【東芝】電力市場における当日の取引において最適な入札のタイミングと入札量を算出できる「時間前市場取引AI」を開発

株式会社 東芝

2022-12-26
株式会社 東芝

電力市場における当日の取引において
最適な入札のタイミングと入札量を算出できる「時間前市場取引AI」を開発
~再エネアグリゲーション向けに、電力のインバランス・マーケットリスクを抑制し、
再エネの安定供給に貢献~

概要
 当社は、再生可能エネルギー(以下、再エネ)アグリゲーション向けに、当社が開発した電力市場取引における事業者の戦略的取引の最適化を支援する「電力市場取引戦略AI」の拡張機能として、時間前市場において最適な“入札(*1)のタイミング”と“入札量”を算出する「時間前市場取引AI」を新たに開発しました。本AIは、当日の天候や稼働プラントの状況に併せて電力の需給バランスを調整する時間前市場取引において、入札実行時点の最新の発電量予測と価格予測、過去の市場取引結果に基づいて、最適な入札のタイミングと入札量を算出します。入札のタイミングが適切でないことで電力の需要量と供給量の差分が発生する「インバランスリスク(*2)」と、一度に大量の入札が発生することで価格下落を引き起こし収益が悪化する「マーケットリスク」を考慮し、取引収益が最大となるように最適化できることが特長です。本AIにより、従来は困難だった取引当日の発電量予測と価格予測に基づいた時間前市場取引の意思決定支援が可能になります。また、変動の大きい再エネの安定的な供給を可能とし、再エネの主力電源化の促進およびカーボンニュートラル社会の実現に貢献します。
 なお、本AIは、東芝エネルギーシステムズ株式会社および東芝ネクストクラフトベルケ株式会社が参加する経済産業省の再エネアグリゲーション実証事業での実証実験(*3)にて採用され、実際の発電設備を用いた活用を開始しています。

開発の背景
 世界規模でカーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みが加速する中、国内では固定価格買取制度であるFIT(Feed-in-Tariff)制度が順次終了し、固定価格ではなく、卸市場などにおいて市場価格で売電したとき、その価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せするFIP(Feed-in-Premium)制度が2022年4月に導入されました(*4)。FIP制度の活用にあたり、電力市場取引では、再エネ発電事業者が発電量の変動による「インバランスリスク」と市場での価格変動などの「マーケットリスク」を管理して安定的な収益を確保するニーズが高まっています。
 収益の確保には、太陽光や風力などの複数の再エネ発電事業者による再エネ電源を束ね、電力市場における最適な売電計画を実行する再エネアグリゲーターの役割が不可欠です。そこで当社は2021年12月に、電力市場取引における事業者の戦略的取引の最適化を支援する「電力市場取引戦略AI」を開発しました(*5)。
 電力市場における卸電力取引は日本卸電力取引所(JEPX)で運営され、主要市場として、実需給の前日に取引を行う「前日市場(スポット市場)」、当日の発電不調や発電・需要調整の場として、実需給の1時間前までに取引を行う「当日市場(時間前市場)」があります。アグリゲーターは、実需給の前日10時までに一度スポット市場で入札を行い、時間前市場が開場する前日17時から当日の実需給が始まる1時間前(ゲートクローズ)までの間に複数回に分けて時間前市場の入札を行うことができます。
 当社が昨年12月に開発した「電力市場取引戦略AI」は、当社独自の“発電量予測AI”・“価格予測AI”で再エネの発電量と価格をそれぞれ予測し、その予測に基づき、“スポット市場取引AI”でスポット市場への売り入札量を算出します。再エネアグリゲーターは、通常、スポット市場で前日時点での予測に基づいて大部分の取引を行い時間前市場で残りの取引を行いますが、スポット市場と時間前市場のそれぞれの売電割合の決定には戦略的な判断が必要であり、昨年のAIはこの前日時点の意思決定を支援する目的で開発されました。次のステップとして、時間前市場取引において、最適な“入札のタイミング”と“入札量”の意思決定を支援する仕組みが求められていました。

本技術の特長
 そこで当社は、当社の「電力市場取引戦略AI」の拡張機能の一つとして、再エネアグリゲーターの時間前市場取引の意思決定を支援する「時間前市場取引AI」を新たに開発しました(図1)。「時間前市場取引AI」を追加することで、再エネアグリゲーターは、従来は難しかった時間前市場取引の意思決定の材料を得ることができます。本AIは、通常複数回入札すると言われているゲートクローズまでの間、再エネアグリゲーターが入札を実行する時点での最新の発電量予測と価格予測、過去の市場取引結果に基づいて、最適な入札のタイミングと入札量を計算します。本AIは、入札における「インバランス」と「マーケットリスク」の2種類のリスク(ダブルリスク)を考慮して、取引収益が最大となるように計算することが特長です。

 時間前市場は調整市場としての役割上、ゲートクローズ間近まで入札するタイミングをうかがっていると、取引が完了しないままゲートクローズになる場合があります。取引未達が発生すると必要なタイミングで電力供給ができず、インバランスの発生につながります。インバランス発生のリスクの回避には早めの入札が必要となります。
 また、時間前市場はスポット市場と比べて取引量が少なく流動性が低いため、収益が悪化するマーケットリスクが高まります。時間前市場は自己取引によって市場価格が変化する可能性があり、例えば1回の売り入札量が多いと価格が大きく下落します。マーケットリスクの回避には、ある程度小分けにした複数回の入札が求められます。
 本AIにより、リスクの価格への適切な反映およびダブルリスクの適切なバランスをとることにより、リスクを考慮して取引収益を最大化することが可能になります(図2)。まず、「時間前市場取引AI」は、過去の時間前市場の取引実績データをAIが学習することで、リスクの重み付けの判断を支援するリスク感度パラメータを算出します。さらに、計算時点での最新の各種予測値(再エネ発電量、市場価格、インバランス単価)を取得し、その時点までにスポット市場や時間前市場で入札した量と、最終的な入札量との差分(予測インバランス)を計算します。そして、予測インバランスをゲートクローズまでにゼロにするような複数回の入札量を算出します。その際、各時刻での価格の予測値や上述したリスク感度パラメータに基づいて累積の取引収益を見積り、膨大な数の組み合わせが存在する入札手順の中から、最大収益の入札手順を発見します。
 本AIは、時間前市場取引における入札タイミングと入札量を最適化することで、電力のインバランスリスクやマーケットリスクを抑制し、再エネの安定供給に貢献します。


図1:スポット市場と時間前市場に対応した電力市場取引戦略AI


図2:時間前市場取引AIの概要

今後の展望
 当社は現在、東芝エネルギーシステムズ株式会社および東芝ネクストクラフトベルケ株式会社が参加する再エネアグリゲーションの実証実験を通じて、昨年度開発した「スポット市場取引AI」と、今回開発した「時間前市場取引AI」を用いた戦略的取引の有効性を検証しています。
 電力市場では、2020年度には将来(4年後)の供給量を取引する「容量市場」、2021年度には卸電力取引市場のゲートクローズ(取引終了)後に予期せぬ需給ギャップやそれに伴う周波数変動があったときの調整力を供給する「需給調整市場」が開設され今後の活性化が期待されています。今後当社は、当社の「電力市場取引戦略AI」を容量市場・需給調整市場にも適用できるようにし、再エネアグリゲーターへの包括的な支援を通して、再エネの主力電源化の促進に寄与し、長期的な電力の安定供給に貢献してまいります。


*1 電力量の売買取引のため、時間前市場の取引システムを用いて、30分の時間帯商品毎に市場の状況を見ながら、50kWhを最小単位として売りまたは買いの電力量を入札する。
*2 再エネ発電量が計画値から外れてインバランスが大きくなると、供給する電力の品質低下や停電などの要因となる可能性がある。また、インバランスによる調整コストとしてインバランス料金を支払う必要がある。
*3 正式名称は、「令和4年度 蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した次世代技術構築実証事業費補助金(再生可能エネルギー発電等のアグリゲーション技術実証事業のうち再生可能エネルギーアグリゲーション実証事業)」。
令和4年度 再生可能エネルギーアグリゲーション実証実験開始のお知らせ:
https://www.global.toshiba/jp/news/energy/2022/12/news-20221201-01.html 
*4 FIT制度は再エネ導入初期における普及拡大とコストダウンを目的に2012年に導入された。再エネ事業者が発電した電力について、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることが約束されている。これにより、いつ発電しても収益が変わらず、電力の市場価格が高い需要のピーク時に供給量を増やすといったインセンティブが働かないといった課題があった。2022年度に新たに導入されたFIP制度は、FIT制度により再エネ導入の初期目標を達成したことを踏まえ、再エネを競争電源に位置づけ、再エネの主力電源化に向けたステップとなる。電力需要のピーク時に一定のプレミアムが上乗せされ、収入が市場価格に連動するため、発電事業者に対して蓄電池の活用などで供給量を増やすインセンティブを促す目的とされる。(「FIT制度の抜本見直しと再生可能エネルギー政策の再構築」、資源エネルギー庁、2019.4.22を基に記載)
*5 再生可能エネルギーアグリゲーション向け「電力市場取引戦略AI」を開発:
https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/21/2112-02.html 

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