【東芝】機器の時系列データから解釈性に優れた物理モデルを自動生成し、機器の「異常検知」と「異常発生要因の判定」が可能なAI技術を開発
株式会社 東芝
機器の「異常検知」と「異常発生要因の判定」が可能なAI技術を開発
~「いつもと違う」に加え「なぜ違うか」が判定可能で、インフラ機器の予知保全に貢献~
当社は、社会インフラ設備における、機器の異常検知と異常発生要因を判定する物理モデル(*1)を自動生成するAI技術を開発しました。開発したAI技術は、測定した時系列データから対象となる機器の状態や動作を表現する物理モデルを自動で生成し、機器の異常検知に加え、従来は困難だった異常発生の原因となった物理現象の提示が可能です。例えば、機器の温度上昇が埃による目詰まりに起因することを提示できるため、改善対策の立案も容易になります。また、突発的な温度変化や風の流れなど複雑な現象にも対応し、異常発生のメカニズムが複雑なインフラ機器の保全へも適用でき、設備の信頼性を向上させ、社会インフラ強靭化への貢献が期待できます。
当社は本技術の詳細を、オンラインで開催されるIMECE2021で、11月5日(日本時間)に発表します。
開発の背景
製品・システムを安全安心に使い続けるために、機器の劣化や不具合を事前に察知して最適な状態に管理する予知保全の重要性が高まっています。予知保全市場は成長段階にあり、2021年は約69億ドル、2026年には世界で約282億ドルに達し(*2)、年平均成長率(CAGR)31%と急拡大する見通しです。
当社はインフラサービスカンパニーとして、社会インフラを支える機器の故障による中断・停止時間の削減と保全コストを最小化する高精度な予知保全技術の確立に向けて取り組んでいます。予知保全には、異常検知とその対策の提示が欠かせません。一方で、インフラ機器などは異常発生のメカニズムが複雑なものが多く、従来の正常状態からの差異を提示する異常検知技術だけでは、改善対策の立案が難しいという課題があります。適切な対策を講じ、保全コストの削減につなげるには、従来の「いつもと違う」に加え、「なぜ違うか」を説明可能とする技術が求められています。
本技術の特長
そこで当社は、機器の異常検知に加えて、「なぜ」異常が起きたかを解釈性に優れた物理モデルを用いて説明することが可能なAI技術を開発しました。本技術は、測定した機器の時系列データから機器の状態や動作を表現する物理モデルを自動で生成します。自動生成される物理モデルでは、データ項目の相関をネットワークで表現し、項目間の関係性は物理学や工学に基づく関数を組み合わせて表しています。関数の候補は当社が長年培った機械工学の知識に基づいてデータベース化しており、複雑な現象にも対応可能です。更に、従来のAI技術では、膨大にある関数の組み合わせ作業を、関数の物理的な意味を変えずに効率的に行うことは難しいという問題がありました。そこで、関数の物理的な影響度合いを正しく考慮できる新しいスパース推定アルゴリズムや、関数の候補を効率的に選択する空間探索アルゴリズム、および高精度な予測を可能にするデータ拡張アルゴリズムを組み合わせた新たなAI技術を開発しました。これにより、解釈性に優れた物理モデルを自動で生成することを可能にしました。
また、本技術をパワーモジュール(*3)の異常検知で重要になる温度予測に適用し、物理モデルの自動生成において、発熱チップから冷却器に熱が伝わり、空冷ファンにより冷却器から放熱される伝熱形態が正しく選択されることを確認しました。
生成した物理モデルは平均誤差1℃未満で温度を高精度に予測でき、計算に数千~数万倍の時間を要する詳細数値シミュレーションに代わり、リアルタイムでの予知保全を実現することが可能になります。
今後の展望
本技術は、製品・システムの異常検知において実用性が高いため、さまざまな製品・システムへの適用が期待できます。当社は今後、社会インフラ関連製品やシステムへの適用範囲の拡大と有効性の検証を進め、2023年度の実用化を目指します。
*1 対象とする事象や機器の挙動を、物理学や工学の知識に基づいて数式で表したもの。事象発生の予測などに用いることができ、発生のメカニズムが物理現象に沿って説明可能となる。
*2 株式会社グローバルインフォメーション、プレスリリース「予知保全市場:費用対効果の高いアプリケーションへの進化」、https://www.value-press.com/pressrelease/270496
*3 パワー半導体を組み合わせて、電力制御や電力供給に関わる回路を集積した部品。