昭和大学などの研究グループが、日本で初めてHPVワクチンの子宮頸がん予防効果を報告 -- HPVワクチン接種の促進、子宮頸がん予防推進に期待 --



昭和大学医学部産婦人科学講座(東京都品川区/学長:久光正、講座主任:関沢明彦)の小貫麻美子講師と松本光司教授らの研究グループは、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの子宮頸がん予防効果をわが国で初めて報告しました。一般公開されている全国がん登録データと日本産科婦人科学会の腫瘍登録データを年齢層別に統計解析し、20代女性でのみ、子宮頸がん罹患が2011年以降有意に減少していることがわかりました。さらに、HPVワクチンが予防できるHPV16型とHPV18型の検出率が20代の子宮頸がんでは2017年以降減少していることを明らかにしました。本研究成果は、2023年9月8日(米国東部標準時間)に国際科学誌 『Cancer Science』 オンライン版に掲載されました。




【背 景】
 子宮頸がんは、わが国では年間約1万人が罹患し、約2,800人が死亡するなど、患者数・死亡者数とも近年漸増傾向にあります。子宮頸がんやその前がん病変は発がん性ヒトパピローマウイルス(HPV)(※1)の持続感染によって発症することが知られています。HPVは200タイプ(型)以上に分類されていますが、このなかで主に13〜14タイプが子宮頸がんの発症に関与しています。子宮頸がんの約60%はHPV16型によって、約10%はHPV18型によって起こることがわかっています。
 現在、日本国内で使用できるHPVワクチン(※2)は、感染を予防することができるHPVの種類によって、2価ワクチン(サーバリックス:2009年10月承認)、4価ワクチン(ガーダシル:2011年6月承認)、9価ワクチン(シルガード9:2020年7月承認)の3種類があります。9価ワクチンが定期接種に導入されたのは最近(2023年4月)であるため、現在 ワクチンの効果を確認できるのは2価ワクチンと4価ワクチンです。この2つのワクチンは性交開始前の女性に接種した場合にはHPV16型やHPV18型の感染をほぼ100%予防することができます。
 すでに海外では、国家接種プログラムによる子宮頸がん予防効果が2020年以降スウェーデン・英国・デンマークで報告されています。一方、わが国では2010年11月に公費助成によるHPVワクチン接種プログラムがスタートし、2013年4月から定期接種に組み込まれましたが、副反応報告が相次いだことにより2013年6月から積極的な接種勧奨が差し控えられました。このため、HPVワクチン接種率はそれまでの約70%からほぼ0%にまで低下しました。2022年4月より定期接種の積極的接種勧奨が再開されましたが、約9年間の接種勧奨差し控えの影響は大きく、接種率は未だ回復していません。日本では接種勧奨中止となる2013年6月までに接種した、接種率の高い世代(1994〜1999年生まれ)を中心に前がん病変に対する予防効果が報告されていますが、これまでに子宮頸がんに対する予防効果の報告はありませんでした。

【成 果】
 今回、研究グループは一般公開されている全国がん登録データと日本産科婦人科学会の腫瘍登録データを年齢層別に統計解析したところ、20代女性でのみ、子宮頸がん罹患がそれまでの増加傾向から一転して、2011年以降は有意に減少していることがわかりました(図1、図2)。これは、両方のがん登録データで一致しています。しかしながら、これらのがん登録データはHPVワクチン接種歴と結びつけられていないため、20代での子宮頸がん罹患の減少は子宮頸がん検診による効果や性行動の変化など、別の要因であることも考えられます。
 ワクチン特異的な予防効果を検証するため、本研究グループでは最近約10年間にわたって全国24施設で毎年新規に診断された40歳未満の若年子宮頸がんのなかで、ワクチンでの予防が可能なHPV16/18型陽性がんの割合をモニターしてきました。子宮頸がんのHPV16/18型陽性率の年次推移を見ると、20代でのみ2017年以降で減少していることを明らかにしました(図3)。以上の結果から、わが国でも子宮頸がんに対するワクチン効果が認められると結論づけました。

【展 望】
 近年漸増傾向にあるとされてきた子宮頸がんが、20代でのみ減少に転じていることが明らかになりました。副反応問題により約9年間も積極的接種勧奨が中止されていたHPVワクチンの子宮頸がん予防効果がわが国で初めて確認できたことは、社会的インパクトの高い研究成果です。本研究の成果が広く知られることによって、今後日本でもHPVワクチン接種が促進され、子宮頸がん予防推進の助けになることが期待されます。

【用語解説】
※1 HPV(ヒトパピローマウイルス):パピローマウイルス科に属する。正二十面体のキャプシドに包まれた小型(直径50-60nm)のウイルスで、ゲノムは約8,000塩基対の環状2本鎖DNAである。現在では200タイプ以上に分類されているが、皮膚に感染し良性のイボの原因となるもの(1、2型等)、粘膜に感染して尖圭コンジローマ(外陰部の乳頭腫)の原因になるもの(6、11型)や子宮頸がんの原因になるもの(16、18、31、33、45、52、58型等)など、HPVの型によって感染部位と生じる疾患が異なる。
 子宮頸部に感染するHPVの感染経路は性的接触によるが、HPVはごくありふれたウイルスで、性交経験がある女性のほとんどはHPVに感染すると考えられている。HPV感染の多くは不顕性感染で免疫によって排除されるが、一部の女性で持続感染が生じると前がん病変を経由して子宮頸がんを発症する。HPVに感染してから子宮頸がんに進行するまでの期間は、数年~数十年と考えられている。

※2 HPVワクチン:現在、日本国内で使用できるHPVワクチンには2価ワクチン(サーバリックス:2009年10月承認)、4価ワクチン(ガーダシル:2011年6月承認)、9価ワクチン(シルガード9:2020年7月承認)の3種類がある。2価ワクチンは、子宮頸がんからの検出率が最も高いHPV16型とHPV18型の感染を予防することができ、4価ワクチンはHPV16/18型に加えて尖圭コンジローマの原因となるHPV6/11型の感染も予防できる。9価ワクチンはさらに、子宮頸がんの原因となるHPV31/33/45/52/58型の5つのタイプの感染も予防でき、2023年4月より定期接種に導入された。
 日本では公費助成による接種プログラム(12-16歳女子が対象)は2010年11月よりスタートしたが、副反応問題により2013年6月から2022年3月まで約9年間積極的な接種勧奨が差し控えられていた経緯がある。接種勧奨中止前に接種した世代(''ワクチン世代'':1994-1999年生まれ)では接種率は約70%とされているが、それ以降の世代では接種率が1%以下にまで急落した。接種率が高い''ワクチン世代''は、現在24-29歳になっている。なお、HPVワクチンは、強力な感染予防効果はあるが、既感染に対する治療効果はない。HPVは性交にて感染するウイルスであるので、性交開始前に接種することが重要である。

※詳細は下記の論文掲載URLより参照。

【論文情報】
・雑誌名:Cancer Science
・タイトル:HPV vaccine impact on invasive cervical cancer in Japan: Preliminary results from cancer statistics and the MINT study
・DOI:10.1111/cas.15943
・掲載日:2023年9月8日(米国東部標準時間)
・著者名:Mamiko Onuki, Fumiaki Takahashi, Takashi Iwata, Hiroshi Nakazawa, Hideaki Yahata, Hiroyuki Kanao, Koji Horie, Katsuyuki Konnai, Ai Nio, Kazuhiro Takehara, Shoji Kamiura, Naotake Tsuda, Yuji Takei, Shogo Shigeta, Noriomi Matsumura, Hiroyuki Yoshida, Takeshi Motohara, Hiroyuki Yamazaki, Keiichiro Nakamura, Junzo Hamanishi, Nobutaka Tasaka, Mitsuya Ishikawa, Yasuyuki Hirashima, Wataru Kudaka, Mayuyo Mori-Uchino, Iwao Kukimoto, Takuma Fujii, Yoh Watanabe, Kiichiro Noda, Hiroyuki Yoshikawa, Nobuo Yaegashi, Koji Matsumoto for the MINT Study Group
・掲載URL(オープンアクセス) https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cas.15943

〔研究支援〕
 本研究は日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けて行われました。
・事業名:新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業
・研究開発課題名:思春期女性へのHPVワクチン公費助成開始後における子宮頸癌のHPV16/18陽性割合の推移に関する疫学研究
・研究代表者:昭和大学 松本光司
・研究事務局:昭和大学 小貫麻美子
・研究分担者:北海道大学 渡利英道、岩手医科大学 高橋史朗、東北大学 島田宗昭、自治医科大学 藤原寛行、筑波大学 佐藤豊実、埼玉医科大学国際医療センター 吉田裕之、東京大学 森繭代、慶應義塾大学 岩田卓、京都大学 濱西潤三、近畿大学 松村謙臣、岡山大学 中村圭一郎、九州大学 矢幡秀昭、久留米大学 津田尚武、熊本大学 本原剛志、琉球大学 久高亘、埼玉県立がんセンター 堀江弘二、国立がん研究センター中央病院 石川光也、がん研究会有明病院 金尾祐之、神奈川県立がんセンター 佐治晴哉、静岡県立がんセンター 平嶋泰之、大阪国際がんセンター 上浦祥司、兵庫県立がんセンター 山口聡、四国がんセンター 竹原和宏、九州がんセンター 岡留雅夫、国立感染症研究所 柊元巌

▼本件に関する問い合わせ先
 昭和大学 医学部 産婦人科学講座 教授
 松本 光司
  TEL: 03-3784-8551
  E-mail: matsumok@med.showa-u.ac.jp

▼本件リリース元
 学校法人 昭和大学 総務部 総務課 大学広報係
 TEL: 03-3784-8059
 E-mail: press@ofc.showa-u.ac.jp

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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昭和大学
ホームページ
https://www.showa-u.ac.jp/
代表者
久光 正
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非上場
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〒142-8555 東京都品川区旗の台1-5-8

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