米国経済が景気後退に陥る可能性が高いと考える3つの理由

米連邦準備制度理事会(FRB)の物価安定に対する姿勢から、ソフトランディング(景気後退を招くことなく、過熱した景気を穏やかに冷やすこと)となる可能性は低いと考えられます。


キース・ウェイド
チーフ・エコノミスト
ストラテジスト


FRBは、政策金利を50ベーシスポイント(bp)引き上げ、誘導目標金利を0.75%~1.00%とすることを決定しました。米国における消費者物価の年間上昇率は過去40年間で最大となっており、米国経済は、景気後退と物価安定のトレードオフに直面しています。
市場関係者は、FRBの声明、特に経済情勢に対する発言に注目しています。
この点に関して、市場関係者は、今後複数回の利上げが予想される中で、米連邦公開市場委員会(FOMC)金融政策委員会が予想通りに利上げを行わないサインを探すことになると考えます。


景気後退 ― 本当にトレードオフは必要なのか?
これに対して、シュローダーエコノミストチーム(以下、エコノミストチーム)は、さらなる金融引き締めを見込んでいます。「ソフトランディング」となることが望ましいですが、エコノミストチームの分析は、景気後退と物価上昇率の低下はトレードオフとなる可能性が高いことを示唆しています。

足元では、賃金および物価を落ち着かせるために、FRBには、需給バランスを改善させる政策対応が迫られています。ソフトランディングを達成するためには、GDPの減少と失業率の急速な上昇を伴う景気後退局面に移行するのではなく、経済成長率を緩やかに減速させる必要があります。
しかし、これを実現することは、理論で説明するより困難です。
50bpの政策金利引き上げは、2000年以降最大の引き上げ幅です。しかし、フェデラル・ファンド金利は依然として、多くのFOMCメンバーが中立な金融政策と整合性がとれていると考える「均衡」金利よりも低い水準に留まっています。
過去を遡ると、米国経済は1980年代と1990年代において、昨今と類似する物価上昇を経験した後に景気後退局面に移行しました。これらの期間においてもソフトランディングに関する議論は繰り返し行われましたが、実現には至りませんでした。

米国経済が景気後退に陥る可能性が高いと考える背景には3つの理由があります。

1つ目は、インフレーションが定常化してきたことです。労働市場がタイト化しており、物価上昇圧力が広範に浸透しています。特に、インフレに「粘着性があること(物価は徐々に変動し、沈静化するまでかなりの時間を要するという性質)」は懸念点です。この性質により、賃金上昇を通じてさらなる物価上昇が起こるという「セカンド・ラウンド・エフェクト」が発生する可能性があります。
その結果、高い物価上昇率を物価目標水準まで軌道修正するという中央銀行の役割は、より困難になります。需給バランスを調整するためには、景気後退という代償を払って、さらなる金融引き締めを実施する必要があります。

2つ目は、金融政策が実体経済に影響を及ぼすまでには時間がかかるということです。過去40年間のインフレーション抑制につながったとされる「マネタリズム(貨幣供給量が実体経済に影響を及ぼすという思想)」の金融政策の根拠となる仮説を提唱したミルトン・フリードマンによると、金融政策が効力を発揮するまでに、長期ならびに不確定の時間差が生じます。また、消費者信頼感も重要な役割があります。例えば、インフレーションに対する懸念は自然に消費者に浸透し、消費支出の減少に繋がります。

中央銀行のモデルは、政策当局に対して、金融政策が効力を発揮するまでに必要なおおまかな期間を示唆することはできますが、正確に期間を言い当てられるわけではありません。どの程度の金融引き締めが必要なのか判断することは困難であり、変化がみられるまで政策当局は利上げを実施する衝動に駆られます。これは1980年代と1990年代において、実際に見られた現象です。

3つ目は、世界情勢を受け、金融政策の決断がより複雑なものになっているということです。
- インフレーションへの対応策として、米国のみならず世界中で金融引き締めが行われています。その結果、世界貿易量や外需の減少が見込まれます。
- 欧州域内の経済活動はウクライナ情勢によって重大な影響を受け、さらにはロシア産エネルギーの禁輸を試みています。コモディティ価格の上昇は、消費税増税のように、世界中で実質所得および消費支出の減少を引き起こします。
- 中国は金融引き締め政策への転換を図っていないものの、「ゼロコロナ」政策は世界経済の減速をもたらします。
- 新型コロナウイルス感染拡大に伴うロックダウン期間中の大規模な財政出動の影響もあり、今後の財政政策は緊縮方向へと移行します。

まとめると、ソフトランディングの達成は非常にチャレンジングなものであると考えられます。金利は均衡金利より低い水準で推移していたため、金利上昇は今後も続くと思われます。均衡金利は、経済がフル稼働の状態の時、過度な景気刺激(過度の物価上昇圧力をもたらす可能性がある)もしくは不十分な景気刺激(景気減速とデフレーションのリスクをもたらす可能性がある)を回避するために求められる水準です。 

エコノミストチームは、今後さらに6回の連続利上げが行われ、フェデラル・ファンド金利は本年末~来年前半に3.0%近傍と予測しています(2022年5月20日時点)。
足元の経済への逆風を考慮すると、米国経済の減速をもたらすに十分な水準となる可能性があり、物価上昇は落ち着く一方で、米国経済は景気後退に陥る可能性が高いと考えられます。



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シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
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上場
非上場
所在地
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