昭和大学(東京都品川区/学長:久光正)の谷亀高広講師(富士山麓自然・生物研究所)、鳥取大学の中秀司准教授(農学部 生命環境農学科)は、ヨーロッパに自生し、ハチを「性擬態」により騙して花粉を媒介させるランが、日本の在来種のハチをも騙し、花粉を送受粉させる現象を初めて確認しました。本研究では、ヨーロッパ地中海地域に自生するランが、遙か8,700 km先の日本に分布するハチをも騙す能力があることを初めて報告したもので、本研究によりランの多様化や、分布拡大戦略の一端を明らかにしました。
ラン科植物の多くは、花粉の媒介を昆虫に依存しています。種によって花粉媒介に対する方法が異なり、種によって蜜のような甘い香りや、腐敗したような臭気により昆虫を誘引し、花粉を昆虫に託します。
一方、昆虫のメスが使用する性フェロモンに化学構造が似た物質を放ち、オスを騙す「性擬態」により花粉を運ばせる種も知られています。このような生態を持つランの代表的なものに、ヨーロッパ地中海地域に自生するハナバチラン属(Ophrys)の仲間が知られています。
本研究では、このハナバチラン属の1種のOphrys fucifloraが、栽培下において、日本に生息するニッポンヒゲナガハナバチ(Eucera nipponensis)(図1a)のオスを誘引し、結実させたことを報告しています。
ニッポンヒゲナガハナバチのオスは、花に留まり、花弁に腹部先端をこすり付け、交尾を試みる行動を執拗に繰り返したことから(図1b)、O. fucifloraをメス蜂と認識し、強く惹きつけられたと考えられます。また、時として複数のオス蜂がひとつの花に群がる様子も観察されています(図1c)。さらに、オス蜂が花に留まっている時間は、最長で90分を超えることもありました。この行動は、日本に性擬態により花粉を媒介する種が存在せず、ランに騙された経験のないオス蜂が過剰に花に惹きつけられたために起こった現象と考えられます。Ophrys属植物は、自生地における環境変化が起こっても、結実率に変化がないことが報告されています(Bateman 2022)。これは、同一種であってもそれぞれの個体が作り出す芳香の成分が微妙に異なるため、騙す対象となっている昆虫の個体数が減少しても、別のターゲットを定め、すぐに新しい関係を構築できるためだと考えられてきました(Schatz et al. 2021)。
本研究において、O. fucifloraが自生地から遠く離れた場所でも性擬態を成立させたことから、Ophrys属植物は、新しい生育環境においても速やかに昆虫との関係を構築する能力を有し、それがヨーロッパ地域におけるOphrys属植物の多様化や、分布の拡大に寄与しているとの説を裏付けることになりました。
【論文情報】
・掲載誌:European Journal of Entomology
・論文名:Sexually deceptive pollination of the non-native Ophrys fuciflora (Orchidaceae) in Japan by the native bee Eucera nipponensis (Hymenoptera: Apidae)
・著者名:Takahiro YAGAME, Hideshi NAKA
・掲載日:2024年10月16日
・DOI:10.14411/eje.2024.037
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講師 谷亀 高広(やがめ たかひろ)
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鳥取大学 農学部 生命環境農学科
准教授 中 秀司(なか ひでし)
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