インフレと金利上昇という2重の脅威に直面しても、不動産デットが価格弾力性を有する理由

安定したインカム収入を求める投資家は、インフレと金利上昇という2重の脅威に直面しています。本稿では、不動産デットがこの2重の脅威に対して有効な資産クラスである理由を説明します。

ナタリー・ハワード 
ヘッド・オブ・不動産デット、シュローダー・キャピタル


金利上昇の見通しは、長期にわたり、投資家にとってホットな話題となっています。米国、欧州、英国にわたり、インフレ率は数十年ぶりの高水準まで急上昇しており、世界中の投資家の間ではインフレに関する話題でもちきりです。
1月に米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、高水準にあるインフレ抑制のために、金融当局ができることはすべて行う、という方針を明確にして以降、市場は一連の利上げに備えています。

利上げに加え、米国、英国、欧州はいずれも量的緩和策のテーパリング(縮小)に向かっています。これは、近年の超低金利環境からの、金融政策の根本的な転換を意味します。
金利上昇とインフレは、債券市場にとっては言うまでもなく懸念事項であり、2022年の年初は債券にとって記録的に困難な運用環境となりました。

インフレと金利上昇に直面する中で、投資家が真に「安全なインカム収入」を得るためにはどうすべきか、という課題は非常に困難を極めています。本稿では、なぜ不動産デットがその課題の一助となりうるのかを説明していきます。


インフレ率の上昇が、不動産デットにどのような影響を与えるのか?
インフレ率の上昇と金利の上昇は、不動産に別々の、しかし関連した課題をもたらしています。このうち、最初のインフレ率の上昇に関しては、不動産はインフレに強い資産クラスであると言われています。原資産である不動産の価値は、インフレに対する自然なヘッジとして機能します。

商業用不動産のリース貸料は、インフレ率上昇による直接的な影響を受け、賃料が上昇するのが一般的であり、長期的なインフレ率と強い相関があります。原資産が生み出すキャッシュフローの関数で資産価値は決まるため、インフレ率と賃料収入の上昇に伴って、資産価値は増加します。


金利の上昇は、不動産デットにどのような影響を与えるのか?
金利引き締め環境に対抗するための重要なポイントの1つとして、不動産デットが有する柔軟性があげられます。不動産デットの資金調達には固定金利と変動金利がありますが、変動金利は金利上昇時に投資家のリターンを保護する機会を提供します。

変動金利は、欧州のEURIBORや英国のSoniaなどのリスクフリーレートを上回るマージンを提供し、金利上昇環境下では、変動金利ではない、柔軟性に欠ける債券と比較すると魅力的です。

一方で、この柔軟性が、不動産ローンの借手側のコストの管理が難しくなることを意味するわけではありません。
不動産ローンの借手が変動金利を利用する場合、ローン金利に上限を設定することが可能です。これは、持続的な金利上昇時において、借手の保護につながります。

もちろん、資産担保型債券の保有者にとっては、バリュエーションと金利上昇が与える影響も重要な懸念事項です。しかし、その影響はセクターによって大きく異なります。今回の市場サイクルでは、資金調達コストの低下に伴い、不動産のバリュエーションが上昇しています。しかし過去10年間では、物流施設が史上最高値を更新する一方で、小売業などのセクターでは大きく下落するなど、セクター毎の大幅な乖離が見られました。
投資家は、資金調達コストの上昇に伴い、すべてのセクターにおいて、裏付けとなる不動産の価値への潜在的な影響を理解する必要があるでしょう。その際には、各セクターで起きている構造的な変化と重ね合わせて考える必要があります。
重要なのは、市場が穏やかな環境にある時に借入環境に惑わされず、市場の風向きが変わったときに、今後何が起こり得るかを考えることです。


好機となる投資機会をどのように生み出すか
私たちは、持続可能な利回りでローンの引受を行っています。即ち、現時点のバリュエーションに基づくのではなく、長期的な評価指標に基づいて引受の検討を行います。そのため、資産の原資産価値が下落した場合でも、当社の融資が継続できるように、相応のマージンを確保しています。

当社では、多くの時間をかけて、エクジット時(ローン終了時)の予想ポジションの分析を行います。ほとんどのケースでローンがデフォルトとなっているリファイナンス時のリスクを勘案し、引受時には、借手の資金調達コストの上昇を想定しておきます。
また、リファイナンス時のポジションが貸手にとって魅力的なものになるよう、償却(ローンの返済)または資産価値の上昇によって、融資期間中にレバレッジが減少するようモデルを組みます。また、借手のインタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)が非常に低く、金利が上昇した場合に、借手が取引案件に対してさらに資本注入できるように条件を設定します。

最後に、私たちは常に取引において相応のエクイティ・クッションを確保しています。当社のローンは常に、長期にわたり一緒に共働してきた経験豊富なスポンサーからの多額の出資を受け、保守的なLTV(借入比率)を設定しています。
借手の将来性を評価する際には、たとえ借手自身に慎重な姿勢が不足していたとしても、貸手となる私たちは健全な懐疑心を持つことが重要と考えます。
借手側の前提に基づく賃料の上昇をベースに多くの事業計画がたてられているため、当社では、借手の事業計画を慎重に検討します。私たちは、資金調達コストが全体的に上昇するとの仮定の元、裏付けとなるテナントがコスト上昇に直面する事態を想定するなど、非常に保守的な前提条件の設定を徹底しています。


冷静な判断が必要
不動産デット投資において重要なことは、冷静に物事を考えることです。不動産デットの変動金利が有する側面は投資家にとって魅力的ですが、資金調達コストの上昇はすべての資産に影響を与えるため、投資家はその意味を理解する必要があります。

当社では、金利上昇時におけるエグジットを想定した保守的な引受を行います。このようにして、多くの債券代替商品が有する金利リスクに晒されることなく、投資家に確実なインカム収入を提供する取引を設計することができるのです。




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組織名
シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
ホームページ
https://www.schroders.com/ja-jp/jp/asset-management/
代表者
黒瀬 憲昭
資本金
49,000 万円
上場
非上場
所在地
〒100-0005 東京都千代田区丸の内一丁目8番3号丸の内トラストタワー本館21 階
連絡先
03-5293-1500

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