※2 2019年度の事故発生件数は0件になります。
また、氷雪による事故においてはソーラーパネルを支える架台の損傷を伴うことが多く、破損事故のうち、約9割を占めています。架台を適切に設計することや、雪かき等によって架台にかかる負担を減らすことが重要です。
[図5] 架台損傷の有無
2.事故事例 ~氷雪による太陽電池発電設備破損事故~
▌事例1 事故発生年月 2022年2月(関東地方)
【被害の状況】
当該太陽電池発電所において、積雪の影響によりソーラーパネル用架台が倒壊したため、破損事故になった。
【事故の原因】
当該太陽電池発電所において、発電量を確保するために特定エリアの除雪を優先したことにより、優先エリア外を中心に積雪沈降力の発生・解放が生じて架台の倒壊に至ったものと推定される。
▌事例2 事故発生年月 2023年3月(東北地方)
【被害の状況】
当該太陽電池発電所の運転中に地絡警報が発報され、現地調査の結果、ソーラーパネル及び架台の破損が確認されたため、破損事故になった。
【事故の原因】
当該太陽電池発電所において降り続いた雪が例年より多く、急激な積雪に除雪作業が追いつかず、架台に設計荷重を超える積雪荷重がかかったため、破損に至ったと推定される。
▌事例3 事故発生年月 2023年1月(中部地方)
【被害の状況】
当該太陽電池発電所において、大雪と強風の後、架台全体の倒壊及びソーラーパネルの落下が確認されたため、破損事故になった。
【事故の原因】
当該太陽電池発電所において、架台上部の設計基準を上回る50cmの積雪が発生し、更に強風の影響を受けて架台が倒壊したため、ソーラーパネルの落下に至ったものと推定される。
▌事例4 事故発生年月 2024年3月(東北地方)
【被害の状況】
当該太陽電池発電所のソーラーパネル架台が、積雪の影響により曲がり、破損事故になった。
【事故の原因】
当該ソーラーパネル上に積もった雪は逐次自然落下し、地面に堆積していたが、ある時点で堆積した雪の高さがソーラーパネル下部と同程度になり、それ以上ソーラーパネルから落下ができなくなったため、架台前方に積雪荷重を上回る湿った雪が堆積し、その重さで鋼製の架台がパネル前方へ曲がってしまったと推定される。
3.立入検査の結果
NITEでは2021年度より太陽電池発電所などを中心に電気事業法に基づく立入検査を実施しております。
2021年度は17事業場、2022年度は59事業場、2023年度は50事業場の太陽電池発電所への立入検査を実施し、結果は以下のようになりました。
▌3-1 改善必須事項
検査の結果、
法令に違反するため事業者の対応が必須とされた事項 になります。23事業場で指摘項目があり、項目毎の指摘件数は以下の表1の通りでした。
(1つの立入検査先で複数の指摘があった場合や、複数項目にかかる指摘については、それぞれの項目でカウントしています。)
表1 指摘項目まとめ※
※JIS、電気設備に関する技術基準を定める省令(電技省令)、及び電気設備の技術基準の解釈(電技解釈)については建設時の基準を適用。また、氷雪にかかる主な指摘項目は黄色ハイライト部分になります。
上記の指摘項目のうち、氷雪への備えとして以下のような指摘事例がありました。
垂直積雪量を適切に設定し、架台を設計しないと、積雪時に破損するリスクが大きくなります。 適切に見積もるようにしてください。(地域毎に定められている垂直積雪量(想定積雪量)が異なります。ご注意ください。)
改善必須事例:
氷雪対策に関する主な指摘事項は以下のとおり。
・架台強度計算に用いる垂直積雪量について、計算書は垂直積雪量を70cmとして計算しており、技術基準に適合しない。JIS C 8955:2017 6 c 計算式によっても160cm以上である。(発電用太陽電池設備に関する技術基準を定める省令第4条)
・平常時、事故時、その他異常時における設備の操作手順及び運転方法が定められていなかった。(保安規程の遵守を命じる改善指示)
・杭柱のフランジが変形しており、ボルトの締結が正しく施工されていないため、接合部の安全性が確認できない。 (JIS C 8955:2004での該当箇所:8.3 部材の接合)
積雪の状況によっては、フランジの接合部から破断する場合もあります。
[図6] 接続部の破断
▌3-2 改善推奨事項
設備設置後の基準改訂により、
対応が必須ではないものの、改善を推奨される事項 として指摘されたものになります。49事業場で指摘があり、項目毎の指摘件数は以下の表2の通りでした。
(1つの立入検査先で複数の指摘があった場合や、複数項目にかかる指摘については、それぞれの項目でカウントしております。)
表2 改善推奨事項まとめ※
※JIS、電気設備に関する技術基準を定める省令(電技省令)、及び電気設備の技術基準の解釈(電技解釈)については建設時の基準を適用。また、氷雪にかかる主な指摘項目は黄色ハイライト部分になります。
上記の改善推奨事項のうち、氷雪への備えとしては以下のような指摘事例がありました。
垂直積雪量を適切に設定し、架台を設計しないと、積雪時に破損するリスクが大きくなります。適切に見積もるようにしてください。
(地域毎に定められている垂直積雪量(想定積雪量)が異なります。ご注意ください。)
改善推奨事例:
氷雪対策に関する主な指摘は以下のとおり。
・垂直積雪量が JIS C 8955:2004(16)式から求めた値よりも過少に評価されているため、設計荷重(積雪荷重)の妥当性が確認できない。
・構造計算書において、設置場所の地方自治体が求める値に対して、垂直積雪量が過小に見積もられており、安全性が確認できない。(JIS C 8955:2004での該当箇所:6.積雪荷重)
・構造計算書において検討すべき荷重の組合せがされていない。(JIS C 8955:2004 での該当箇所:6.積雪荷重、等 )その他、JIS C 8955:20046.積雪荷重に関連して、以下の様な指摘がありました。
・各部材に生じる応力が許容応力度以下であるか確認できない。
・各接合部の安全性が確認できない。
・基礎の安全性が確認できない。
[図7] 架台破損リスクのイメージ
4.事故を防ぐためのポイント
事故を未然に防ぐために
未然防止に有効と考えられる対策を以下に示します。
新規設置時や再築時においては、
地域の気象条件に応じて、要求事項を満たした設計 を行うようにしてください。
また積雪による太陽電池発電設備の破損事故を防ぐには、ソーラーパネルや架台が破損しないよう
定期的な巡視点検 や
早い段階での除雪を行うことが大事です。 また積雪が予想される場合、保安業務を行っている電気主任技術者等との事前相談も重要です。
○特に積雪が多い地域においては、設置時から対策をしてください。
・積雪量の多い地域ではJISやガイドライン等に従い、
気象条件(要求事項) に応じた架台の設計、設置を行う。
(地域毎に定められている想定積雪量が異なります。ご注意ください。)
・積雪がソーラーパネルから落ちやすくなるようなパネル傾斜角の設計(図8)。
・パネル軒先に荷重が集中することを軽減するため、パネルから落ちた雪が軒先まで達しないような架台の高さの設計を施す。
[図8] パネル傾斜角、架台高さの増加イメージ
○点検・除雪の強化
・除雪計画の作成やマニュアル化を行い、月間・週間天気予報や発電所の監視結果などを参考に、架台やソーラーパネル及びパネルの軒下、接合部、現地への通路も含め、予防点検や除雪を行う。
・ソーラーパネルを固定する金具や、架台の接合部のボルトを点検し、緩んでいないことを確認する。
・構内の地形や周辺環境を確認し、雪がたまりやすい箇所を重点的に対策する。
・冬期は除雪機材を常備する、もしくは優先して実施してもらえるよう除雪業者と契約する。
・既に大雪が発生している地域では、(可能な範囲で)積雪後の巡視や除雪等を強化する。
事故発生後に実施された点検・除雪強化の例
① 監視カメラを設置し、積雪量を監視。
② 現地確認を増やした(監視カメラの設置だけではレンズに雪が付着すると映像が確認できない場合があるため)。
③ 積雪高さが分かるようにスケールを設置し、基準積雪量に達した際、除雪を実施するようにした。
④ 除雪作業を優先して実施してもらえるよう除雪業者と契約。
⑤ 自社の社員に小型重機の資格を取得させ、自ら除雪作業できるようにした。
⑥ モジュール面を除雪するとモジュール面に傷がつくため、モジュール上面の専用除雪機を導入。
⑦ 除雪計画を作成し運用。
⑧ 冬期は除雪車を常備。
⑨ 除雪の予算をあらかじめ組む。
・対策を行わない場合、堆積した積雪等の荷重に耐えられず破損する可能性があります。(図9)
[図9] 積雪により太陽電池発電設備が損壊するイメージ※
出典:積雪による太陽電池発電設備の損壊事故防止について
(中部近畿産業保安監督部近畿支部)
※当該プレスリリースにおいては、太陽電池モジュールのことはソーラーパネルと表記しています。
(参考リンク)
※積雪による太陽電池発電設備の損壊事故防止について(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/oshirase/2021/12/20211201-1.html
※積雪による太陽電池発電設備の損壊事故防止について(中部近畿産業保安監督部近畿支部)
https://www.safety-kinki.meti.go.jp/electric/syobun/2022/chuikanki-solar-snow.html
※2024年度冬季の自然災害に備えた電気設備の保安管理の徹底について(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/oshirase/2024/10/20241030-2.html
参考情報
〇詳報公表システムについて
詳報公表システムは、電気事業法に基づく電気工作物に関する全国の事故情報(詳報)が一元化された国内初のデータベースです。本システムは、電気事業者をはじめ、どなたでもご自由にお使いいただけます。事故情報を条件やキーワードで簡単に検索することができ、抽出されたデータはCSVファイルとしてダウンロードすることも可能です。
詳報公表システム >>
https://www.nite.go.jp/gcet/tso/kohyo.html
[図10] 詳報公表システム概要
〇NITE 電力安全センターについて
NITE電力安全センターは、経済産業省(原子力発電設備等以外を所掌)からの要請を受け、電気保安行政(電気工作物の工事、維持及び運用における安全を確保するため行政活動)を技術面から支援するために、2020年5月、電気保安業務の専従組織として発足しました。現在、NITEがこれまで培ってきた知識や経験を活用し、経済産業省や関係団体と連携しながら、電気保安の維持・向上に資する様々な業務に取り組んでいます。
NITE電力安全センターの業務紹介 >>>
https://www.nite.go.jp/gcet/tso/index.html