【東洋大学国際観光学部News Letter 2024 Vol.3】 新しい観光のパラダイム「ポストコロナにおける宿泊産業の潮流」
わが国における宿泊産業の歴史
江戸時代以前のわが国では、街道沿いの宿場に存在した宿と宗教的な旅に対応する宿坊、そして湯治目的の宿によって宿泊産業が形成されていました。19世紀後半の明治維新以降は、鉄道の発達などにより街道沿いの宿は衰退しましたが、移動の主役となった鉄道の駅を中心とした新しい街づくりとともに宿泊施設は増えていきます。そして、同時代に出現したホテルという新しい業態も少しずつ存在感を増していき、1960年代以降は急速に増加していきました。その背景としては、国際化の進展によるインバウンド増のみならず、生活の洋風化にホテルが合致したという面もあるでしょう。
宿泊産業の転換点
ポストコロナの潮流
2020年からのコロナ禍は、宿泊産業にももちろん甚大な影響を及ぼしました。実際、この期間に廃業してしまった施設も多いです。一方で、従前のスタイルとは異なるホテルや旅館が開業しはじめてもいます。例えば、それまでは存在しなかったような、1泊最低でも30万円を超えるようなホテルや、全室が離れ形式で、かつ1室に複数の露天風呂を備えた旅館など、超高価格帯のみにフォーカスした施設です。他にも、特定の「ライフスタイル」に合致していたり、コミュニケーションを重視していたりする施設も増えつつあります。つまり、多様化が進んでいるといえるでしょう。
海外では、メガ・ホテル・チェーンと呼ばれる巨大チェーンが複数ありますが、いずれも、多数のブランドを傘下に抱えています。これも多様化に合わせた変化で、お客様の消費経験が増えている状況では、この傾向がさらに進むことになるかもしれません。つまり、今後の宿泊施設は、これまで以上に市場を細分化して、きめ細やかな対応をすることが求められることになりそうです。
広大な敷地にわずか3室のヴィラが点在する「天空の森」
東洋大学国際観光学部 准教授
専門分野:ホスピタリティ・マネジメント、サービス・マネジメント、マーケティング
研究キーワード:ホスピタリティ産業、ホテル、料飲サービス、ブライダル、ラグジュアリー、ホテルチェーン、リゾート、百貨店