法政大学法学部の林嶺那教授、東京大学大学院の森川想講師、創価大学の小島健准教授、千葉商科大学の鶴田まなみ専任講師の研究チームは、公務員と民間企業社員のリスク行動の違いについて分析しました。分析の結果、ばらつき(分散)によって定義されるリスクに関しては、公民の差は見いだされなかった一方で、公務員は低確率だが平均から大きく乖離した結果が生じるリスク(テールリスク)を特に避ける傾向があることが明らかになりました。本研究成果は、2026年3月1日付で行政学分野の主要な国際学術誌「Public Management Review」に掲載されました。
■研究のポイント
公務員は民間企業社員よりもリスク回避的であると一般に考えられてきたが、実証研究の結果は必ずしも一貫していない。
本研究は、先行研究の結果が一貫していない原因を、リスクの多面性に求めて、リスクを「結果のばらつき(分散リスク)」「結果の下振れ(ダウンサイドリスク)」「極端な結果(テールリスク)」の三つに分けて公民差を分析した。
個人属性を統計的に考慮すると、「分散リスク」と「ダウンサイドリスク」に対する態度については公民差が見いだされなかったが、公務員が「テールリスク」をより避ける傾向は維持された。
リスクに関する公民比較において、リスクの多面性を考慮する重要性が、本研究によって示された。
■研究内容・成果
公務員は民間企業社員に比べてリスク回避的であると一般に考えられてきました。しかし、これまでの実証研究の結果は、必ずしも一貫したものではありませんでした。
本研究では、こうした非一貫性の背景に「リスクの定義」があると考え、リスクを三つの側面に分けて分析しました。具体的には、結果のばらつきを示す「分散リスク」、期待より悪い結果が生じる可能性を示す「ダウンサイドリスク」、そして低確率ではあるものの極端な結果が生じうるという「テールリスク」です。
本研究は、日本の公務員500人と民間企業社員500人を対象に、金銭的インセンティブを伴う行動実験を用いてリスク行動を測定しました。その結果、公務員は民間企業社員と比べて、極端な結果を避ける傾向(テールリスク回避)が有意に強いことが明らかになりました。一方で、分散リスクやダウンサイドリスクに対する態度については、公共サービス動機付け(Public Service Motivation)などの個人属性を考慮すると、両者に有意な差は見いだされませんでした。
これらの結果は、公務員のリスク行動を理解するためには、単純に「リスクを嫌うかどうか」ではなく、どのような種類のリスクを避けるのかを区別して考える必要があることを示しています。また、本研究は、どのような種類のリスクを回避するべき業務なのか、あるいは積極的に引き受けるべき業務なのか、を検討した上で、公民間で適切な役割分担を設計する重要性を示唆しています。
図:3種類のリスク
【図の解説】
図:3種類のリスク
3つの図は、それぞれのリスクを視覚化したものである。X軸は期待される利得で、右に行くほど大きな利得を意味し、分布の高さはその結果が生じる確率を表す。一番上が「分散リスク」、中央が「ダウンサイドリスク」、一番下が「テールリスク」を意味し、実線の分布よりも点線の分布のほうが、各リスクが高い状態を示す。
【論文情報】
■雑誌名: Public Management Review
■論文タイトル: Variance Risk, Downside Risk, and Tail Risk: Comparing Risk Behaviours Among Public and Private Sector Employees
■著者: Reona Hayashi, So Morikawa, Takeshi Ojima, and Manami Tsuruta
■掲載日: 2026年3月1日
■DOI: 10.1080/14719037.2026.2636053
■URL:
https://doi.org/10.1080/14719037.2026.2636053
【研究者】
林 嶺那(法政大学法学部 教授、責任著者)
森川 想(東京大学大学院新領域創成科学研究科 講師)
小島 健(創価大学経済学部 准教授)
鶴田 まなみ(千葉商科大学総合政策学部 専任講師)
▼本件に関するお問い合わせ先
【研究内容に関するお問い合わせ先】
法政大学法学部 教授 林 嶺那
E-mail: reona@hosei.ac.jp
【取材に関するお問い合わせ先】
法政大学総長室広報課
TEL: 03-3264-9240
E-Mail: pr@adm.hosei.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
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