【岡山大学・学習院大学】地球内部660kmの境界形成はガーネットが支配していた

学習院大学

<ポイント> ・地球マントル660 km不連続面の成因を、ガーネットの原子配列が圧力・温度変化によって別の構造へと変化する高圧相転移1)が主導する「連動反応」として初めて実証しました。 ・ガーネットの相転移が660 km不連続面周辺の鉱物組み合わせに影響を与え、深さ660 kmの地震学的構造を一貫して説明できることを示しました。 ・この結果は、マントルが“異なる岩石の寄せ集め”ではなく、均質なパイロライト組成であることを支持します。 ■概要  岡山大学惑星物質研究所の石井貴之准教授と学習院大学の糀谷浩教授、赤荻正樹名誉教授らの共同研究チームは、高温高圧実験により、マントル主要鉱物ガーネットの相転移が、660 km不連続面の形成を支配していることを明らかにしました。この研究成果は5月25日、英国の地球科学雑誌「Nature Communications」の論文として掲載されました。  地球内部の深さ660 km付近には、地震波速度が急変する「660 km不連続面」があります。従来は、主要鉱物リングウッダイトの分解(ポストスピネル転移)が原因と考えられてきましたが、観測される660 km不連続面の複雑な凹凸構造を十分に説明できませんでした。本研究では、マントルで2番目に多いガーネットに着目し、リングウッダイトとガーネットが共存するより現実的な条件で実験を行いました。その結果、ガーネットの相転移が先に起こり、その反応がリングウッダイトの分解を誘発する「連動反応」であることを発見しました。ガーネットの存在を考慮することにより、冷たい沈み込み帯、温かいホットプリューム、平均的なマントル温度のいずれでも、観測される660 km不連続面の凹凸を一貫して説明できることが明らかになりました。 ■発表内容 現状  岩石で構成されている地球マントルには、深さ660 km付近に「660 km不連続面」と呼ばれる境界があります。ここでは地震波の速さが急に変化することが知られており、マントルを上部と下部に分ける境界と定義されています。沈み込むプレートや地球深部から上昇する物質が停滞するなど、地球内部の構造や進化を理解する上で非常に重要な場所とされています。近年の地震観測では、この境界が地域によって大きく上下にゆがんでいることが明らかになっており、プレートの沈み込み帯の下では深く陥没し、逆にハワイやアイスランドのようなホットスポットの下では浅く持ち上がる場所と深く陥没している場所があるという特徴的な構造が見つかっています(図1)。しかし、なぜこのような複雑な凹凸が生まれるのかは、長い間大きな謎として残されていました。従来、この境界はマントルの主要鉱物であるリングウッダイトが高圧で分解する反応によって形成されると考えられてきました。しかし、この反応だけでは、観測されているような大きな深さの変化や地域差を十分に説明することができませんでした。 研究成果の内容  岡山大学惑星物質研究所の石井貴之准教授と学習院大学の研究グループは、マントルでリングウッダイトに次いで多く存在するガーネットに注目し、両者がどのように影響し合いながら変化していくのかを、地球内部の極限環境を人工的に作り出す川井型マルチアンビル高圧発生装置2)を用いて、独自に開発した高温高圧下での超精密比較実験で検証しました。その結果、これまで独立した反応と考えられてきたガーネットとリングウッダイトの高圧相転移が、実際には密接に結びついた「連動反応」として進行していることが明らかになりました。まずガーネットが高圧下で別の鉱物(下部マントル主要鉱物ブリッジマナイト)に変化し、その際に生じる化学成分の変化が、リングウッダイトの分解反応を誘発するという新しいメカニズムが確認されました。  今回の成果でもう一つ重要なのは、あらゆる地域の660 km不連続面の凹凸構造を解釈する際にガーネットの存在を考慮しなければいけないことを示している点です。今回得られた結果とこれまで蓄積されてきたデータを基に、660 km不連続面の凹凸は、地域ごとの温度差によって、ガーネットの振る舞いが変化することで説明できることがわかりました。これは、従来の単純な化学組成モデルでは説明が難しかった観測結果を統一的に理解できることを意味し、660 km不連続面の成因に関する大きな前進となります。  さらに、この成果は、地球のマントルが「さまざまな岩石の寄せ集め」ではなく、マントル岩石のモデルとして広く受け入れられているパイロライト3)で構成されている可能性が高いことも示しており、地球がどのように形成され、進化してきたのかを考える上で重要な手がかりとなります。 社会的な意義  660 km不連続面の仕組みが明らかになったことで、地震や火山活動を生み出す地球内部の物質や熱の流れを、これまでより正確に理解できるようになります。また、マントルの組成や地球の進化モデルの見直しにもつながり、地球科学全体の基盤を大きく前進させる成果です。 ■研究者からのひとこと 今回の成果は、学生時代から抱いていた疑問に15年間取り組んできた研究の集大成です。長い年月をかけて積み上げてきたものが形になり、大きな達成感があります。この間に、地球深部科学は大きく発展し、当時はその重要性を過小評価していた疑問が今では重要なテーマとして注目されるようになりました。「科学は常に前進し、積み重ね、挑戦し続けるほど新しい景色が見えてくる」、それが研究の醍醐味だと感じています。学生や若い研究者の皆さんには、ぜひ“自分の疑問”を大切にしてほしいです。小さな疑問でも向き合い続ければ、世界の見方を変える発見につながることがあります。 (岡山大学惑星物質研究所 石井貴之准教授) 図1.地震学的に観測されている地球マントル660 km不連続面の凸凹構造。青帯:沈み込んだ低温のプレート(例:トンガ・マリアナ沈み込み帯直下)、オレンジ帯:マントル深部から上昇した高温のプリューム(例:ハワイホットスポット直下)、黄線:リングウッダイトーガーネット連動ポストスピネル相転移による660 km不連続面、赤線:アキモトアイト-ブリッジマナイト相転移による660 km不連続面の陥没、緑線:ガーネット-ブリッジマナイト相転移(ポストガーネット転移)による660 km不連続面の陥没。 ■論文情報  論 文 名:Role of garnet shaping the 660-km seismic discontinuity  掲 載 誌:Nature Communications  著  者:Takayuki Ishii, Hiroshi Kojitani, Masaki Akaogi  D O I:10.1038/s41467-026-73717-6  U R L:https://www.nature.com/articles/s41467-026-73717-6 ■補足・用語説明 1) 高圧相転移: 結晶を構成する原子は規則正しく配列していますが、圧力・温度が変化すると、全く違った配列に変化することがあります。これを相転移と言います。地球を構成する主要な鉱物は、地球深部の深さに相当する圧力で様々な相転移を起こし、より高密度の鉱物(高圧鉱物)になります。 2) 川井型マルチアンビル高圧発生装置: 川井型マルチアンビル高圧発生装置は、地球深部と同じような「超高圧・高温」の環境を実験室で再現するための装置です。外側に配置された複数の硬いアンビル(押し金具)が、中心に置かれた試料を三次元的に均等に押し込むことで、地球内部の数万~数十万気圧に相当する圧力をつくり出します。さらに高圧力セル内部に設置している電気炉で加熱することで、例えば660 km不連続面周辺の温度である1600℃を超える高温条件も同時に実現できます。岡山大学惑星物質研究所は、特にこの装置を用いた研究を推進しており、世界でも屈指の技術力を有しています。 この装置を使うことで、地球の深さ数百~数千 kmに相当する極限環境を人工的に再現でき、地球内部で鉱物がどのように変化するのかを直接調べることができます。今回の研究で明らかになったガーネットとリングウッダイトの連動した相転移も、この装置によって実証することができました。 3) パイロライト: パイロライト(pyrolite)は、地球のマントルがどのような化学組成をしているかを示す「代表的なモデル岩石」です。地球の内部は直接見ることができないため、地震波の伝わり方や火山噴出物の化学組成、隕石の成分など、さまざまな情報を組み合わせて推定されています。その結果、マントルは特定の岩石が混ざり合った複雑な寄せ集めなのか、パイロライトと呼ばれる“平均的で均質な組成”を持つのか、議論が続いています。 パイロライトは、上部マントルに多く含まれる鉱物(オリビン、輝石、ガーネットなど)の割合をもとにしたモデルで、地球内部の物質循環やマントル対流を理解するための基準として広く使われています。今回の研究で明らかになったガーネットとリングウッダイトの連動反応は、このパイロライト組成のマントルで起こりますが、複数の岩石の寄せ集めで構成された岩石では起こりません。この違いが、地球の内部が“均質なパイロライト”である可能性を強く支持しています。 ■本研究に関するお問合せ 岡山大学 学術研究院先鋭研究領域(惑星物質研究所) 准教授 石井貴之 (電話番号)0858-43-3754(FAX)0858-43-2184 (メール)takayuki.ishii@okayama-u.ac.jp 学習院大学 理学部化学科/大学院自然科学研究科 教授 糀谷浩 (電話番号)03-5904-9377(FAX)03-5992-1029 (メール)hiroshi.kojitani@gakushuin.ac.jp ▼本件に関する問い合わせ先 学長室広報センター TEL:03-5992-1008 FAX:03-5992-9246 メール:koho-off@gakushuin.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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