「Xデー」が迫る中、今回の債券市場では過去の動きが参考になるのでしょうか?
ポール・グレインジャー
ヘッド・オブ・グローバル・フィクストインカム&カレンシー
政治的対立により瀬戸際に至り、米国の債務上限に関する土壇場の妥協案が合意される、このようなシナリオをこれまで何度も見てきました。今回の債務上限交渉の政治的背景は控えめに言っても不安定であり、米国政府の借入枠が尽きる日である「Xデー」を巡る不確実性から、偶発的なデフォルトがリスクとなっています(ただし、シュローダー・グローバル・フィクストインカム&カレンシーチーム(以下、運用チーム)の基本シナリオではありません)。
歴史は有用な参考となり得るため、2011年に債務上限が期限のわずか2日前に引き上げられた際との比較がなされています。当時の市場の反応は、深刻なセンチメント悪化につながり、米国債はAAAから格下げされたにもかかわらず上昇し、安全通貨は他の通貨に対して上昇し、信用スプレッドは拡大しました。
しかしながら、2011年の状況と直接比較することには注意が必要です。なぜなら、当時の市場環境は大きく異なっていたからです。当時は、ユーロ圏は欧州債務危機という独自の課題を抱えており、欧州周縁国国債のドイツ国債に対するスプレッドが大幅に拡大し、他の景気循環資産も弱含んでいました。
今回は、過去40年超で最も積極的となった利上げサイクルが終了に近づいている局面にあり、金利はすでにかなりの高水準にあります。また、米国の経済活動データも大幅に悪化しており、市場を動かす要因の中から債務上限によるものだけを切り分けることがより困難になっています。
さらには、米国の地方銀行セクターの混乱を受けて、貸出基準の引き締めによる経済成長への逆風も加わっています。
これまでのところ、市場は現在のリスクに対してやや悲観的な反応を見せています。Xデーが予想される時期に満期を迎える米国庫短期証券(T-Bill)は大幅に下落し、米国のソブリン・クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は2011年よりもスプレッドが拡大した水準で取引されています。しかし、当時と金利環境が大きく異なるため、デフォルト確率という点ではあまり有用な比較ではありません。一方で、リスク資産や通貨のボラティリティ(変動性)は今のところ落ち着いており、一部の市場は債務上限リスクを過小評価していることを示しています。
Xデー近くでは市場の反応が大きくなる傾向
歴史的に見ると、Xデーに近づくとボラティリティが上昇しています。市場はこの法則を認識していますが、今回はボラティリティがより手前の段階で上昇する可能性があると考えます。運用チームの分析によると、市場価格は今後より深刻な景気減速を織り込み、クレジット・スプレッドは拡大すると見ています。つまり、ハイイールド債券が投資適格債券に劣後し、国債価格が上昇し、米ドル安、特に日本円のようなディフェンシブ通貨に対してドル安が進むと考えられます。
なお、今回は米国連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ余地が大きく、イールドカーブの形状に異なる影響を与える可能性があることは注目に値します。2011年当時は、イールドカーブのリスクはフラット化(平坦化)でした。
当面は政治が市場の動きを左右する
より有意義な交渉を行うために、ある程度の延長期間が設けられると可能性が高いと思われます。これは市場に安心感を与えるかもしれませんが、これで終わりというわけではなく、不透明感は継続するでしょう。
当面は動きの激しい市場動向が継続することが見込まれますが、信頼感の低下は、世界的な経済成長の鈍化とディスインフレの進行につながり、国債利回りに低下圧力がかかると考えます。
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