「部屋のみる夢 ボナールからティルマンス、現代の作家まで」展のご案内
会期: 2023年1月23日(土)– 7月2日(日) 会期中無休
パンデミック以降、 私たちの生活様式は大きく変化しました。移動が制限された状況で誰もが多くの時間を過ごしたのが、「部屋」という空間です。安心をもたらす室内での生活は、外の世界からの隔絶がゆえに閉塞感と隣り合わせのものでした。他方、閉じられた空間で紡がれた親しい人たちやかけがえのないものとの関係は、日常を生き抜くためだけではなく、変化の乏しい生活に彩りを添えるのに、欠かせないものであったと言えるでしょう。本展覧会では、19世紀から現代に至るまでの、部屋にまつわる表現に特徴のある作家を取り上げ、この小さな世界のなかで織りなされる親密な記憶や夢想のありようを、あらためて見つめ直します。個性にあふれた作家たちによる多彩な室内の表現は、ステイホームの経験を通じて静かに変容した私たちの心のなかで、新たな像を結び始めるでしょう。
1. 19 世紀から現代まで、あらためて見つめ直す「部屋」をめぐる表現
19世紀から現代までの約50 点の作品を通じて、部屋にまつわる表現をご紹介します。古くから、閉じられた室内で起こる出来事や、窓から差し込む光などは芸術家たちの着想源となり、部屋はさまざまな作品に描かれてきました。近代化以降、社会的な地位や個人の趣味を反映した部屋の表現は、とりわけ絵画の重要なテーマとなり、数多くの室内画が制作されました。コロナ禍でのステイホームを経て、部屋という空間への意識や日常における位置付けが変容しつつある今日の私たちの視点で、現代の息吹を伝えるアーティストたちが手掛ける作品とともに、部屋をめぐる多様な表現をあらためて見つめ直します。
2. 草間彌生、ヴォルフガング・ティルマンスの新収蔵作品を初公開
現代を代表する作家である草間彌生、そしてヴォルフガング・ティルマンスの新収蔵作品を初公開いたします。草間はこれまでにベッドをモティーフとした作品を2点制作しており、新収蔵作品はそのうちの1 点にあたる貴重な作例です。本来であれば心身を休める役割を持つベッドが、無数の突起物に覆われ変容しています。また、写真の新たな表現を開拓し続けるティルマンスの作品を新たに収蔵しました。フィルムで撮影された過去の作品から、デジタル撮影を経た近年の作品に至るまでの10 点には、彼が日常生活を送るとともに制作に明け暮れる時間を過ごした室内が捉えられています。
3. ステイホーム以降の新たな感性を伝える、現代作家たちの作品を展示
髙田安規子・政子は、身近な事物や風景を用いて、スケールや時間の感覚を揺るがす緻密なインスタレーションを手がけるアーティストです。本展では、室内と屋外をつなぐ窓や扉を取り上げ、ステイホーム以降更新されてきたパブリックとプライベートの境界のあり方を問いかけます。昨年に初めて二人展を開催した佐藤翠と守山友一朗は、様式を異にしながらも、これまでにいずれも室内の表現に重きを置いてきました。コロナ禍の閉塞感により、庭をはじめとする自然への渇望を促されたふたりは、新作のなかで閉じられた部屋と開かれた自然との関係を再考します。
主な作品展示
ベルト・モリゾ(1841-1895)
ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864-1916)
市民が台頭した19 世紀に活況を呈したのが、室内画というジャンルです。
親密な日常の場面が数多く描かれた時代において、デンマークの画家ハマスホイは一線を画す存在でした。ハマスホイの室内画はその静謐さがゆえに、オランダ絵画の黄金期を代表するフェルメールの絵画を彷彿とさせます。無人の室内の情景に美しさを見出していたハマスホイは、要素を削ぎ落し、静けさに満ちた独自の室内画を描き出しました。そうした場面には妻や母が登場するものの、鑑賞者に背を向けていることが多いことから、彼女たちの心情を詳しくうかがい知ることができません。
他方で、そうであるがゆえの沈黙が私たちの心を捉えて離しません。
ピエール・ボナール(1867-1947)
世紀末のパリでナビ派の一員として活躍したボナールは、生涯にわたって、恋人や家族、友人などの身近な人々や、自宅の室内や食卓といった身の回りの対象をモティーフとし、その情景の記憶を描きとめました。伴侶であったマルトは一日に何度も入浴する習慣があり、画家は浴槽や化粧室で身づくろいをする彼女の姿をさまざまな構図や光のもとで描いています。そこには、閉じられた空間のなかで、きわめて近しい人物同士が過ごす親密な時間が流れています。ボナールはモデルがポーズをとることを好まず、マルトをはじめとする身近な人々が過ごす日常そのものを見つめました。
エドゥアール・ヴュイヤール(1868-1940)
1890 年代、ヴュイヤールはナビ派の画家として絵画や装飾パネルを制作する一方、メーテルランクら象徴主義の作家による演劇作品の舞台美術も手掛けており、絵画においても、自宅の室内の母や姉をモデルとして明暗の効果を用いて神秘的で暗示に満ちた空間を描きました。1900 年以降、より明るい色彩を取り入れたヴュイヤールは、数多くの肖像画を制作しましたが、そこでは人物だけでなく、彼らの日常を彩る周囲のモティーフや、彼らが過ごす部屋のありよう全体が活き活きと描き出されています。
アンリ・マティス(1869 -1954)
1905 年に大胆な色使いと筆致により「フォーヴ」(野獣)と称されたマティスは、1921年以降、明るい日差しに惹かれ南仏ニースを拠点として活動し、晩年には病や戦争によるさまざまな制限を乗り越えながら制作を続けました。ときに窓を通して差し込む地中海の光や眺めを取り入れつつ、壁掛けや調度、モデルの衣装にまでこだわって演出した室内空間を描いています。マティスにとって部屋とは、モデルと相対する親密な場であり、またあらゆる要素を自由に操作し、絵画における色彩や空間の表現を探究することのできる制作の現場でした。
草間彌生(1929-)
ヴォルフガング・ティルマンス(1968- )
髙田安規子・政子(1978- )
佐藤翠(1984-) + 守山友一朗(1984-)
佐藤翠は、色とりどりの洋服や靴が並ぶクローゼットや花々を、あざやかな色彩によって描いてきました。コロナ禍で佐藤にとって重要な存在となった、部屋から最も近い屋外としての庭は、クローゼットという部屋の内奥とつながり、自然の植物とドレス、室内と屋外、日常と想像が混じりあい、新たな展開を見せています。長年にわたってパリを拠点とした守山友一朗は、自らの心が惹かれた日常の場面や旅先の風景を観察して、その奥に潜むもうひとつの世界を描き出します。透明感のある薄い油彩の連なりによる眩いばかりの煌めきのなかに、愛着のあるモティーフや自然の織りなす思いがけない瞬間を描き留めています。昨年に初めて二人展を開催した作家たちが、本展において共作を含んだ新作の数々によってひとつの空間を構成します。
展覧会概要
部屋のみる夢展 ボナールからティルマンス、現代の作家まで
Interior Visions : From Bonnard to Tillmans and Contemporary Artists
会期: 2023年1月28日(土)― 7月2日(日)会期中無休
会場: ポーラ美術館 展示室1、3
主催: 公益財団法人ポーラ美術振興財団 ポーラ美術館
出品作家 : ベルト・モリゾ、ヴィルヘルム・ハマスホイ、ピエール・ボナール、エドゥアール・ヴュイヤール、アンリ・マティス、草間彌生、ヴォルフガング・ティルマンス、髙田安規子・政子、佐藤翠+守山友一朗
関連プログラム
詳細が決まり次第、展覧会ウェブサイトにてお知らせいたします。
展示会ウェブサイト
https://www.polamuseum.or.jp/exhibition/20230128c01/