東京農工大学の永岡謙太郎准教授らが海馬内のアミノ酸代謝が記憶能力に影響することを明らかに -- アミノ酸代謝異常の難病に対する新たな治療法開発に期待

東京農工大学

国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門・永岡謙太郎准教授らの研究グループは、アミノ酸代謝酵素の遺伝子LAO1を欠損したマウスの解析を行った結果、脳内で記憶に関わる海馬においてアミノ酸代謝異常が生じており、特にフェニルアラニン濃度の上昇を確認しました。また、このフェニルアラニン蓄積が神経伝達物質アセチルコリン濃度の減少を引き起こし、LAO1欠損マウスの記憶能力が低下することを証明しました。本研究結果は、体内にフェニルアラニンが蓄積する難病の「フェニルケトン尿症」にみられる記憶障害メカニズムの解明に貢献するものであり、新しい治療方法の確立に役立つことが期待されます。 本研究成果は、英国のオンライン学術誌『サイエンティフィック・リポーツ』(英語: Scientific Reports (略称 Sci Rep))(2018年7月23日付)に掲載されました。 URL: http://www.nature.com/articles/s41598-018-28885-x <現状>  アミノ酸はそれ自体のみならず、その代謝産物についても、生命の様々な機能維持に重要な役割を有することが知られています。そのため、酵素の障害や欠損によるアミノ酸代謝異常疾患は重篤な症状を引き起こすことが明らかとなっています。例えば、アミノ酸の一種フェニルアラニンを代謝する酵素の障害が原因で、脳内のフェニルアラニン濃度が増加するフェニルケトン尿症は、精神発達の遅れや記憶障害を呈する代表的なヒトの先天性疾患です。治療方法としてはフェニルアラニンの摂取制限が挙げられますが、フェニルアラニンは多くの食品に含まれているため、継続しての治療は患者にとって大きな負担となっています。よって、フェニルケトン尿症をはじめとしたアミノ酸代謝異常疾患の新たな治療方法を確立することは、ヒト医療への大きな貢献となります。 <研究体制>  本研究は、東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門の大学院生臼田賢人、渡辺元教授および永岡謙太郎准教授らと栄養・病理学研究所の川瀬貴博研究員と塚原隆充博士、京都大学大学院農学研究科応用生物化学専攻の友永省三助教、中国科学院のWanzhu Jin教授らが共同で実施しました。 <研究成果>  本研究では、フェニルアラニンやメチオニンの代謝に関与するアミノ酸代謝酵素の1つであるL型アミノ酸オキシダーゼ(LAO)に注目しました(注1)。先行研究により、LAOをコードするLAO1遺伝子が、記憶の形成に不可欠な脳領域である海馬で発現していることが明らかとなっていました。そこで、LAO1遺伝子が欠損したマウス(LAO1欠損マウス)を用いて、LAOが関与するアミノ酸代謝がマウスの記憶能力に影響しているかを調査しました。受動的回避試験(注2)により、LAO1欠損マウスでは記憶能力が低下していることが明らかとなりました。また、海馬内のアミノ酸濃度や神経伝達物質濃度の測定をメタボローム解析(注3)により行った結果、LAO1欠損マウスの海馬内フェニルアラニン濃度の増加とアセチルコリン濃度の減少が確認されました。特筆すべきことに、LAO1欠損マウスの記憶能力の低下は、アセチルコリンの分解を抑制して、アセチルコリン濃度を増加させる薬であるドネペジルの経口投与により改善しました。以上より、海馬内の過剰なフェニルアラニンがアセチルコリンの合成を阻害することでアセチルコリン濃度が減少し、その結果としてLAO1欠損マウスの記憶能力が低下したと考えられました。 <今後の展開>  本研究により、フェニルケトン尿症で認められる記憶障害は、海馬内のアセチルコリン濃度の減少が原因の一つとして考えられ、ドネペジルが新しい治療薬となる可能性が示唆されました。今後は、他のフェニルアラニン代謝酵素が欠損したマウスを用いて同様の実験を行い、ヒトのフェニルケトン尿症に対してドネペジルが新しい治療薬となるか詳細な検討を行っていきます。 注1 ) L型アミノ酸オキシダーゼ : フェニルアラニンやメチオニンなどのアミノ酸を酸化する酵素。アミノ酸をケト酸に分解する。 注2 ) 受動的回避試験 : マウスの記憶能力を評価する試験。マウスに電気刺激を与え、その記憶をどの程度保持しているかを確認する。 注3 ) メタボローム解析 : アミノ酸や脂肪酸などの低分子化合物およびそれらの代謝産物濃度を網羅的に解析する実験。 ▼本件に関する問い合わせ先 東京農工大学大学院農学研究院 動物生命科学部門 准教授 永岡 謙太郎(ながおか けんたろう) TEL:042-367-5767 FAX:042-367-5767 メール:nagaokak@cc.tuat.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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