【名古屋大学】ウミウシ?いいえ、ゴカイです 〜ウミウシに擬態する新属新種のゴカイを世界で初めて発見〜



名古屋大学大学院理学研究科附属臨海実験所の自見 直人 講師は、マレーシアサインズ大学(マレーシア)、生態進化研究所(ロシア)、ブラネス高等研究センター(フランス)との共同研究で、ウミウシに擬態する新属新種のゴカイを三重県の菅島、和歌山県の古座、ベトナムで発見し、新属新種の記載を行い「ケショウシリス」と命名しました。
今回見つかった新属新種の「ケショウシリス」はサンゴの仲間であるウミトサカに住んでいます。共生性の生物は通常は宿主に溶け込んで目立たないような色彩になりがちですが、ケショウシリスは宿主であるウミトサカとは全く異なる色彩や形をしており、溶け込むというよりは逆に目立ってしまうような状況でした。
そこでケショウシリスの周辺に生息するウミウシを調べたところ、それらに良く似た形や色をしていることが分かりました。ウミウシには毒をミノと呼ばれる部分に保持して外敵から身を守る種が知られています。ケショウシリスもウミウシのミノのように大きくなった触手をもち、触手の先端の模様もミノの模様にそっくりです。ケショウシリス自体はウミウシのような毒を触手には保持していませんが、毒をもつウミウシに擬態することで、自身も危険であると外敵に認知させ食べられることから逃れていると考えられます。ウミウシに擬態するゴカイは世界で初めての発見です。
本研究を元に、生物において興味深い現象である「擬態」がどのように進化してきたのかが明かされていくことを期待します。
本研究成果は、2024年7月29日18時(日本時間)付Nature & Springer Publishingが発行する国際査読付き雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。




【本研究のポイント】
・ウミウシに良く似た形や体色をもつ新属新種のゴカイを発見した。
・同じ海域に住む毒を持っているウミウシに擬態することで敵から逃れていると考えられる。ウミウシに擬態するゴカイは世界で初めての発見である。
・このような擬態は環形動物においては非常に珍しい発見であり、擬態の進化に迫ることができる種である。


【研究背景と内容】
擬態とは、生物が自分以外の環境や生物に形、色、におい、動き、音等を似せることで、生存する上での利益を得る現象で、多くの生物において知られています。通常では考えられないような形や色等を獲得している擬態は、生物学において多くの人の興味を惹きつけてきました。蝶や蜂を代表として昆虫で良く擬態の研究は進んでいますが、海洋生物、特にゴカイの仲間においてはほとんど研究が進んでいませんでした。

今回名古屋大学の自見 講師らが、附属臨海実験所がある三重県の菅島のほか、和歌山県の古座とベトナムの計3地点において調査を進めていたところ、非常に変な形や色をした新属新種のゴカイ「ケショウシリス」を発見しました。


ケショウシリスはウミトサカと呼ばれるサンゴの仲間に共生しているのですが(図1)、宿主であるウミトサカとは全く異なる色彩や形をしており溶け込むどころか目立ってしまっていました。共生性の生物は、その宿主と似たような形や色をすることが多く、通常とは異なり目立つような色彩をもつことは何故なのかが不思議な状況でした。形に関してもケショウシリスの近縁種とは異なり、大きく触手が発達しており、この触手がどのような役割を果たすのか不明でした。


そこで周辺の海域に生息するウミウシを調べていたところ、ケショウシリスに非常に良く似たウミウシの仲間が生息していることが判明しました(図2E)。このウミウシの仲間はミノと呼ばれる部分の先端に毒を溜め込みます。ケショウシリスに特徴的な非常に大きくなった触手は、ウミウシのミノに非常にそっくりです。大きい触手と小さい触手が交互に存在するところや、先端が白くなり先端から少し離れたところが色が濃くなるところが酷似しています。他にもゴカイに特徴的な足の先の毛が体内にしまわれていることで、よりウミウシのような見た目に近づいているように見えます。ケショウシリスのウミウシに似たこれらの形質は、近縁種では見られず、ケショウシリスにおいて獲得されたものであると考えられます。このことから、ケショウシリスにおいてウミウシ擬態が獲得されたということになります。ウミウシに擬態するゴカイは世界で初めての発見です。


ケショウシリスの触手の先端にはウミウシのような毒は存在せず、ケショウシリスは毒のあるウミウシに擬態し、自身も毒があるように外敵に錯覚させることで捕食を免れていると考えられます。このような擬態をベイツ型擬態といいます。また、触手の先端に毒は無くとも、体のどこかに毒がある可能性は残されています。その場合、毒がある生物同士が同じような模様になる、このことをミュラー型擬態といいます。ケショウシリス全身の毒性はまだ調べることができていないので、ミュラー型擬態なのかベイツ型擬態なのかを判断することはできないのですが、いずれにせよ環形動物においては非常に珍しい現象です。

和名であるケショウシリスの「ケショウ」は、色鮮やかであることから「化粧」、ウミウシに擬態することから「化生」の2つの意味をかけて命名しています。学名のCryptochaetosyllis imitatioは、属名は「毛を隠すシリス(注1)」、種小名は「擬態する」という意味から命名しています。


【成果の意義】
ウミウシそっくりになるには何が大事なのか、外敵はどのように捕食対象を認識しているのか、遺伝子はどうなっているのか等、ケショウシリスを用いて生物の擬態がどのように進化してきたのかが明らかになっていくと期待します。ミュラー型擬態またはベイツ型擬態は環形動物においては非常に珍しい現象であり、ケショウシリスのグループにおいて獲得されたと考えられます。これらの擬態がどのように獲得されるのか、ということを解明するためのモデルとしてケショウシリスを使っていくことができればと思います。

本研究は、昭和聖徳記念財団、科研費 22K15165、Nagoya University Research Fund、の支援のもとで行われたものです。


【用語説明】
注1)シリス:
シリス科 Syllidae のゴカイの総称。ゴカイの中でも非常に大きなグループで、キングギドラシリス等変わった形をもつものも多い。共生性の種が多くサンゴからも良く見つかる。

【論文情報】
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:A new genus and species of nudibranch-mimicking Syllidae (Annelida, Polychaeta)
著者:Naoto Jimi(名古屋大学), Temir A Britayev, Misato Sako, Sau Pinn Woo, Daniel Martin
DOI: 10.1038/s41598-024-66465-4




▼本件に関する問い合わせ先
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FAX:052-788-6272
メール:nu_research@t.mail.nagoya-u.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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