~萌芽的技術コンセプトの「In-Network Computing」と「SSI」を取り入れたコアネットワークを構成~
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、6G/IOWN時代のコアネットワーク「インクルーシブコア」アーキテクチャについて基本技術仕様を確立し、メタバースをユースケースとした実証実験を実施し、その有効性を確認しました。また、本技術仕様に関するホワイトペーパーを公開いたしました。インクルーシブコアでは、今後の普及が期待される技術コンセプトである「In-Network Computing(*1)」や「SSI(自己主権型アイデンティティ)(*2)」などをコアネットワークに取り込み、その役割を大きく変革します。これにより、ネットワークを介して利用するサービスについて、端末の処理負荷の低減およびプライバシー保護により快適で安心・安全な体験をユーザに提供できるようになります。
本成果は、2023年11月14日~17日に開催されるNTT R&D フォーラム― IOWN ACCELERATION(*3)に展示予定です。
図1 インクルーシブコア概要
1. 背景
現在、様々なものがネットワークに繋がり、またデジタル化されることで、数多くのサービスがネットワークを通じて提供されています。今後サービスはより多様化し、6G/IOWN時代にはCPS(*4)などの先進的なサービスの実現が期待されます。
従来のネットワークは、クラウドと端末での情報処理とは独立し、情報の転送を担ってきました。クラウド・端末では様々なサービスの情報処理が進む一方で、ネットワークは情報の転送を行う区間およびその役割が固定的であるため、先進的なサービスの提供範囲や端末に制約が生じてしまいます。また、マイナンバーなどのデジタル化された個人情報(デジタルアイデンティティ))の普及が進み、先進的なサービスでの利用が期待される一方で、このような個人情報のデジタル化は、意図しない個人情報の収集や、収集された情報の突合による個人の特定や個人情報の濫用などの懸念があります。
2. インクルーシブコア技術概要
インクルーシブコアは、「サイバー空間」と「物理空間」、「コンピューティング」と「ネットワーク」、「アナログ」と「デジタル」、「移動通信」と「固定通信」など、通信サービスそのものまたは環境変化としての4つの多面的な「融合と協調」を実現する様々な技術からなる将来の共通的基盤となることをめざしています。具体的には、「ネットワーク融合サービス高速処理基盤(以降、ISAP)」「耐障害性の高いネットワーク技術(ロバストネットワーク)」「アプリケーション要件に適応した通信方式の選択機能(適応トランスポート)」「モノ、AIなどの多様な対象の認証機能と端末、ネットワーク、サービス間のID連携機能(認証・ID連携機能)」「ユーザ主権によるアイデンティティ管理と情報流通基盤(SSI基盤)」などの要素技術から構成されます(詳細は、ホワイトペーパーを参照。
https://www.rd.ntt/ns/inclusivecore.html )。本実証においては、コンピューティングとネットワークの融合と協調に関して、世界に先駆けてIn-Network ComputingとSSIという萌芽的技術コンセプトを取り入れたコアネットワークを構成し、要素技術であるISAPとSSI基盤について、提案アーキテクチャの実証を行います。
ISAPでは、In-Network Computingとして端末やクラウドでのサービスに係る情報処理を仲立ちし、両者を高速に同期・協調させながら、通信環境やサービス利用環境に即したネットワーク内のハードウェアでの連鎖的な処理基盤を形成します。端末とクラウドの情報処理をいつでもどこでもネットワークが協調させ高速化するので、お客様環境や端末、サービスに制限されないフレキシブルなサービス体験の創出につながります。ISAPにより、端末スペックやアクセス環境を問わず様々な先進的なサービスを利用できるようになり、サービス提供者より多くのユーザにサービス提供が可能となります。
SSI基盤では、ブロックチェーンを含むSSIを実現する技術であるDID(分散型識別子)(*5)やVC(検証可能な資格証明)(*6)と、IPアドレスなどのユーザを識別できる情報を隠蔽する技術を組み合わせることで、プライバシーに配慮した個人の資格情報の提示をセキュアに実現しました。これにより、デジタル化された個人のプライバシー情報が収集される心配なく、パーソナライズされたサービスを安全に利用することが可能になるとともに、サービス提供者はユーザの属性証明を活用したサービスの提供が可能となります。
3. 実証内容
上記のアーキテクチャの有効性を確認するために、AWS上にインクルーシブコアを実装し、メタバースをユースケースの例として、要素技術であるISAPとSSI基盤について、以下の点を実証しました。
■メタバース空間状態と連動したIn-Network Computing基盤によるメタバース空間描画の起動・高速化の実証:
MetaMe(*7)から移動できる空間(MetaMeコミュニティワールド)として接続した、SSIに基づくメタバース(後述)への移動に合わせて、AWS上に展開された5Gコアネットワークの端末接続状態をISAPが連携し、ネットワーク内のハードウェアアクセラレータに動的にメタバース空間描画機能を起動することによる、高速な3D空間描画を実証で確認した。
図2 ISAPの実証
■個人のプライバシー情報を収集しないパーソナライズされたコンテンツ配信を可能とするSSIに基づくメタバースの実証:
ISAP上に展開された個人のプライバシー情報を管理するセキュアIDウォレットにより、プライバシーに配慮した個人の属性情報の提示を実現し、メタバース空間上で個人を特定するような個人情報の収集を防ぎつつも、個人の属性情報に基づいてパーソナライズされたサービスの提供を実証で確認した。
図3 SSI基盤の実証
4. 今後の展開
本実証を通じ、ユーザが端末やサービスに左右されずに、いつでもどこでも使いたいサービスを自分主体で安心安全に利用できるような、ユーザが主導権を握ることができる新たなサービスの形態を提示できることを確認しました。
今後は、これらの要素技術を関連する国際的な標準化団体およびオープンソースコミュニティへ提案していきます。そして、6G/IOWNの本格導入が予定されている2030年に、標準仕様として社会に広く実装されることをめざします。
<用語解説>
*1 In-Network Computing
アプリケーションレイヤの処理機能をネットワーク内のデータ転送機能に移譲し、遅延や端末の消費電力の低減しつつ、高性能・高機能なサービスを実現する技術コンセプトです。ネットワーク内にあるスイッチなどの装置へ情報処理をオフロードすることで、端末の負荷を低減することが期待されます。
*2 SSI
Self-sovereign identity(自己主権型アイデンティティ)の略称。SSIは、個人が自分自身のデジタルアイデンティティを所有し、コントロールすることを可能にするWeb3.0に関わる技術コンセプトです。SSIは中央管理者や認証機関に頼る必要がなく、ユーザが自分の情報を安全に管理できる仕組みを提供します。
*3 「NTT R&D FORUM 2023 -IOWN ACCELERATION」公式サイト
URL:
https://www.rd.ntt/forum/
*4 CPS
Cyber-Physical System(サイバーフィジカルシステム)の略称。CPSは、物理的な世界(Physical)とデジタル世界(Cyber)が融合したシステムを指します。これらのシステムはセンサー、アクチュエーター、データ処理、通信技術を組み合わせ、リアルタイムで情報を収集、分析、制御します。CPSは自動運転車、スマート都市、産業用ロボットなど多くの応用分野で利用が期待されます。
*5 DID
Decentralized Identifiers(分散型識別子)の略称。分散型識別子は、SSIの基盤となる要素で、一意なデジタル識別子です。DIDは中央の機関に依存せず、ブロックチェーンなどの技術を使用して、ユーザが自分自身を一意に識別できるようにします。
*6 VC
Verifiable Credentials(検証可能な資格証明)の略称。検証可能な資格証明は、個人が所有するスキル、資格、属性などの情報をデジタル形式で表現したもので、信頼性を確認するための証拠を提供します。VCはDIDと結びついて使用され、信頼性のある方法で資格情報を共有できるようにします。
*7 MetaMe
株式会社NTTドコモが開発し、日本企業の新規事業開発やイノベーション創出を支援する事業共創カンパニーである株式会社Relic(本社:東京都渋谷区、代表取締役CEO:北嶋貴朗、以下、Relic)がRelicの「オープンイノベーション事業」の一環として、大企業の新規事業創出を加速するインキュベーションパートナー・プラットフォーム「DUALii(デュアリー)」を活用し、運営するメタコミュニケーションサービス。2023年2月よりサービスを開始しました。 (「MetaMe」公式サイト
https://lp.metame.ne.jp )