コロナ禍前の4年間での66,905人の患者データを分析
東京慈恵会医科大学救急医学講座・附属柏病院集中治療部 吉田拓生准教授は、横浜市立大学データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻 水原敬洋教授、清水沙友里講師らと、コロナ禍前における重症呼吸不全患者の診療実態が経年的に変化していたことを明らかにしました。
重症呼吸不全患者は複数の治療を必要とし、かつ死亡率も高い症候群です。また、それら診療実態は多様な影響を受け経年的に変化していることが予想されます。しかし、それらの実態は不明でした。本研究は重症呼吸不全の診療実態がダイナミックに変化していることを記述した研究であり、コロナ禍前の4年間で診療に用いられる各種薬剤の使用状況が大きく変化していること、また前一部の診療において、エビデンスと現場診療とのギャップ(Evidence-Practice Gap:以下「EPG」)が存在することも明らかにしました。
本研究の結果は2024年3月に開催された日本集中治療学会総会で発表され、2024年7月9日、Respiratory Investigation誌に掲載されました。
【概要】
本研究は、日本の診療報酬算定データ(Diagnosis Procedure Combination data: DPCデータ)を使用し、コロナ禍前の4年間(2016年度-2019年度)の重症呼吸不全患者の診療実態・予後の経年変化を調査しています。
4年間で66,905人の重症呼吸不全患者が同定され、重症呼吸不全診療に用いられる各種薬剤の使用状況が4年間で変化し続けていることがわかりました。4年間の相対的変化が大きかった診療実態は、人工呼吸器管理に必要とされることの多い麻薬フェンタニルの使用増(30%から38%)、筋弛緩薬ロクロニウムの使用増(4.4%から6.7%)、昇圧剤バソプレッシンの使用増(3.8%から6.0%)、早期リハビリテーションの実施増(27%から38%)、体外式膜型人工肺(エクモ:ECMO)の使用増(0.7%から1.2%)、強心薬ドパミンの使用減(15%から10%)、好中球エラスターゼ阻害薬シベレスタットの使用減(8.6%から3.5%)でした。また、一部、EPGと捉えうる診療実態が存在することも判明しました。一方で予後に関しては、院内死亡率35%前後を推移し、4年間でわずかに改善があった程度でした。
本研究は、日本国内の集中治療の実態の変化をとらえた研究です。今後、本研究で得られた知見を基に、日本での集中治療をどう適正化させていくかを考える必要があります。