アジアの不動産クレジットにおけるESGへの取り組みについて
アジアのクレジット市場では、不動産は大きなセクターですが、ESGに関するレポーティングはまだ始まったばかりです。このレポートでは、企業とのエンゲージメントを通じて、シュローダーがこの問題にどのように取り組んでいるかをご紹介します。
アジアの不動産は、ここ数十年の著しい経済成長に欠かせないものとして、多くの人の注目と関心を集めています。しかし、この成長が目を見張るものであっただけに、いくつかのリスクや過剰なものが積み重なってきたように思われます。
中国では、都市化や開発、建設が、何百万人もの国民を貧困から救い出すという中国共産党の野望の鍵となっています。中国人民銀行によると、2005年から2018年にかけて、住宅ローンの金額は5兆元から25兆元に増加し、GDPの約10%から30%近くにまで上昇しています。
不動産開発の過程を経て、不動産セクターと政府の政策との結びつきがしっかりと確立されています。このような不動産開発の大規模な拡大の過程で、不動産会社はより多くの負債を抱え、バランスシートや不透明な融資基準への懸念が高まっています。
アジアのクレジット市場に占める割合の高い不動産
現在、アジアのクレジット市場では、特に信用リスクの高い市場を中心に、不動産セクターが大部分を占めています。アジアの米ドル建て投資適格社債市場では、2000 年 8 月の時点では指数に占める不動産の比率は 3%弱でしたが、現在では 9%近くまで上昇しています。一方、ハイ・イールド社債市場では、2000 年当時にはなかった不動産の占める割合が 50%を超えています。
格付けがBB以下のハイ・イールド企業は、規模が小さく、負債が多く、場合によってはガバナンスの水準が低いことがあります。
現在注目を集めている不動産開発会社、中国恒大集団のケースは、この問題を明確に示しています。同社は多額の負債を抱え、過去1年間は資金繰りに苦しみ、資産を売却して支払い能力を維持していたようです。
中国当局は昨年「3つのレッドライン」と呼ばれる不動産融資規制を導入し、不動産会社に許される負債のレベルに事実上の上限を設けました。
アジアの社債投資家はこのセクターを無視することはできませんが、慎重なアプローチが必要です。私たちは日常的に、環境・社会・ガバナンス(ESG)を投資分析に組み込んでいます。不動産業界では、ESGレポーティングや情報において透明性と標準化が不足していることがわかっています。
これは、私たちが徹底した効果的な分析を行い、より多くの情報に基づいた投資判断を行うために、対処すべきことだと考えています。
エンゲージメントの開始
このセクターには数多くの重要なESG要素があります。建物のエネルギー効率の向上は、より環境に優しい経済への移行のトレンドとして急速に浮上しています。安全性は、建設作業員へのリスクおよび建築規制や基準の観点から、監視・測定すべき重要な要素です。
多くの不動産会社のESGレポートには定量的な内容が含まれておらず、また、報告されていてもその範囲は様々です。これは、要求事項がないことを考えれば当然のことかもしれません。
要求事項がある場合でも、香港に上場している企業やグローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)に準拠していると主張する企業のレポーティングは、必ずしも意味のあるものではありません。例えば、安全性を重要課題として認めていない企業もあります。
私たちが行ったこと
より標準化された定量的なデータを得ることを目的に、ESG課題について不動産会社50社を対象にアンケートを作成し、送付しました。これは、企業がプロセスを開発するのを支援するための方法でもあります。これらの企業の中には、規模が小さく、ESGレポーティングに必要なリソースを割くのに苦労している企業もあります。
これを踏まえて、2020年の間にシュローダーはアジアの360社に対して430件以上のエンゲージメントを実施しました。これはシュローダーの年間のエンゲージメント総数の20%にあたります。
私たちが尋ねた質問:
- 手頃な価格の住宅(アフォーダブル・ハウジング)を何戸建設し、今後も建設する予定ですか?
- あなたの地域では、公共事業や公共交通機関のサービスは人口の何パーセントをカバーしていますか?
- この地域の融資平台(LGFV)を紹介してください。これらのLGFVは、政府の位置付の観点からはどのような違いがありますか?
- あなたのポートフォリオには、グリーンビルディング、グリーンユーティリティー、グリーンプロジェクトはありますか?
- 健康と安全に関する統計を教えてください。
調査結果と今後の予定
当初は5〜10社程度の回答しか得られませんでした。しかし、私たちがこれまでに何度も行ってきた企業との1対1の対話を通じて、アンケートの目的を詳しく説明したところ、約20社から回答が得られました。
その中で、グリーンボンドについての情報を提供し、企業に発行の検討を促すことができたのは、明確な成果でした。グリーンボンドとは、企業や国が発行する債券の一種で、調達した資金を環境に配慮したプロジェクトや目的に特化して使用するものです。
中国の不動産デベロッパーによるグリーンボンドの発行額は、2020年の約30億ドルから2021年には60億ドルに増加しています。また、発行体の数も2020年の7から2021年には16に増加しています。
アジアでグリーンボンドの発行が増加
調査後、ほぼすべての企業が年次のサステナブルレポートを発行しているか、または発行を予定しており、ESGフレームワークや目標の開発に取り組んでいることを確認しました。
回答によると、安全性に関するデータについては、1社を除いてすべての企業がデータを収集していることがわかりました。環境に関するデータについては、2社を除くすべての企業がデータを収集していると回答しましたが、一方でほとんどの企業で報告された調査データの質が低いこともわかりました。
今後、少なくとも年1〜2回の頻度で調査を実施し、各社の進捗状況を把握していく予定です。
2021年第3四半期
エンゲージメント
以上の説明は、シュローダーESGチームのグローバルベースでの最近の活動実績を参考情報としてご紹介するものです。個別銘柄、業種、国、地域等についての言及は例示を目的とするものであり、当該個別銘柄等の購入、売却などいかなる投資推奨を目的とするものではありません。本レポートの利用者がこれらの情報に依拠したことによって発生した損害について、当社は一切の責任を負いません。また、当社が日本の投資家様向けに設定・運用するファンドでの個別の投資判断と必ずしも一致するものではありません。
2021年第3四半期
株主の議決権行使
当チームは、我々には株主の議決権を行使する義務があると考えています。従って、議案を評価した上で、株主に対する受託者責任のもと、議決権を行使します。シェアブロッキング等の理由により制限が設けられていない限り、全ての決議において投票しています。
今四半期は保有する企業が開催したうち約99.7%にあたる1026回の株主総会において議決権を行使しました。
以上の説明は、シュローダーESGチームのグローバルベースでの最近の活動実績を参考情報としてご紹介するものです。個別銘柄、業種、国、地域等についての言及は例示を目的とするものであり、当該個別銘柄等の購入、売却などいかなる投資推奨を目的とするものではありません。本レポートの利用者がこれらの情報に依拠したことによって発生した損害について、当社は一切の責任を負いません。また、当社が日本の投資家様向けに設定・運用するファンドでの個別の投資判断と必ずしも一致するものではありません。
2021年第3四半期
エンゲージメントの進捗状況
このセクションでは、1年前(今回の場合、2020年第3四半期)に企業へ行った提案に対しての進捗状況を 「達成」、「ほぼ達成」、「ある程度の変化」、「変化なし」、 「改善の必要なし」に分類することにより評価します。
下図は、過去3年間における我々のエンゲージメントの有効性を示しています。我々の提案が実施されるまでには、時間を要すことが伺えます。従って通常、提案を行った12ヵ月後に評価を行い、その後に渡っても進捗を評価する形をとっています。
過去3年間における提案の有効性
以上の説明は、シュローダーESGチームのグローバルベースでの最近の活動実績を参考情報としてご紹介するものです。個別銘柄、業種、国、地域等についての言及は例示を目的とするものであり、当該個別銘柄等の購入、売却などいかなる投資推奨を目的とするものではありません。本レポートの利用者がこれらの情報に依拠したことによって発生した損害について、当社は一切の責任を負いません。また、当社が日本の投資家様向けに設定・運用するファンドでの個別の投資判断と必ずしも一致するものではありません。
【本資料に関するご留意事項】
- 本資料は、情報提供を目的として、シュローダー・インベストメント・マネージメント・リミテッド(以下、「作成者」といいます。)が作成した資料を、シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社(以下「弊社」といいます。)が和訳および編集したものであり、いかなる有価証券の売買の申し込み、その他勧誘を目的とするものではありません。英語原文と本資料の内容に相違がある場合には、原文が優先します。
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- 本資料に記載された予測値は、様々な仮定を元にした統計モデルにより導出された結果です。予測値は将来の経済や市場の要因に関する高い不確実性により変動し、将来の投資成果に影響を与える可能性があります。これらの予測値は、本資料使用時点における情報提供を目的とするものです。今後、経済や市場の状況が変化するのに伴い、予測値の前提となっている仮定が変わり、その結果予測値が大きく変動する場合があります。シュローダーは予測値、前提となる仮定、経済および市場状況の変化、予測モデルその他に関する変更や更新について情報提供を行う義務を有しません。
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