ESG四半期レポート:2023年第3四半期

シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社

シュローダーでは、企業とのエンゲージメントや実態調査など、サステナビリティへの取り組みを掲載したサステナブル・インベストメント・レポートを四半期毎に作成しています。本レポートでは、2023年第3四半期のサステナブル・インベストメント・レポートを構成する内容の一部をご紹介します。今回のテーマは、人的資本管理、水道インフラ、インパクト投資への取り組みについてです。

人的資本管理:人材がいかに最大の資産であるか

 
アンガス・バウアー
サステナブルリサーチ・ヘッド
 
ケイティ・フレーム
アクティブオーナーシップ・マネジャー

リサーチ:
企業は、財務的、物理的、人的といった多様な資本と相互作用しながら価値を創造しています。後者について語られる機会は増えていますが、詳細に分析されることはほとんどありません。

複数の構造的・循環的要素が、人的資本の重要性の背景にあります。

持続可能な人的資本管理の価値についての理解を深めるため、私たちはカリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)とオックスフォード大学サイード・ビジネススクールのOxford Rethinking Performance Initiativeと共同で、この分野に関する詳細な調査を実施しました。

以下は、このトピックに関する私たちの主な見解と調査結果です。
1. 人的資本は、競争上の優位性と回復力の重要な源泉です。
2. 効果的な人的資本管理には、オペレーティング・モデル、カルチャー&インクルージョン、インセンティブ、タレント&ラーニング、イノベーションなど、さまざまなシステムの管理が必要です。
3. 人的資本管理の定性的・定量的分析により、価値創造の原動力と持続可能性について様々な問いを投げかけることができます。
4. 人的資本に対する投下資本利益率(HCROI)は、人的資本管理の有効性を評価するために、従業員の経済的付加価値(EEVA)や他の指標と並んで使用することができる、会計ベースの定量尺度です。
5. HCROIは、様々な要因をコントロールした後でも、複数の時間軸で、またセクターを超えて、予想超過収益率と正の相関があります。
6. HCROIの優れた企業は、サイクルを通じてより多くの価値を創造することができます。
7. HCROIの分析は、より広範な投資とエンゲージメント・プロセスの一部として使用することができ、同水準の労働投資を行っている企業がなぜ異なる財務的な成果となるのかを検証するのに役立ちます。
8. 企業の人的資本関連データの開示はまだ不十分であり、より豊富で広範な情報開示は、市場参加者とアセットオーナーに利益をもたらすと考えます。
このリサーチは、投資家が投資先企業を評価する際に、人的資本管理を無視することはできないことを物語っています。景気変動が続く中、人的資本管理が強固な企業ほど、将来を乗り切る能力が高いと予想されるため、当社はこの1年間、様々な投資家と協力し、人的資本管理を分析、投資プロセスに組み込む支援を行ってきました。

エンゲージメント:
人的資本管理に関する当社の調査に鑑み、当社は人的資本管理を、企業分析および投資の意思決定における優先課題として位置づけています。

これらの貢献度を読み取る能力を高めるための情報開示は、投資家のツールキットとしてますます重要性が増しています。投資家が、企業がどのように人的資本を創出し維持するのか、その全体像を把握するためには、企業によるコアとなる人的資本指標についての強固な開示が不可欠です。しかし、私たちのこれまでの経験では、企業が開示する人的資本データは不完全で一貫性がないことが多く、そのため多くの投資家が企業分析において、人的資本に関する古くて不正確なデータや推定データに頼っています。

そのため、私たちは2023年7-9月期に、投資先の米国企業とのエンゲージメント・イニシアチブを開始し、最終的にすべて投資先企業がより普遍的で比較可能な人的資本指標に移行するよう要請しました。これには、セクターや地域を問わず適用できるコアとなる定量的指標と、個々の企業やそのビジネスモデルに基づく最適な定性的情報の両方が含まれます。このようなアプローチを組み合わせることで、投資家は投資先企業の人的資本管理の質をより把握できるようになると考えます。

私たちのアプローチと要求は、8兆ドル以上の資産を持つ多様な機関投資家グループによる協力的な取り組みである、Human Capital Management Coalitionのものと一致しており、人的資本管理が企業業績を理解する上でいかに重要な要素であるかをさらに実証することを目指しています。

私たちは、すべての投資先企業に対し、最低限、以下の4つの主要な人的資本指標を開示するよう要請しました。

1. 従業員および請負業者を含む、その企業が直接業務で関わっている労働者数
2. 賃金、賞与、その他の福利厚生を含む、従業員の総コスト(企業の監査済み財務報告から企業の開示に至るまで、その証拠が識別可能な形で提示すること)
3. 離職率(自発的離職と非自発的離職を区別して開示し、労働者を惹きつけ、維持し、インクルーシブな企業文化を構築するための経営陣の行動の説明も開示すること)
4. 年齢別の性別および民族的多様性を含む多様性データ(年次のEEO-1報告を通じて要求されるもの等)。特に、インクルーシブな企業文化をはぐくむための業務に関連し、新たな人材源にアクセスし、それを育成するための企業の取り組みと、その能力の長所と短所を理解するのに十分なもの。

これらの指標は、企業が既に収集しているものがほとんどであるため、収集・開示の費用対効果は高いといえます。例えば、給与や福利厚生のような基本的な労働力データは人事システムを通じて追跡され、多様性データは強制的なEEO-1報告を通じて収集・報告されています。

当社のエンゲージメントでは、企業の人的資本管理戦略と課題を説明するために、裏付けとなる説明の開示を推奨しました。この情報開示は、前述の開示内容を解釈するために必要な定性的情報を提供するものでなければならず、エンゲージメント・ブループリントで設定されている人的資本管理の4つの主要なサブテーマをカバーすることができます。

‒企業文化と人的資本管理
‒従業員への投資
‒エンゲージメントとレプリゼンテーション
健康、安全および福利

エンゲージメント結果:
800社を超える米国の投資先企業に開示要請を送付。
75社が基本的な情報開示の要請を承認し、多くの企業が現在の情報開示と人的資本管理へのアプローチに関する情報提供に意欲的。
5社から年内に開示要請に応えるべく、積極的に取り組むとの回答。

水道インフラへの視点

英国における水道セクターの環境パフォーマンスに関する、シュローダーの調査とエンゲージメントの概要を説明します。
ナジア・ハイダー
社債アナリスト
 
アシュリー・トーマス
グローバル株式インフラストラクチャー
ファンドマネジャー

私たちは、CSO(英国で使われている水処理システム)に焦点を当て、英国における水道セクターの環境パフォーマンスを調査しました。CSOとは、降水量の増加による廃水処理への影響を軽減するために開発されたシステムです。英国の伝統的な下水道システムは合流式下水道と呼ばれ、排水溝などから流入する雨水と生活排水が同じ下水道を通じて処理施設に運ばれており、大雨などで下水道を流れる水量がキャパシティを超えると、周辺の住宅や道路へ逆流する恐れがあります。CSOは、氾濫時に下水や排水が周辺のに逆流するのを防ぐために、未処理の下水や廃水を淡水生態系に放流するシステムですが、この放流は環境に影響を与えます。近年、英国では降水量が増加傾向にあり、1836年以降で最も降水量が多かった上位10年のうち6年が過去25年間に発生しています(1998年、2000年、2008年、2012年、2014年、2020年)。これは、水道セクターにおいて、CSOの利用が増加していることを意味します。CSOのパフォーマンスに関する監視や規制の強化、環境庁や英国における水道事業の経済的規制を所管する事業規制局であるOfwatによる調査、英国の河川の汚染に関する報道への関心の高まりを受けて、私たちはESG、株式、債券の各チームと協力して、水道会社が環境リスクをどのように管理しているかを調査しました。

この調査を進めるにあたり、広範なステークホルダーと面会しました。
  • 公営上下水道会社3社(Severn Trent、United Utilities、Southwest Water)のCEOおよび会長と面会しました。これらの会議は、投資家フォーラムが主導する協働エンゲージメントの一環で実施したものでした。この協働エンゲージメントには、業界団体のWater UKや非政府組織であるWindrush Against Sewage Pollutionとの会合も含まれました。また、これらの上場企業各社と個別に面会を実施し、各社の現在の環境に対する取り組みについて、さらに深く掘り下げました。過去の環境パフォーマンス、期待されるCSOの利用水準、発達する規制フレームワークに関する議論を行いました。
  • 私たちはまた、すべての民間企業にCSOに関連するデータの提供を要請し、これらのトピックについて話し合う機会を設け、フォローアップを行いました。これらの企業は、水道セクターにおける所有権の大半を占めており、中には環境パフォーマンスが好ましくない企業もありました。
  • また、Ofwatとも会議を行いました。この会議は、CSOからの未処理排水の放出量削減と、自然を基盤とした解決策の奨励に関連して、Ofwatが導入しているインセンティブについて話し合う重要な機会となりました。これらの取り組みは、自然排水方式の活用により、下水道に流入する地表水が合流式下水道に与える影響を緩和するのに役立ちます。
これらの調査を通じて、CSOからの未処理排水の放出に関して、各水道会社の実績が異なる理由を解明しようとしてきました。各社に業務上の問題があることを示唆する証拠もありますが、私たちは、主な理由は、下水道が合流式となっている割合や降雨パターンのばらつき、CSOのシステム性能の違いなどであると特定しました。

また、私たちはCSOへの依存を解消するために必要な投資額についても調査を行いました。政府は2050年までに当分野に対して560億ポンドの投資を表明しましたが、調査の結果、必要投資額はこれを上回り、各社の現在の規制資産ベースと比較して、平均103%の設備投資が必要になると推定しています。

この調査により、CSOからの放流を削減するための解決策には多額のコストとともに数十年の年月がかかり、さらに、それらの解決策は炭素集約度が高いことが浮き彫りになりました。私たちは英国水道会社への長期投資家として、引き続き経営陣と協力し、環境リスクの管理を推奨し、環境汚染に対する効果的な解決策を支援していきます。

インパクト投資への取り組み―大きな前進、そして今後の成長

インパクト投資の運用原則の署名企業としての1年目を振り返ります。
 
キャサリン・マコーレー
インパクト投資リード
 
マリア・テレサ・ザッピア
インパクト グローバル・ヘッド
 
アンディ・ハワード
サステナブル投資グローバル・ヘッド

インパクト投資はプライベート市場において長い歴史があり、インパクト投資を主流にするために、プライベート市場で開発されたインパクト測定と管理のフレームワークから学べることはたくさんあると考えています。

シュローダーは、ベストプラクティスの業界基準や、インパクト投資の運用原則等のインパクト・マネジメント・フレームワークを活用して、当社のフレームワークを開発しました。また、このフレームワークには、インパクト投資において20年以上の経験を持つブルーオーチャード社の経験と専門知識と、シュローダーが長年培ってきた資産クラスを超えたファンダメンタル投資の幅の広さが融合されています。

このフレームワークを通じて、純粋なインパクト投資家が持つ厳格さと堅牢さを、当社全体のインパクト投資戦略に導入することを目指しています。このフレームワークは、上場株式、プライベート・エクイティ、上場債券、プライベート・デット、インフラストラクチャー、不動産、ファンド・オブ・ファンズ、マルチプライベート・アセット・ソリューション等の資産クラスに適用されます。

2019年にインパクト投資の運用原則が発表された際、最初に署名したブルーオーチャードに続き、当社は2022年9月に署名しました。署名から1年が経過し、当社が開発したフレームワークが、独立コンサルタントのBluemark社によって「リーディング」と認められました。

インパクト投資の運用原則の署名機関として、当社は、インパクト投資市場におけるインパクト検証サービスの主要な独立系プロバイダーであるBluemarkに、当社のインパクト・マネジメントの実践が、投資のライフサイクル全体を通じてインパクトを統合するための業界水準であるインパクト投資の運用原則に合致しているどうかを独自に検証してもらいました。Bluemarkの評価結果は、長所と改善点の両方をカバーしています。

当社は、8つの原則すべてにおいて「High」または「Advanced」の高い評価を獲得しました。この結果は、当社がBluemarkのPractice Leaderboard(優れたインパクト・マネジメントを実践しているインパクト投資家群)に加わったことを意味します。

Bluemarkによる検証報告書の全文はこちら( https://bluemarktideline.com/wp-content/uploads/2023/09/Schroders-BlueMark_Verifier-statement_Detailed-assessment-1.pdf )をご覧ください。

”資産運用会社は、投資機会を創出するために資本を配分する一方で、エネルギー転換のような差し迫った社会的・環境的課題にも取り組むという重要な役割を担っています。
Bluemarkによる独立した検証は、当社のサステナビリティとインパクト投資への取り組みにおける新たなマイルストーンになりました。この結果は、ブルーオーチャードのベストインクラスのインパクト投資フレームワークに支えられた、堅固な商品ラインナップとグループ全体のアプローチの厳密さと誠実さへのコミットメントを証明するものです。“

エンゲージメント:2023年第3四半期
 
 

議決権行使:2023年第3四半期

弊社は、我々には株主の議決権を行使する義務があると考えています。従って、議案を評価した上で、株主に対する受託者責任のもと、議決権を行使します。シェアブロッキング等の理由により制限が設けられていない限り、全ての決議において投票しています。
今四半期は保有する企業が開催したうち約97%にあたる997回の株主総会において議決権を行使しました。
 
 

【本資料に関するご留意事項】
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