シュローダーのグローバル・アンコンストレインド債券チームヘッドのジュリアン・ホゥダンが足元の債券市場の魅力、苦悩、リスクについて語ります。
ジュリアン・ホゥダン
グローバル・アンコンストレインド債券チーム・ヘッド
米英の預金金利が非常に高いなかで、債券に投資する価値はあるのでしょうか?
この疑問は今年、そしておそらく今後数年間は問いかけられ続けるでしょう。もちろん、米国や英国では預金金利が3~5%程度にまで高まっており、高金利の国に住む人にとっては、預金はリスクがないので素晴らしいことです。しかし、本当に問いかけられるべき疑問は、「その高金利がいつまで続くのか」ということです。
現金は短期的には高い金利を提供しますが、今後5年から10年もの間、現在のような高金利が続くことはまずないでしょう。預金の代わりに債券を購入した場合、この水準の利回りを現金に比べて長い期間得ることができます。預金では、この高い利回りを(多少リスクが高くても)長期的に確保する大きなチャンスを逃してしまう可能性があります。今、債券を購入することで、魅力的なリターンを享受できる可能性があり、特に利下げが実施されたり、不況が訪れる場合にはさらに大きな収益が期待できます。
現在は、より詳細に債券市場を分析することで発見できる投資機会が多く存在しています。例えば、投資する年限の精緻化です。3~4年の比較的短い満期の債券は検討に値します。そのような年限のの国債に上乗せ金利が付く3~4年程度の満期の社債は、足元米ドル建てで7%近い利回りを提供しています。多少の信用リスクを取る必要はありますが、現在の環境では、財務安全性が高く、かつ利回りが高い企業が発行する債券への投資を行うことが可能であり、金利の方向性からも影響を受けにくいこともプラスといえます。
金利上昇はどれくらいのスピードで借り手に打撃を与えるのでしょうか?
これまでのところ、借入コストの上昇が世界経済を腰折れさせていないという事実は、市場参加者を驚かせています。現在我々は、このサプライズを構成する2つのストーリーがあると考えます。
1つ目のストーリーは、米国の健全性です。米国では、企業の資金調達のほとんどが債券市場を通じて行われており、企業は既に2021年時点の低金利環境の時代に、比較的長期の借り入れが確保できています。企業はしばらくの間より高いコストでの借り換えを心配する必要がなく、このため、金利上昇による企業の資金調達への影響が今のところ比較的限定的となっています。同様に、一般的に米国の家計も30年等の長期で住宅ローンを組む傾向があり、家計においても金利上昇の影響は最小限にとどまっています。
しかしながら、他の国では話が違ってきており、もう1つのストーリーが登場します。例えば、住宅ローンの期間が大幅に短い英国では、多くの家計ですでに、はるかに高い金利で借り換えなければならない状況となっています。そして、2019年と2021年の超低金利で借り入れた人々も、借り換えの期限がすぐに迫っています。
ユーロ圏については、住宅ローンの借り換えの影響は少ないものの、問題は企業側で、借り入れの多くが変動金利の銀行ローンとなっています。つまり、欧州企業は金利上昇の影響を免れず、このことはすでに経済データに表れており、欧州経済は苦しんでいます。
それに比べて、米国は企業や家計に対する金利上昇の影響が小さく、これが米国経済がはるかに好調な理由と考えられます。
米国の長期債利回りがさらに上昇する可能性はあるのでしょうか?
この2ヶ月間の動きを見ると、この質問に「ノー」と答えるのは難しい状況です。経済データを見れば、米国経済の底堅さは明らかに印象的です。
ここで考えるべき重要な点は、パンデミックによる行動制限の期間に蓄積された余剰貯蓄の水準です。これらの貯蓄が米国経済の強さに大きく貢献していることは明らかです。現在、この貯蓄がどの程度「余剰」な水準にあるかは不透明ですが、貯蓄が長期的に着実に減少していることは確かであり、この「余剰貯蓄」によるサポートが今後薄れていくことは間違いないでしょう。
しかし、最近、新たに考慮すべき要因が出てきました。それは米国の債務水準です。米国では今後10年間で、債務残高の対GDP比が120%に達すると予想されています。新型コロナ危機前と比較して急速に上昇しており、足元では対GDP比で100%近くとなっています。財政赤字は今年8%程度で推移していて、これは通常、景気後退局面で、失業率が7%程度の時にしか見られない水準ですが、現在の失業率は3.5%に留まっています。
つまり、米国では今のところ、金利上昇で苦しんでいるのは企業や家計ではなく、政府だけなのです。米国政府は悪循環に陥っています。短期的に多額の借金を借り換えなければならず、金利上昇によって利払いが増加し、赤字がさらに増える結果となっています。市場はこのことを理解し始めており、長期的な財政悪化に対して投資家が求めるリスクプレミアムが、長期債利回り上昇をという形で現れ始めています。
このような理由から、米国債のイールドカーブ(利回り曲線)はスティープ化(長期債利回りの上昇幅が短期債利回りの上昇幅を上回る)しています。これは、米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げサイクルが終盤に差し掛かっていることで短期債利回りの上昇の勢いが弱まってきた一方、長期債の利回りの上昇を抑える材料が見当たらないためです。この状況はしばらく続く可能性があるとみられます。
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