COVID-19パンデミックによる消化器がんの診断数とStage推移の再報告

-大腸がんの診断数は回復したが、胃がんの診断数は減少継続-

 横浜市立大大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学の日暮琢磨講師、同大大学院生 葛生健人さんらの研究グループは、消化器がんの新規診断に関してCOVID-19の流行と共にどのように変化するか、流行以前から2021年までの期間で解析した消化器がんの診断数、Stage*1、診断契機を初めて報告しました。
同研究グループは以前、消化器がんの新規診断に関してCOVID-19が流行する前と流行期(2020年)での変化を調べた結果*2、胃がん、大腸がん、特に早期胃がんと早期大腸がんの診断数が有意に減少し、大腸がんに関しては進行したStageで発見される例が増加したことを報告しました。今回、その継続研究としてワクチンが普及し始め、徐々に社会活動が活発になってきた2021年まで観察期間を延ばして解析した結果を新たに報告しました(図1・2)。
 解析の結果、COVID-19による感染対策による受診抑制や生活様式の変化の影響はもうしばらく続くと思われましたが、既に大腸がんに関してはCOVID-19流行前の水準へ戻っていました。しかし、胃がんは依然としてCOVID-19流行前と比較し有意に減少しており、特に早期胃がんの診断数が有意に減少したままでした。またStageに関しては大腸がんと胃がんで進行したStageで発見される例が増加していました(図3・4)。これは、大腸がんスクリーニングとしては便潜血検査という侵襲の少ない検査があるため、診断数が回復してきているのに対し、早期胃がんスクリーニングとしては侵襲の大きな胃カメラ検査しかないことが影響しているのではないかと考えられます。胃カメラ検査を受けるべき患者に適切なタイミングで検査を受けてもらうことが重要です。
 本研究成果は、「Cancers」に掲載されています。(2023年9月4日掲載)

研究成果のポイント
  • 新規消化器がんに対するCOVID-19流行による受診抑制の影響はすでに薄れてきている。
  • 2021年も胃がんの診断数は依然有意に減少していた。特に早期胃がんは減少継続。
  • 胃カメラ検査を受けるべき患者に適切なタイミングで検査を受けてもらうことが重要。

研究背景
 本研究グループは、先行研究で、消化器がんの新規診断をCOVID-19が流行する前と流行期(2020年)での変化を調べた結果、胃がん、大腸がん、特に早期胃がんと早期大腸がんの診断数が有意に減少し、大腸がんに関しては進行したStageで発見される例が増加したことを報告していています。その後、日本を含め諸外国からも同様な結果を報告する研究が発表されました。本研究では、がんの診断数の推移を明らかにするために先行研究と同様のデータベースを用いて、ワクチンが普及し始め、ウイルス株も変わり致死率が低下し、徐々に社会活動が活発になってきた2021年まで観察期間を延ばして解析を行いました。


 図1・2 大腸がんのStage別の月平均の新規診断患者数の変化と診断契機の変化
  (P値
*3が黄色いStageが有意な減少もしくは増加を示しています)


 図3・4 胃がんのStage別の月平均の新規診断患者数の変化と診断契機の変化
  (P 値が黄色いStage が有意な減少もしくは増加を示しています)


研究概要と結果
 本研究グループは横浜市立大学附属病院と国立病院機構横浜医療センターの2病院において2017年から2021年までの5年間で新たに消化器がん(食道がん、胃がん、大腸がん、膵がん、肝臓がん、胆道がん)と診断された全患者6453人を調べました。2017年から2020年2月までをCOVID-19流行前、2020年3月から12月を流行1期(自粛期)、2021年1月から12月を流行2期(with COVID-19)と分類し各期間で診断数、診断時のStage、今回はがん発見契機についても比較検討しました。
 その結果、新規の大腸がんの診断数は流行前と比較し、流行1期では13.5%と有意に減少していたが流行2期では10.6%増加していました。しかし、新規の胃がんの診断数は流行前と比較し、流行1期では26.8%有意に減少し、流行2期でも19.9%の有意な減少を認めました(図5)。中でも胃がんStage Iは流行2期でも26.9%の有意な減少が持続していました(図3)。一方で流行前と比較し流行2期で大腸がんのStage IIIは66.0%、胃がんのStage IIIは65.0%の有意な増加を認めました(図1)。
 また発見契機を見てみると健診から見つかるがんは大腸がん、胃がんともに流行2期で流行前より増加しているが、外来フォロー中の患者のスクリーニングで見つかるがん流行前と比較し流行2期で大腸がんは19.2%増加しているのに対して、胃がんは34.5%の有意な減少が続いていました(図2・4)。
 その他の膵臓がん、食道がん、肝臓がん、胆道がんに関してはそれぞれ変化に特徴はあるのもの有意な変化は認めませんでした(図6~図13)。



図5 消化器がん別の新たにがんと診断された月平均の患者数の変化
(P値が黄色いStageが有意な減少もしくは増加を示しています)



 図6・7 膵臓がんのStage別の月平均の患者数の変化と診断契機の変化


 図8・9 食道がんのStage別の月平均の患者数の変化と診断契機の変化


 図10・11 肝臓がんのStage別の月平均の患者数の変化と診断契機の変化


 図12・13 胆道がんのStage別の月平均の患者数の変化と診断契機の変化


研究結果の意義と今後の展望
 消化器がんに対するCOVID-19の影響はもうしばらく持続するのではないかと思われましたが、病院への受診制限がなく、また医療機関への利便性が高い日本においては既にCOVID-19の影響は薄れてきていました。
 内視鏡件数は流行初期の医療機関への受診抑制によって一度減少しましたが大腸カメラ検査、胃カメラ検査ともにCOVID-19前と比べ有意な差はなくなっていました。しかし、大腸がん患者数がCOVID-19前のレベルに戻ったのに対して胃がん患者数は少ないままでした。ピロリ感染率の低下に伴い胃がん患者数自体が減少している影響もあるとは思われますが、健診だけではなく外来フォロー中のスクリーニングで見つかる胃がんが有意に減少したままであることを考慮すると、これまで1度も胃カメラ検査を受けていなかったり、胃がんリスクの高い萎縮性胃炎でも定期フォローを行っていなかったりする可能性があります。つまり胃カメラ検査を受けるべき患者に適切なタイミングで検査を受けるように呼びかけることが大切だと考えられます。
 COVID-19の流行という不測の事態によって、図らずも、受診控えによるがん診断への影響を知ることができ、この結果は今後のがん対策の一助になると思われます。少子高齢化が進む中、限られた医療資源を効率よく使用できるように、がんリスクの高い患者さんへの啓発を勧めるとともに、検査を受けるべき患者へしっかり検査を推奨できるように医師への啓発も勧めていきたいと考えています。

論文情報
タイトル:Changes in the Number of Gastrointestinal Cancers and Stage at Diagnosis with COVID-19 Pandemic in Japan: A Multicenter Cohort Study
著者:Kento Kuzuu, Noboru Misawa, Keiichi Ashikari, Shigeki Tamura, Shingo Kato, Kunihiro Hosono, Masato Yoneda, Takashi Nonaka, Shozo Matsushima, Tatsuji Komatsu, Atsushi Nakajima, Takuma Higurashi
掲載雑誌:Cancers
DOI:http://doi.org/10.3390/cancers15174410

用語説明
*1 Stage:がんの進行度を示す病期のこと。数値が大きくなるほど進行していることを示す。がんの種類によって多少異なるが多くの場合Stage0-1が早期がんである。

*2 2021年に発表した研究成果:COVID-19パンデミックによる受診抑制が消化器がんに及ぼした影響 ~胃がん・大腸がん(特に早期)の診断数が減少し、診断時のStageが進行~
https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2021/20210916higurashi.html

*3 P値:統計学的に有意な差があるかを解析する際に用いる指標(確率)。P値が0.05以下の際に有意な差があるとしてる。


















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組織名
横浜市立大学
ホームページ
https://www.yokohama-cu.ac.jp/
代表者
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〒236-0027 神奈川県神奈川県横浜市金沢区瀬戸22-2
連絡先
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