国内初、IOWN APNによるフルリモートプロダクション環境を実現 ~TBSとNTTが共同で、離れた撮影現場に制作設備を持ち込まない映像プロダクションDXを実証~

日本電信電話株式会社

発表のポイント:
  • スタジアムやアリーナ等でのライブイベントの映像制作において中継車や制作スタッフの現地派遣を不要とするフルリモートプロダクションを実証。
  • フルリモートプロダクションに必要な、複数カメラの大容量映像伝送、リアルタイムの遠隔カメラコントロール、および遠隔拠点の映像機器間のPTP時刻同期を、大容量・低遅延・ゆらぎなしのAPNによって実現。
  • 放送各社がめざすカメラ台数・中継距離をカバーするフルリモートプロダクションを、国内で初めて地上波生放送番組の映像で全国規模のキー局であるTBSと共同で実施。また台湾の通信事業者である中華電信と連携して、国際APN回線で3000km先と接続して実証。
 日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)と株式会社TBSテレビ(本社:東京都港区、代表取締役社長:龍宝 正峰、以下「TBS」 )は、両社の資本業務提携に基づく共同事業の一環として、映像プロダクションの効率化と高度化に向けて、制作拠点と撮影現場をIOWNオールフォトニクス・ネットワーク(以下、「APN」)(※1)(※2)で接続するリモートプロダクション環境の実現に成功しました。
 なお本取り組みは、2024年11月25日~29日に開催されるNTT R&D FORUM 2024 ―IOWN INTEGRAL(※3)に展示予定です。

1.背景
 映像制作において、撮影現場と制作拠点をネットワークで接続し制作を行う手法であるリモートプロダクション等の映像プロダクションDXは、中継車で多くの機器を現地に用意し、多くのスタッフを現地に派遣する必要があるという業務効率化の課題、さらには人口減少による映像系技術者数の不足といった社会課題の解決にも寄与することが期待されており、実現に向け、映像制作装置や技術の標準化や集約化が進んでいます。一方で、以下のような課題も存在しています。
  • 従来の小容量のネットワークでは、撮影場所から映像制作を実施するリモート制作拠点に向けて、複数のカメラ映像を大容量で同時に伝送することができない
  • 従来の遅延の大きいネットワークでは、映像制作を行う拠点から遠く離れた撮影場所に向けて、カメラの制御信号(タリー等)や、インカムの音声情報を高品質かつリアルタイムに送ることができず、撮影者と制作者の意思疎通を図るコミュニケーションが円滑に行えない
  • 従来のゆらぎの多いネットワークでは、安定した通信環境を維持することができないため、スイッチャーやモニタ、カメラなどがそれぞれ離れた場所に設置されていると、正常にPTP(※4)等の時刻同期をとることができず、映像伝送を維持できない
2.取り組みの概要
 本取り組みでは、実際の放送局であるTBSの赤坂スタジオ(東京都港区)、スポーツイベントを開催しているスタジアム(埼玉県さいたま市)、3000km離れた台湾の中華電信股份有限公司(以下、「中華電信」)の3拠点の映像を、東京都蔵前の制作プライベートクラウドを介して、大容量・低遅延・ゆらぎなしの特徴を持つAPNで接続しました。NTT武蔵野研究開発センタ内にコントロールパネルにてスイッチング等の映像制作ができる環境を構築し、APNで各撮影場所を接続することで、大規模なフルリモートプロダクションが可能であることを実証しました。

 映像はTBSのほかにJリーグ(日本プロサッカーリーグ)より提供いただき、スイッチャー等の映像制作装置はソニーマーケティング株式会社より、映像伝送装置はNTTイノベーティブデバイス株式会社より、リモートカメラはパナソニック コネクト株式会社より提供いただき、クラウドCG制作等のサービスは株式会社朋栄のサービスを利用して、実験環境を構成しました。
 
図. APNを活用したリモートプロダクションのイメージ

3.技術のポイント
(1) 大容量
 拠点間で1波長あたり100Gbps以上の大容量の光伝送パスを通し、各撮影場所の複数台のカメラを同時にスイッチャーに接続。非圧縮の映像を大容量かつ低遅延で伝送することで、通常の映像制作と変わらない操作を実現。
(2) 低遅延
 映像制作に必要なカメラへの制御信号や、リモートでのカメラコントロールなどの制御情報を光伝送パスに送出し、物理限界に迫る超低遅延のリアルタイムコントロールを行い、現場で映像制作しているかのような環境を実現。
(3) ゆらぎなし
 ネットワーク遅延の時間変動がない遅延ゆらぎなしの伝送環境を用いて、国内の遠隔拠点や国外の接続に対しても、PTPの時刻同期信号をネットワーク上で透過させ、高品質な装置間の継続的な同期を実現。

4.本取り組みの成果
① リモート拠点のカメラ15台分のHD品質の非圧縮・大容量のリアルタイム映像伝送(放送規格SMPTE ST2110に準拠)によるリモートプロダクションに成功。リモートカメラコントロールを3000km離れた拠点間で約30msの伝搬遅延で実現。従来ネットワークでは難しかった生放送要求レベルの安定的な拠点装置間のPTPロック維持を、1μs未満のジッタにより実証。

② TBS(赤坂スタジオ)の情報番組「ひるおび」と連携して、生放送と同タイミングですべての映像を分岐。3000km離れた遠隔地(台湾)、スポーツイベントを開催しているスタジアム(埼玉スタジアム)の3拠点のカメラ映像を、制作プライベートクラウド(蔵前)を介して、NTT武蔵野研究開発センタ内の制作拠点と接続し、実際の放送局様により実フィールドでのフルリモートプロダクションが可能であることを実証。

5.各社の役割
本取り組みはNTTとTBSの共同施策として推進しました。

NTT:APNの回線環境等を提供
TBS:実証用の生放送番組などの映像コンテンツ提供

上記以外に、以下の映像コンテンツ提供および機材提供と技術協力をいただいています。
・Jリーグ(日本プロサッカーリーグ): J1リーグの公式戦の映像コンテンツ提供と技術協力
・ソニーマーケティング株式会社: スイッチャー等の映像制作装置の機材提供と技術協力
・NTTイノベーティブデバイス株式会社: 映像伝送装置等の機材提供と技術協力
・パナソニックコネクト株式会社: リモートカメラの機材提供と技術協力
・株式会社朋栄: クラウドCG制作サービスの提供と技術協力

6.今後の展開
 今後、本取り組みでの活用装置および活用技術をふまえた映像制作のフィールド実証を両社共同で進め、映像プロダクションDXの更なる推進による映像制作の質の向上、映像制作拠点や撮影現場へのアクセシビリティの確保に貢献いたします。
 また、この基盤であるAPNの技術を、放送局各局および各制作拠点に展開することで、映像制作業界全体の映像プロダクションDXの発展による映像制作の効率化と高度化をめざします。

【用語解説】
※1:IOWN
IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想とは、あらゆる情報を基に個と全体との最適化を図り、光を中心とした革新的技術を活用し、高速大容量通信ならびに膨大な計算リソースなどを提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤の構想です。詳しくは以下ホームページをご覧ください。
■IOWN構想とは?
https://www.rd.ntt/iown/index.html

※2:APN
APN(All-Photonics Network)とは、ネットワークから端末まで、すべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入し、これにより現在のエレクトロニクス(電子)ベースの技術では困難な、圧倒的な低消費電力、高品質・大容量、低遅延の伝送を実現します。詳しくは以下ホームページをご覧ください。
■オールフォトニクス・ネットワークとは
https://www.rd.ntt/iown/0002.html

※3:「NTT R&D FORUM 2024 ―IOWN INTEGRAL」公式サイト
https://www.rd.ntt/forum/2024/
 

※4:PTP
PTP(Precision Time Protocol)とは、ネットワーク上でマイクロ秒単位の時刻同期を行うためのプロトコル。ネットワーク上で極めて高精度な時刻同期が必要なシステムに用いられる。2002年にIEEEによって「IEEE 1588」として標準化され、さらに放送制作業界では 「SMPTE ST 2059-2」というプロファイルが使われる。

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