日本製鉄 世界初、鉄鋼材料の開発で超急速加熱過程での転位の瞬間的な動きの観測に成功 ~Nature出版グループのScientific Reports誌に論文を発表~
これまで1秒間で数度(℃)の加熱速度における転位の動きは観測できましたが、原子の拡散が速い高温では微視的かつ高速の変化を観測することが難しく、マルテンサイトからのオーステナイト形成での転位の動きは明確ではありませんでした。本研究で得られた知見は、今後、より高まる性能要求に対応する鉄鋼材料を開発するために非常に有用です。この成果は、Nature出版グループの学術誌Scientific Reports[3]に掲載されました。
※研究論文は、以下のURLをご参照下さい。
www.nature.com/articles/s41598-019-47668-6
鉄鋼製造プロセスにおいて、加熱、冷却の速度は、鉄鋼材料の性質を決める極めて重要なパラメータです。 しかし、速い温度変化での原子拡散や組織変化は、その観察の難しさから、物理的、速度論的な理解が進んでいませんでした。特に、高品質化を志向する製造法の開発にあたっては、マルテンサイトからオーステナイトに変化(相変態)する微視的過程における転位の動きを理解し、精密に制御することが極めて重要です。極限的な温度上昇によって生じる超高速な組織変化は未知の領域でした。この変化の観察は、鉄鋼材料の高性能化・高品質化に繋がる重要な知見を与えます。
本研究では、1秒間で1万度の加熱速度によるマルテンサイトの組織変化をSACLAのX線自由電子レーザーを用いて観察し、転位密度や炭素濃度の観点から、 鉄鋼材料の組織形成過程の解明に成功しました。これは、 工業的にも学術的にも極めて重要な成果であり、鉄鋼材料の組織形成に関わる転位や炭素のその場観測での知見により、鉄鋼材料の高性能化・高品質化、新合金または製造プロセスの開発等、今後大きな展開が予想されます。
[1] SACLA
理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのX線自由電子レーザー施設で、0.1ナノメートル以下という世界最短波長のレーザーの発振能力を有する。SPring-8 Angstrom Compact free electron LAserの頭文字を取ってSACLAと命名された。詳細はhttp://xfel.riken.jp/
[2]マルテンサイト組織
鉄鋼材料の場合、FCC構造であるオーステナイト(γ)相から急冷することで生成するBCC又はBCT構造の金属組織で、転位密度が高く過飽和な炭素を格子間に含むため高い強度を有する。
[3]Scientific Reports
一次研究論文を掲載するオープンアクセスの電子ジャーナルで、自然科学と健康科学のあらゆる領域を対象としています。自然科学の分野では世界最大規模の論文が掲載されており、また、それらの論文は多くの文献等へ引用されています。著名な雑誌Natureをはじめ、Nature関連誌など90誌以上のジャーナルを管理しているNature.comの管理下にある雑誌で、毎月、数百万人にも上る世界中の科学者がアクセスしています。Scientific Reports には、技術的妥当性があり、各分野の専門家が関心を示すような原著研究論文が掲載され、一般公開されています。
注:今回、観測した超急速加熱時の過程を赤色、緩やかな加熱時の場合を青色で表記しています。マルテンサイト組織を持つ鉄鋼に急速加熱処理を施すことで、異なる組織変態過程を辿ります。すなわち、組織回復と再結晶化が抑制され、拡散変態ではなくマッシブ的変態と呼ばれる過程を経て、微細な組織が形成されます。結果として、鉄鋼材料の高性能化・高品質化に繋がります。
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以 上