ポリヒドロキシ酪酸でアッカーマンシア属腸内細菌が増加 ~肥満のマウスモデルで検証、プレバイオティクスとして実用化期待~ 東京工科大学応用生物学部

東京工科大学

東京工科大学(東京都八王子市、学長:香川豊)応用生物学部の佐藤拓己教授、麻布大学獣医学部の永根大幹講師、同山下匡教授、アニコム先進医療研究所(株)らの研究グループは、バクテリア由来でケトン体のポリエステル化合物であるポリヒドロキシ酪酸(PHB)(注1)が、肥満との関連が指摘されているアッカーマンシア・ ムシニフィラ属の腸内細菌を増加させることをマウス実験で見出しました。 アッカーマンシア属は粘膜層に定着する腸内細菌であり、酪酸菌や乳酸菌とともに善玉菌のひとつとされています。肥満ではない人に多く、肥満の人に少ないことから''痩せ菌''の実体である可能性も指摘されています(文献1)。このためアッカーマンシア属は、次世代プロバイオティクス(注2)の有望な候補の一つとされています。 本研究成果は、米国の実験生物学専門誌「FASEB Journal」オンライン版(現地時間 2023年8月7日)に掲載されました。 【研究背景】  佐藤教授は、ケトン体がアンチエイジング分子であることに注目し、大腸内でケトン体を放出する分子のケトン供与体(注3)について研究開発を続けてきました。PHBは酪酸菌を活性化し酪酸濃度を高めて腸内の炎症を抑制することを動物実験で検証しました(注4)。またPHBはケトン体を徐々に放出するため、ケトン体を持続的に増加させることができます(注5)。一方ケトン体は細胞膜上の特異的なタンパク質と結合して血中の中性脂肪などを低下させることも報告されています(文献2)。本研究では、これらを踏まえPHBが肥満を抑制する可能性について、肥満のマウスモデル(注6)による検証を行いました。 【研究内容】  PHB2%混餌を供与した肥満のマウスモデルにおいて腸内細菌の菌叢解析(注7)したところ、酪酸菌であるロゼブリア属(注8)と共に、アッカーマンシア属が有意に増加していることがわかりました。また、PHBは血糖値を抑制しなかったのに対して、中性脂肪を有意に減少させました。一方コントロールマウスでは、PHBは血糖値も中性脂肪も減少させませんでした(図2,3)。 【社会的・学術的なポイント】  アッカーマンシア属の腸内細菌は、健康な腸内では数%の菌数を占めるのに対し、肥満とされる人ではほとんどが消失することがわかっており、アッカーマンシア属をプロバイオティクスとして利用することで、肥満抑制の効果が期待されます。  また、これまでアッカーマンシア属を増やす天然分子はあまり知られていませんでしたが、今回の報告から、PHBがアッカーマンシア属を大腸内で増殖させるプレバイオティクス(注9)として期待されると共に、今後の研究が待たれます。 【論文情報】 論文名:Prebiotic effect of poly-D-3-hydroxybutyrate prevents dyslipidemia in obese mice 掲載誌:FASEB Journal 2023 in press 掲載URL: https://doi.org/10.1096/fj.202301191R 【参考文献】 (文献1) Zhang T, et al. Akkermansia muciniphila is a promising probiotic. Microb Biotechnol. 2019 Nov;12(6):1109-1125. (文献2) Miyamoto J, Kimura I et al. Ketone body receptor GPR43 regulates lipid metabolism under ketogenic conditions. Proc Natl Acad Sci U S A. 2019 Nov 19;116(47):23813-23821. 【用語解説】 (注1) ポリヒドロキシ酪酸:3-ヒドロキシ酪酸(ケトン体)のポリエステルであり、腸内細菌だけが加水分解できる (注2) プロバイオティクス:乳酸菌のように腸内細菌の菌体を直接食することによって健康を目指すこと (注3) ケトン供与体:消化管内で加水分解されてケトン体を放出する分子の一群で、PHBはこのひとつ (注4) Suzuki R, Satoh T et al. The novel sustained 3-hydroxybutyrate donor poly-D-3-hydroxybutyric acid prevents inflammatory bowel disease through upregulation of regulatory T-cells. FASEB J. 2023 Jan;37(1):e22708. (注5)  Satoh T. Ketobiotics by Poly-3- Hydroxybutyrate: A Novel Prebiotic Activation of Butyrate-Producing Bacteria through 3-Hydroxybutyrate Donation to the Microbiota. Journal of Biotechnology and Biomedicine 5 (2022): 158-162 (注6) 肥満マウス:遺伝的に成長すると顕著な肥満になるマウス (注7) 腸内細菌の菌叢解析:PCRによって腸内細菌の構成を網羅的に解析する方法 (注8) ロゼブリア属:酪酸菌の一種でヒトの健康長寿との関連が議論されることが多い (注9) プレバイオティクス:乳酸菌や酪酸などの善玉菌を活性化することができる食材 ■東京工科大学応用生物学部 佐藤拓己(アンチエイジングフード)研究室 ミトコンドリアは人間の体内で細胞の生死を司るという決定的な役割を持っています。私たちの研究テーマは、活性酸素などに注目してミトコンドリアを活性化させる分子の機能を解き明かすことです。 [研究室ウェブサイトURL] https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/bio/dep.html?id=34 ■応用生物学部WEB: https://www.teu.ac.jp/gakubu/bionics/index.html 《本件に関するお問い合わせ先》 片柳学園 コミュニケーション企画部 担当:大田 Tel 042-637-2109 E-mail ohta@stf.teu.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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