【神奈川大学理学部】北海道で発⾒された⽩亜紀後期の海の頂点捕⾷者プリオサウルス類化石―首長竜プリオサウルス類はいつ消えたのか―



ポイント
・北海道内4か所から発見されて博物館に収蔵されていたプリオサウルス類の化⽯を詳細に調査。
・2つの標本は北米産の大型種に匹敵する⼤型個体であることを解明。
・北西太平洋で首長竜の3つの主要な系統が約9,400万年前の環境変動を生き延びたことが判明。




【概要】
神奈川大学の佐藤たまき教授、帯広畜産大学の永井克尚獣医師、北海道⼤学総合博物館の越前谷宏紀資料部研究員、足寄動物化⽯博物館の新村龍也学芸員、中川町エコミュージアムセンターの⽦⽥吉識センター⻑、幕別町教育委員会の添⽥雄⼆学芸員の研究グループは、北海道内4か所から発見された首⻑⻯プリオサウルス科の化石を研究し、⽻幌標本(北海道⼤学総合博物館所蔵)と中川標本(中川町エコミュージアムセンター所蔵)が北⽶産の大型種メガケファロサウルス・エウレルティ(Megacephalosaurus eulerti)に匹敵する大きさの頭蓋骨を持つ⼤型個体であることを明らかにしました。

今回検討を行った上記の羽幌標本および中川標本、そして小平標本(北海道博物館所蔵)、三笠標本(国⽴科学博物館所蔵)は、いずれもアマチュア研究家らが北海道内4か所の⽩亜紀後期の地層から発見したものです。これらの首⻑⻯プリオサウルス科の化石は、長いもので40年近く博物館に収蔵されており、研究が進められていない状況でした。

これを受け、研究グループはこれらのプリオサウルス類の標本を記載・再記載し、その⽣層序学的・古地理的重要性を検討しました。これらの化⽯は断⽚的なため属や種のレベルでの同定はできませんでしたが、本研究によって⽻幌標本と中川標本が非常に⼤型の個体であることが明らかになったほか、エラスモサウルス科とポリコティルス科の既知の年代分布に加え、本研究で記載されたプリオサウルス科の標本の年代から、北西太平洋において、白亜紀後期の⾸⻑⻯の3つの主要な系統がセノマニアン期末(約9,400万年前)の環境変動を生き延びたことが判明しました。

なお、本研究成果は、2023年6⽉15⽇(木)オンライン公開の Cretaceous Research 誌に掲載されました。



【背景】
⾸⻑⻯は中生代の海棲爬虫類で、白亜紀にはエラスモサウルス科、ポリコティルス科を含むレプトクレイドゥス類、プリオサウルス科の3系統が認められています。このうち、エラスモサウルス科とポリコティルス科は⽩亜紀最後期まで生息したことが知られていますが、プリオサウルス科は⽩亜紀後期の中頃に絶滅したと考えられています。

プリオサウルス科は巨⼤な頭蓋骨と⻭と短い首が特徴的な首長竜のグループで、ジュラ紀後期や⽩亜紀前期には体⻑が10m以上に達するものもいたことが知られています。おそらくジュラ紀や⽩亜紀の海の頂点捕⾷者であったにもかかわらず、プリオサウルス科の絶滅については、あまり研究が進んでいません。

今回の研究では、下記4地点の白亜紀後期の地層(図1、図2)から発見されたプリオサウルス類の標本を記載・再記載し、その⽣層序学的・古地理的重要性を検討しました。

(1)羽幌標本(図3、図4):
2000年に⽻幌町上羽幌で発見された頭蓋骨、椎骨、骨盤などを含む6個のノジュール(砂川市の⼭中重利さんが発見、北海道大学が採集、北海道⼤学総合博物館所蔵)

(2)中川標本(図5):
1994年に中川町安川のセノマニアン期中期の地層で発見された下顎の断片2点(中川町の鈴⽊正さんと三笠市⽴博物館の早川浩司博⼠が採集、中川町エコミュージアムセンター所蔵)

(3)小平標本(図6):
1983年に⼩平町達布(地層や年代は不詳)で発見された下顎の一部と単離した歯8本(剣淵町の林俊⼀さんと横井活城さんが採集、北海道博物館所蔵[当時は北海道開拓記念館])

(4)三笠標本(図7):
1970年頃に北海道三笠市桂沢のセノマニアン期後期の地層で発見されたプリオサウルス類の歯(国⽴科学博物館所蔵)



【研究成果】
羽幌標本のノジュールには共産化⽯として、複数のアンモナイト、イノセラムス、二枚貝に似ていますが別のグループである腕⾜動物、ウニの棘が見つかりました。これらのアンモナイトとイノセラムスの年代分布から、⽻幌標本の年代はチューロニアン期後期であると分かりました(図2)。

羽幌標本の頭蓋骨の大きさは、鼻先から頸椎が関節する後頭顆という部位までの長さが約1.5mで、頭蓋骨全体の最大長はさらに大きかったと推定されます。これは、北米のほぼ同年代の地層から見つかっている大型種メガケファロサウルス・エウレルティ(Megacephalosaurus eulerti)の大型個体に匹敵します。メガケファロサウルスの化石は頭蓋骨以外の部位が見つかっていません。しかし、より小型のプリオサウルス類の椎骨と比べて1.5倍から2倍の大きさの椎骨を持つことからも、羽幌標本は当時のプリオサウルス科としては非常に大きな個体であったことが分かります。

なお、メガケファロサウルスと羽幌標本が別属または別種であるかどうかは、残念ながら不明です。しかし、多くの北米産のプリオサウルス科の歯に見られる、歯冠のすじが枝分かれするという特徴は、羽幌標本を含む日本産の標本やヨーロッパ産の標本では今のところ確認されていません。

中川標本は⼤型のプリオサウルス類の右下顎の中ほど部分に相当します。下顎全体の⼤きさを推定するのは難しいですが、下顎の高さから、右下顎の⻑さが1.71mであるメガケファロサウルスとほぼ同じ⼤きさの⼤型個体である可能性が⽰唆されます。ただし、個々の⻭の間隔がメガケファロサウルスの下顎の同等部分よりも密であるため、別の分類群であると考えられます。

小平標本の下顎の癒合部は細長くて、メガケファロサウルスやブラカウケニウスのタイプ標本に見られるような短くてずんぐりした⼝吻ではなかったようです。

また、⼩平標本は歯の成長段階によって形態が異なることを示しています。交換⻭(未成熟な歯)や⼩さい⻭では⻭冠のすじがほとんど発達していないのに対し、⼩平標本や今回記載された他の標本の⼤きな⻭では密で明瞭なすじが⾒られます。
三笠標本は、先行研究でポリプティコドン(Polyptychodon)属に同定されていました。しかしこの属は他の属との区別が不明瞭であることから最近では疑問名とされており、今回の研究ではプリオサウルス科属種不明と同定しました。

本研究は、⽣層序学的・古地理学的にも重要なものです。セノマニアン・チューロニアン境界(約9,400万年前)は古くから生物相に大きな変化があった時期として認識されており、最近の研究では、世界各地で海洋無酸素事変に関連した海洋環境の⼤変化があったことが分かっています。海棲爬⾍類の主要グループのうち、⿂⻯類はセノマニアン期に絶滅し、あたかもそれに取って代わるように、モササウルス亜科の多様化はセノマニアン期から次のチューロニアン期の間に起こりました。

公表されている⽩亜紀後期のプリオサウルス類の化⽯記録は北半球のものに限られ、ほとんどがセノマニアン期のもので、チューロニアン期以降の化石は非常に少ないことから、プリオサウルス科は白亜紀末の大量絶滅を待たずに絶滅したと考えられています。今回の4標本のうち、小平標本を除く3標本の産出年代はセノマニアン期中期からチューロニアン期後期と特定でき、セノマニアン期末の海洋無酸素事変を越えて、プリオサウルス類が北⻄太平洋地域でチューロニアン期後期まで⽣存していたことが明らかになりました(図2)。

北海道の白亜紀後期の地層から産出する脊椎動物化⽯は、統計的な分析を行うにはあまりに少なく断⽚的ですが、本研究で報告されたプリオサウルス科と同様に、エラスモサウルス科とポリコティルス科の⾸⻑⻯はセノマニアン期とチューロニアン期の両⽅で知られています。したがって、少なくともセノマニアン期末の北⻄太平洋では、⾸⻑⻯の主要な系統の絶滅はなかったと考えられます。



【今後への期待】
⽇本の白亜紀後期の地層からは、様々な海棲脊椎動物の化石が報告されています。残念ながらその多くは断片的ですが、地質学に先行研究の蓄積があり、標本と産出地点の情報が博物館に保管されていたことで、今回のような研究が可能になりました。

今後もこれらの地層に含まれるプリオサウルス類の化⽯をさらに慎重に調査することで、さらには今回のようなアマチュア研究家による次の新発見によって、北⻄太平洋のプリオサウルス類の終焉はいつ起きたのか、そして北半球や南半球の他の場所と同時に起こったのかどうかの検証が進むと期待しています。



<論文情報>
論文名 Pliosaurid (Reptilia: Sauropterygia) remains from the Upper Cretaceous of Japan, and their biostratigraphic and paleogeographic significance(⽇本の上部⽩亜系産のプリオサウルス類化⽯とその⽣層序学的・古地理的重要性)
著者名 佐藤たまき1、永井克尚2、越前⾕宏紀3、新村龍也4、⽦⽥吉識5、添⽥雄⼆6(1神奈川⼤学、2帯広畜産⼤学、3北海道⼤学総合博物館、4⾜寄動物化⽯博物館、5中川町エコミュージアムセンター、6幕別町教育委員会)
雑誌名 Cretaceous Research(エルゼビアによる⽩亜紀と⽩亜紀/古第三紀境界を扱うトピックに焦点を当てた科学ジャーナル)
DOI 10.1016/j.cretres.2023.105593
公表日(オンライン公開) プレプリント版2023年5月26日、最終版2023年6月15日


<お問い合わせ先>

神奈川⼤学理学部⽣物科学科 教授 佐藤たまき(さとうたまき)
TEL 0463-59-4111(代) メール tsato@kanagawa-u.ac.jp
北海道⼤学総合博物館 資料部研究員 越前⾕宏紀(えちぜんやひろき)
TEL 011-706-2658(代) メール etizen@museum.hokudai.ac.jp
中川町エコミュージアムセンター センター⻑ ⽦⽥吉識(ひきだよしのり)
TEL 01656-7-2877 メール nmhikida@coral.ocn.ne.jp

<配信元>

神奈川大学広報課(〒221-8686 神奈川県横浜市神奈川区六角橋3-27-1)
TEL 045-481-5661(代表) FAX 045-481-9300 メール kohou-info@kanagawa-u.ac.jp
北海道大学社会共創部広報課(〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目)
TEL 011-706-2610  FAX 011-706-2092  メール jp-press@general.hokudai.ac.jp
中川町エコミュージアムセンター(〒098-2626 北海道中川郡中川町安川28-9)
TEL 01656-8-5133  FAX 01656-8-5134 メール kubinaga@hokkai.or.jp




【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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