ドルスマイル理論とは?新たな市場環境でも有効なのか

ドル・スマイル理論では、米国が米国以外の国々よりも先に景気後退入りした場合、米ドル安が進むとされています。本レポートでは、現在における同理論の有効性について検証します。

キャロライン・ハウドリル
ポートフォリオマネジャー

ジョーベン・リー
マルチアセット・ストラテジスト

経済に関する「良いニュース」は、インフレ動向が注視され、金融政策の正常化が行われた2022年のような環境下では、市場にとっては「悪いニュース」となる可能性があります。

このような環境下では、株式と債券がともに下落する場合があり、投資先が限定的となります。米ドルは、2022年に金利上昇とグロース懸念から恩恵を受けたように、ユニークな役割を果たす可能性があります。

2023年、グロースが不透明でインフレ懸念は後退という環境下、投資家にとっては悩ましい状況となっています。

市場の注目点がシフトする中、去年の勝ち組であった米ドルのポートフォリオにおける役割を再考したいと思います。

ドル・スマイル理論とは?
まず、ドル・スマイル理論を反映した動きとなった2022年の米ドルの動きを見てみましょう。

ドル・スマイル理論は、スティーブン・ジェンによって20年ほど前に考案され、二つの対極のシナリオにおいて、米ドルは他国の通貨をアウトパフォームするという内容です。

1. 米国経済が堅調で、市場が楽観的であるとき

2. 世界経済が軟調で、リスク選好度が低いとき(リスクオフ環境)

図表1:ドル・スマイル理論

同理論では、米国経済が堅調でGDP成長率が高い時、投資家は米ドル資産への投資を積極的に行うことから、米ドル上昇をもたらすとされます。反対に、リスクオフの環境では、安全資産とされる米ドルなどの需要が上昇することから、米ドルが上昇します。

この二つの対極のシナリオの中間において、米国株式市場が他地域の株式市場に比べて軟調である場合、よりパフォーマンスの良い資産に資金が流れるため、米ドルは下落します。

米ドルのコストは?
今後、米国が米国以外の国々よりも早く景気後退入りをする可能性があります。過去、米国が景気後退入りすると、続いて米国以外の国々も景気後退入りするのが通常の流れでした。

世界の景気後退局面では、米ドルは通常どのようなパフォーマンスとなるのでしょう?我々のモデルであるグローバル・ウェーブ・モデルで定義される景気後退の期間における米ドル指数のリターンを算出します。

グローバル・ウェーブ・モデルは、7つの均等ウェイトの構成要素をzスコアに標準化して算出されます。7つの構成要素には、産業信用指標、消費者景況感、設備稼働率、失業率、生産者物価、クレジット・スプレッド、業績修正割合が含まれます。グローバル・ウェーブ・モデルはGDP比重の30ヵ国以上が考慮され、最終的にグローバル・ウェーブ指標は50を基準値として変動するインデックスに算出されます。

図表2:世界の景気後退局面における米ドルのリターン

では、米国が景気後退局面にあり、他の国はまだ景気後退局面に入っていない状況ではどうでしょうか?

米国が景気後退局面にあり、米国以外の国々が景気後退局面にない場合、および米国以外の国々も景気後退局面にある場合のドルインデックスの平均リターンを算出しました。

図表3:サイクルによって米ドルのパフォーマンスは大きく異なる


ここから、以下2つのことが示唆されます。

1.米国が米国以外の国々より先に景気後退に入った場合、投資家はよりパフォーマンスの良い資産に投資するため、米ドル安が進む。

2.米国と米国以外の国々がともに景気後退にある場合、米ドルは上昇する。世界のリスクオフ環境下では、投資家は、安全資産とされる米ドルに積極的に投資し、その需要が米ドルを押し上げる。

ポートフォリオにおける米ドルの役割:今後どうすべきか?
2022年株式、債券、共に下落する結果となりました。利上げによる金融政策の正常化を背景に、いわゆる60/40のポートフォリオでは、債券を保有することによる分散効果を得ることがほとんどできませんでした。

全ての投資ユニバースの中でプラスのリターンとなったのは、限られた一部の資産のみとなり、米ドルはその一つでした。投資家は米ドルを究極の安全資産として保有しました。通貨バスケットの中でも米ドルが最も上昇し、他に代替となる資産を見つけることが困難な状況にありました。

保有するコストに対するヘッジの効率性を考えるのに有効な我々のヘッジ・モニターは、これを裏付けています。米ドルの通貨ペア(米ドルをロングし、他の通貨をショートするポジション)は、伝統的にヘッジ手段とされてきた国債や金などの資産よりも、優れていることが示唆されています。

図表4:米ドルはキャリーがプラスで有効なヘッジ手段

ドル・スマイル理論は、現在の新しい環境の中でも有効と考えます。シュローダーのエコノミストは、2023年後半に米国は米国以外の国々よりも早く景気後退に入ると考えています。このため、米国以外の国々が景気後退に入るまで、米ドルは低迷する可能性があります。米国がいち早く景気後退に入った場合、金利動向、安全資産の状況、そして流動性が注視すべきより優れた指標となると考えます。

その後、米国以外の国々が景気後退入りをした際は、米ドルのリターンはどうなるのでしょうか?世界の景気後退局面における米ドルインデックスのリターンの平均を分析したところ、米国経済が米国以外の経済をアウトパフォームするシナリオにおいて、米ドルが最も堅調となることが示されました。

図表5:米国経済が米国以外の国々をアウトパフォームする状況において米ドルはより堅調に


結論
相対感が重要という言葉につきます。米国の経済成長vs米国以外の経済成長という相対感が、米ドルのアウトパフォーマンスの鍵となります。足元では、景気モデルは世界の景気減速を示しており、米国市場はそれ以外の国々をアンダーパフォームすることが見込まれます。従って、米ドル投資のメリットを分析する際は、金融政策や流動性状況などに注視すべきと考えます。

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組織名
シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
ホームページ
https://www.schroders.com/ja-jp/jp/asset-management/
代表者
黒瀬 憲昭
資本金
49,000 万円
上場
非上場
所在地
〒100-0005 東京都千代田区丸の内一丁目8番3号丸の内トラストタワー本館21 階
連絡先
03-5293-1500

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