【東芝】正常時の波形データのみで学習し異常を検知する説明性の高いAIを開発
~工場や社会インフラなどの設備の稼働率向上、保守管理コスト低減に向けて~
当社は、工場や社会インフラなどにおける設備の異常を機械学習により検知する技術において、検知精度を従来技術から9%向上させるとともに、異常を判断した根拠を提示する新たなAI「One-Class Learning Time-series Shapelets(OCLTS)」を開発しました。本技術により、特に異常を判断した根拠の説明性が求められる工場や社会インフラの設備の異常検知精度を向上でき、設備の稼働率向上と保守管理コストの削減に貢献する効果が期待できます。本技術は、稀にしか異常が発生しない場合でも、設備に設置された多数のセンサより収集される正常時の時系列データのみから異常検知モデルを構築し、未知の異常を含め高精度に検知するものです。また、正常時に繰り返し現れる部分的な波形パターン(正常波形パターン)を抽出し、その正常波形パターンからの差異に基づき異常検知することで、異常と判定した根拠を提示できる説明性の高い技術を実現しました。
当社は、本技術の詳細を、米国・シアトルで開催中のIEEE International Conference on BIG DATA 2018にて発表しました(注1)。
近年、「インダストリアルIoT」の拡大に伴い、様々な装置や設備がインターネットに接続され、大量の時系列データを収集することができる環境が整いつつあります。特に工場や社会インフラなどの現場では、様々な装置や設備から収集される時系列データから、機械学習により設備の正常と異常をより高い精度で分類する異常検知技術が求められています。
一方、工場や社会インフラなどにおける設備においては、通常、異常発生頻度が低く、機械学習による異常検知精度の向上に必要な異常データのサンプル数が不足しているという問題があります。また、異常が発生した場合、現場の技術者は原因を究明し対策を立案する場合が多く、技術者が、AIがなぜ異常と判断したかの根拠の提示が求められています。
今回、当社が開発した「OCLTS」では、まず、正常時に特徴的な複数の経時変化を、波形パターン(Shapelets)として自動抽出します。つぎに、これらの正常波形パターンで算出される正常範囲と、検査時の波形データとを比較し、正常範囲から逸脱する場合、AIが、設備に異常があると判断します。これにより、AIがあらゆる異常状態を経験していなくても設備の異常を検知することができ、波形の比較において差異が出た時期とその大きさと形状から、異常発生の原因究明に繋げることが可能となります。
また、「OCLTS」は、One-Class Support Vector Machine(OCSVM)(注2)に基づき正常と異常の分類を学習することで、分類の境界が複雑な場合にも適用することができます。さらに、学習アルゴリズムを高速化することで、従来技術では時系列の長さの二乗分必要だった計算量を時系列の長さの一乗分まで大幅に削減することができ、より短い時間でAIに学習させることが可能になりました。
当社は、公開されている時系列のベンチマークデータによる性能検証において、「OCLTS」が、従来技術と比較して精度を9%向上することを確認しました。本技術は、当社が進める、サイバー・フィジカル・システム(CPS)を具現化するテクノロジーの一つです。今後は、本技術の分類精度をさらに高め、様々な時系列データに対して有効性を確認していくとともに、工場や社会インフラなどの現場において本技術を適用していくことを目指します。
(注1) IEEEでの発表に加えて、International Journal of Data Mining Scienceにも採択されています。
(注2) 非時系列データ(波形ではないデータ)に基づき、正常データのみから正常範囲を学習する既存技術です。