ESG基準を組み入れた役員報酬の決定や報酬プランの調整、株主決議、気候変動対策に関する投票、ダイバーシティや監査役任期についてなどのテーマで株主総会シーズンを総括します。
ユーシフ・エビード
コーポレートガバナンス・アナリスト
ピッパ・オライリィ
コーポレートガバナンス・アナリスト
新型コロナウイルスのパンデミックを背景に、年次株主総会シーズンは役員報酬に関してある意味難しい判断が迫られました。
また、業績連動型報酬にESG基準を盛り込むこと、気候変動対策に関する株主提案や企業の気候変動問題への対応策について株主総会で投票を呼び掛ける、いわゆる「セイ・オン・クライメット(Say on Climate)」投票を支持する判断もありました。
監査役任期に関するシュローダーの議決権行使方針も強固なものとなりました。
1. 新型コロナウイルスの影響に伴う役員報酬の調整
新型コロナウイルスの感染拡大によって2020年初めに設定したターゲットの意味が薄らぎ、あるいは達成不可能になったことから、多くの企業が役員報酬のプランを過去に遡って調整しました。
そこで当社は、政府から受けている支援策、株価の推移、配当の状況を考慮した上で給与・賞与パッケージをケースバイケースで評価し、また、賞与支払い基準としての業績の取り扱いを評価しました。
例えば、イタリアの金融サービス会社Cervedについては、提案された調整後の役員報酬プランに賛成票を投じました。同社はこの他にも、透明性の強化やCEO報酬比率の開示、SDGsとの明確な紐付けを含め、長期的なインセンティブプランに関していくつかの前向きな改定を行っています。パンデミックの影響を踏まえた賞与支給の判断は妥当であり、同社は賞与の大部分について株式で支給することを選択し、これは株主の利益に沿ったものとなっています。
当社の目的は、役員報酬が業績と有益に連動していること、コロナ禍にありながらも比較的首尾良く経営手腕を発揮した経営陣に報いるものであることを確認することです。
米国においては業績条件のない完全時間ベースの長期株式報酬プランの提案が企業の長年の慣習であり、平時であれば当社はこうした提案に反対票を投じることになります。
しかしながら、パンデミックによって長期的な目標の設定が困難になっていることを踏まえ、今年は例外を認めることとしました。翌年以降にインセンティブにおける業績比率を高める方針が説明された場合に限り、50%を時間ベースとする長期プランに賛成しました。
2. 業績連動型報酬におけるESG基準
業績評価に用いる測定基準を見直し、企業のサステナビリティ戦略と紐付く挑戦的で測定可能な目標を設定するよう、企業への圧力が高まっています。これまでは、多くの企業が文化や安全衛生などの社会的目標を短期的賞与の支給条件に含めていました。
最近の議論の対象は業績期間を3年以上とする長期的なインセンティブの支給条件に移っています。多くの企業が向こう10年、20年または30年内にネット・ゼロ目標の達成を目指すと公表しており、現在と将来の経営陣にこの説明責任を課すことが当社の責務です。
今年はサステナビリティに関わる測定基準の導入が多く見受けられ、この動きは2022年も続くと考えられます。投資家である当社にとって重要な点は、測定基準が明確な重要業績評価指標(KPI)をベースにしていることと、戦略と紐付いていることです。
サステナビリティ基準の導入に関して模範例とされているのが、栄養素、健康、サステナブルリビングを軸に事業を展開するオランダのサイエンス企業DSMです。同社の年次賞与は50%が非財務の基準と紐付き、長期インセンティブプランの50%がScience Based Targets(SBT)イニシアチブに基づき認定されるエネルギー効率と温室効果ガス削減目標と紐付いています。当社は先日DSMと面会し、この測定基準の評価方法と、すでに公表されている2030年、2050年目標に基づく短期目標の設定方法の詳細について議論しました。
3. 株主提案
気候変動に関する株主提案に当社が投じた賛成票はこの1年で2倍に増加し、この傾向は今後も続くと予想されます。特に気候、人的資本管理、ダイバーシティ、生物多様性問題に関する株主提案への支持が増加しました。
米国においては、人種的平等の監査を要求する株主提案が増加しています。特に金融サービス会社で提案されることが多く、企業が非白人のステークホルダーや有色人種コミュニティに与えた負の影響について監査を求めるものです。
いずれのケースにおいても当社は、人的資本や、ダイバーシティとインクルージョンに関するレポートなどにおいて現状を分析し、監査の実施が現在のアプローチに残る不足点や改善点を特定し対処するのに有効であると判断した場合は提案を支持します。
4. セイ・オン・クライメット(Say on Climate)投票
“セイ・オン・クライメット(Say on Climate)”は年次株主総会の新たな議題です。これは経営陣から提案され、その企業の気候変動移行プランに対して株主が賛否を投票できます。
当社は年次株主総会の議題にこれらの決議が盛り込まれることを支持していますが、排出量削減目標が十分に挑戦的ではないと判断した場合は反対票を投じました。
5. ダイバーシティ
この問題については世界中で投資家による介入が広がっていますが、地域による基準の違いを認識する必要があります。例えば、当社はグローバルでは、すべての取締役会に少なくとも1人、女性を加えることを要求し、これに反する場合は指名委員会委員長または取締役会会長に反対票を投じます。
その一方で英国、米国、欧州などの多くの先進地域においては、取締役会におけるジェンダーダイバーシティ比率を20%以上にすることを求めます。また、日本をはじめ、伝統的に男性優位の市場においては、取締役の全員が男性である場合はより強硬な姿勢を取っています。
また、「ベスト・イン・クラス」と評価されている企業に対しては、当社の要求水準以上に取締役会のダイバーシティを改善させるよう働きかけています。その一例が香港の保険会社AIAグループです。同社会長にこの趣旨の書簡を送ったところ、同社は直後に新しい女性取締役を任命する声明を出しました。
2021年はジェンダーダイバーシティの取り組みの遅れを理由に反対票を投じた数が238票と、2020年の156票、2019年の27票と比べ最も多くなりました。
6. 監査役任期
2021年の当社議決権行使方針の大きな変更点の一つは、社外監査役の任期に関するガイドラインの導入です。
英国と欧州については少なくとも10年に1度、米国については20年に1度、社外監査役の交代または少なくとも入札を企業に求めています。これは、監査役の任期が長くなるとその独立性が損なわれることが多いため、適切な監視を行うためです。
この方針変更を受け、この件に関する反対票が増加しました。2021年は世界全体で監査役再選の14.8%に反対票を投じました。2020年は5.4%でした。
下図にシュローダーの全体および株主提案に関する議決権行使結果について過去3年の年別比較をまとめています。
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