横浜市立大学附属病院 放射線部 加藤真吾講師らの研究グループは、磁気共鳴画像法(MRI)
*1を用いた新型コロナワクチン(mRNAワクチン)接種後の心筋炎の障害部位、重症度のメタ解析
*2を行った結果、mRNAワクチン接種後にみられる心筋炎は、ウイルス感染に伴う心筋炎と比較して、画像所見上の重症度は高くないことが明らかになりました。
本研究の成果はmRNAワクチンを接種するにあたり、副作用のリスクを考える上で貴重なデータとなります。
本研究成果は、欧州心臓病学会の学会誌「ESC Heart Failure」に掲載されました。
研究成果のポイント
- mRNAワクチン接種後の心筋炎患者において、87%の症例はMRI画像で検出可能であり、MRI検査が診断に有用であった。
- mRNAワクチン接種後の心筋炎は、ウイルス性心筋炎と比較して、壊死の量が少なく画像上の重症度は高くない。
- 本研究の成果はmRNAワクチンを接種するにあたり、副作用のリスクを考える上で貴重なデータである。
研究背景
mRNAワクチン接種後の心筋炎は、発症率約0.001-2%程度と稀ではありますが、最も注意すべき副反応の1つです。社会問題にもなっていますが、疾患の病態については未だ不明な点が多いと言われています。磁気共鳴画像法(MRI)は、心筋浮腫や線維化などの心筋組織の性状を評価できる検査方法であり、心筋炎を評価するうえで有用な検査方法です。MRIを用いたmRNAワクチン接種後の心筋炎を評価したデータが世界中から報告されており、本研究においては、それらのデータをメタ解析することで画像所見の全体像を評価しました。
研究内容
本研究では、12の論文から274名のワクチン後心筋炎のMRIの画像所見のデータを抽出し、メタ解析を行いました。患者の多くはmRNAワクチン2回目接種後の若い男性患者(年齢中央値:17歳、男性:91.6%、2回目接種後:91.4%)であり、MRIでの左心室の異常造影効果(心筋壊死または線維化)は88%(95%信頼区間
*3:81-92%)に認められました。心筋壊死の好発部位は心外膜側76%(95%信頼区間:61-91%)、下側壁74%(95%信頼区間:55-94%)でした。心筋壊死量は心筋全体の1〜3.9%と少なく、心機能はほぼ正常(左室駆出率中央値:58.3%、範囲:51.6〜60.6%)であり、87%の患者がMRIによる急性心筋炎の診断基準(Lake Louise基準)を満たしており、MRIの診断感度の高さが示されました(図1)。
(図1) mRNAワクチン後心筋炎患者のうちMRIの心筋炎の診断基準(Lake Louise基準)を満たす症例の割合:87%[95%信頼区間(73%-100%)]
メタ解析の結果、実際に心筋炎を起こした患者において、87%の症例はMRI画像で診断可能ということが明らかになった一方で、画像所見では心筋壊死の量は少ないことが示されました。
今後の展開
本研究では、mRNAワクチン接種後の心筋炎はMRIの重症度は高くないことが示され、ワクチン接種の副作用のリスクを考える上で貴重なデータとなります。しかし、mRNAワクチン接種後の心筋炎の長期予後に関しては不明の点も多いため、今後も報告を注視していく必要があります。
論文情報
タイトル: Imaging characteristics of myocarditis after mRNA-based COVID-19 vaccination: a meta-analysis
著者: Shingo Kato, Nobuyuki Horita, Daisuke Utsunomiya
掲載雑誌: ESC Heart Failure
DOI:
https://doi.org/10.1002/ehf2.14236
用語説明
*1 磁気共鳴画像法(MRI):核磁気共鳴現象を利用し生体内の内部の情報を画像にする方法である。近年は技術の発展により、心筋炎の診断にも用いられるようになった。
*2 メタ解析:複数の臨床研究の結果を統計学的に統合する解析方法で、より高い見地から分析すること。
*3 95%信頼区間:真値(知りたい値)を推定するにあたり、95%の確率で真値を捉えると考えられる区間のこと。