大腸がんの予測が可能となる腸内遺伝子マーカーに関する研究

学校法人藤田学園

~大腸がんの早期発見につながる新たな腸内検査の可能性~

藤田医科大学(愛知県豊明市)消化器内科学講座、医科プレ・プロバイオティクス講座は、腸内で、胆汁酸の代謝途中に生成される、長寿やアレルギー、がんなどの発症に対して抑制的効果を発揮するイソアロLCAという成分に着目し、イソアロLCAを生成する特殊な腸内細菌と大腸がんのリスク評価を統計的に解析しました。その結果、イソアロLCAを生成する特殊な腸内細菌が有する5αリダクターゼ遺伝子(5ar)の存在量が大腸がんの進行に従い減少することを発見。発症後に診断されることの多い大腸がんですが、今回開発した技術は、大腸がんになる前の腺腫の状態から腸内の変化を検出できる可能性があり、大腸がんの早期発見・予防につながる技術として期待されます。
本研究成果は、国際誌「Journal of Medical Microbiology」の2024年6月12日(オンライン版)に公開されました。
URL:https://www.microbiologyresearch.org/content/journal/jmm/10.1099/jmm.0.001834

本技術は“腸内遺伝子マーカー検査”と呼称し、特許出願中です。
この腸内遺伝子マーカー検査は、(株)PROUMEDと協力し社会実装に向けた研究開発を行っており、近い将来、企業の健康経営のための検診技術への活用を見込んでいます。

<研究成果のポイント>
  • 特定の腸内細菌が有する5ar遺伝子が大腸がんのステージが進行するに従い減少することを発見しました
  • 5ar遺伝子を指標として大腸がんに対する腸内遺伝子マーカー検査につながる可能性が示唆されました
  • 腸内遺伝子マーカーを指標とし特定のプレバイオティクス注1)による大腸がんの予防につながる新たな補完治療の開発が期待されます
注1)プレバイオティクス:体に存在する良い効果を発揮する菌を選択的に増やす食品成分。
オリゴ糖・食物繊維など。

<背 景>
腸内環境への注目とともに、腸内環境をモニタリングする技術が日々開発されています。代表的なものに、腸内細菌を網羅的に解析する16Sアンプリコンシーケンスなどの技術があります。これらの技術は研究や医学的な用途では汎用性が高い一方、時間と費用がかかるため一般化するためには多くの課題があります。
本研究では、大腸がんに着目し、臨床的かつ一般の方々に、安価に簡便使用できる腸内検査の確立を目指し、大腸がんの進行に従い減少する5ar遺伝子を腸内遺伝子マーカーとする技術の開発に取り組みました。
この研究は、大腸がんの早期発見や予防に使用できる新たな腸内検査の発展につながる可能性があります。さらに、現在、5ar腸内遺伝子マーカーの減少を抑制するプレバイオティクスの研究も進めています。

<研究方法>
144人の大腸内視鏡検査を実施し、非腫瘍性粘膜 (52名)、腺腫 (69名)、癌 (23名)に患者を分類した。その後、検査時に収集した大腸洗浄液からDNAを抽出しました。一方、5α-リダクターゼ遺伝子(5ar)を検出する特定のプライマーセットを作成後、144件全てのDNAサンプルに対し定量PCR(qPCR)を行い5arの量(5arレベル)を定量し、統計的な解析を実施。定量結果が妥当であることは、アンプリコンシーケンスにより確認しました。この方法により、大腸がん(CRC)の進行に伴う腸内の5arレベルの変化が明らかになり、5arレベルのPCRベースのモニタリングがCRCリスクの評価に有用であることが示唆されました。


<今後の展開>
近年、様々な疾患と腸内環境の関係が明らかになりつつあり、多様な研究技術の開発が進んでいます。一方、臨床的に簡便・安価・早期に結果を示すための腸内検査技術は十分に確立しているとは言い難いのが現状です。大腸がんは男女を問わず、非常に多く発症する一般的ながんの一つです。日本のがん統計によると、大腸がんの発生率は増加傾向にあり、特に50歳以上の年齢層で多く見られます。
大腸がんは腸内細菌との関連性も報告されており、いくつかの菌をターゲットとした検査も開発されているものの、発症した後の検出を目的としたものも多く、早期発見や予防目的として使う検査としては不十分でした。

藤田医科大学では、最先端の消化器がんの研究を行うとともに、早期発見や予防につながるような腸内検査の研究を行っています。
本研究により、大腸がんの早期発見・予防につながる可能性のある腸内遺伝子マーカーが明らかとなりました。大腸がんは食生活の欧米化や高脂肪・低繊維の食事が発症のリスクを高める要因とされ、大腸がんの予防には、定期的な健康チェックが重要であるといえます。現在、さらに研究が進み特定のプレバイオティクスにおいて制御できる可能性が示唆されています。今後は、腸内遺伝子マーカーを指標として早期発見・予防につなげ、プレバイオティクスを用いて日々の生活管理につながる展開をめざします。
また、当研究室では、ウェルネオシュガー株式会社、伊那食品工業株式会社、帝人株式会社などのプレバイオティクス企業と連携し、腸内遺伝子マーカーを制御し消化器がんの予防につながるプレバイオティクスの開発も行っています。
 

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