娠中の食事からの栄養摂取状況や社会経済的背景との関連は認められませんでした。
  • 妊娠初期や妊娠を希望する女性はビタミンAサプリメントの摂取を控えることが勧められます。


【研究の背景と目的】
子どもの先天性心疾患発症に母親の基礎疾患や妊娠中の薬剤摂取を含めた環境因子が関連する事が数十年前から提唱されていました。一方で、日本では妊娠初期から子どもの先天性心疾患診断までを前向きに追跡した大規模研究はほとんどなく、妊娠期の女性の生活習慣の変化によってどのような環境因子が子どもの先天性心疾患発症の原因となるかについては十分検討されていませんでした。今回、大規模な前向きコホート研究であるエコチル調査のデータを利用し、現在の日本人において母親の背景や環境因子が子どもの先天性心疾患発症にどのように関与するかについて詳しく調査しました。


【研究の内容と結果】
2011年1月から2014年3月にエコチル調査に参加した妊婦とその子ども、91,664ペアを対象にしました。母親の妊娠中から行っている自記式アンケートと医療者へのアンケートを利用し、3歳までの先天性心疾患診断と母体環境因子の関連について疫学的に分析を行いました。先天性心疾患を持っていた子どもは1,264名(1.38%)で、そのうち心室中隔欠損症や心房中隔欠損症などの単純型先天性心疾患は1,039名(1.13%)、ファロー四徴症や単心室などの複雑性先天性心疾患は181名(0.18%)の頻度でした。
妊婦の食事による栄養摂取や、学歴・収入などの社会的背景が子どもの先天性心疾患発生リスクと関連を示さなかった一方、図に示す6つの因子が子どもの先天性心疾患発症リスクにそれぞれ関連することが明らかとなりました。特に妊娠初期にビタミンAサプリメントを摂取する妊婦は非摂取の妊婦と比較すると子どもに先天性心疾患が発症する調整オッズ比が約5.8と高値を示しました。


【今後の展望・発表者のコメント】
今回の大規模な調査によって、日本における子どもの先天性心疾患発生に関連する複数の母親のリスク因子が明らかになりました。特にビタミンAサプリメントは妊娠初期の女性に対して先天性心疾患を含めた先天奇形発症リスクを高める懸念から、その摂取は現在推奨されていません。本研究においても過去の研究と同様の結果が得られており、改めて妊娠初期や妊娠を希望する女性はビタミンAを含むサプリメントの摂取を控えるよう、知識の普及が望まれます。また、バルプロ酸や降圧薬に関しては元となっている病気のコントロールも重要なため、主治医と十分に相談する事がすすめられます。


【発表論文情報】
タイトル:Association between maternal factors in early pregnancy and congenital heart defects in offspring: the Japan Environment and Children’s Study
執筆者:河合駿1) 、岩元晋太郎2)、朴慶純2)、川上ちひろ1)、犬塚亮3)、前田潤4)、古谷喜幸5)、上砂光裕6)、高月晋一7)、上田知実8)、山岸敬幸9)、伊藤秀一1)、小林徹10)
所属:1)横浜市立大学附属病院小児科
   2)成育医療研究センター 臨床研究センター 生物統計ユニット
   3)東京大学医学部小児科
   4)東京都立小児総合医療センター循環器科
   5)東京女子医科大学循環器小児・成人先天性心疾患科
   6)日本医科大学多摩永山病院小児科
   7)東邦大学医療センター大森病院小児科
   8)榊原記念病院小児循環器科
   9)慶應義塾大学医学部小児科
  10)国立成育医療研究センター 臨床研究センター データサイエンス部門
掲載誌:Journal of the American Heart Association
DOI:http://doi.org/10.1161/JAHA.122.029268


【エコチル調査に関して】
エコチル調査は子どもへの化学物質暴露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために2011年より日本で開始された大規模な出生コホート研究です。10万組の親子を対象とし、産まれる前から13歳になるまでの追跡調査を経て、子どもの健康に与える環境要因を解明していきます。










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組織名
横浜市立大学
ホームページ
https://www.yokohama-cu.ac.jp/
代表者
小山内 いづ美
所在地
〒236-0027 神奈川県神奈川県横浜市金沢区瀬戸22-2
連絡先
045-787-2311

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