摂南大学(大阪府寝屋川市)経済学部経済学科郭進教授と田中鉄二准教授は、バイオ燃料の生産などの外的要因がアフリカの食料価格へ伝播するメカニズムを、最新の計量経済モデルを用いて初めて解明しました。その共著論文が、2022年12月にエネルギー経済学分野のトップジャーナルである『Energy Economics』(URL:
https://doi.org/10.1016/j.eneco.2022.106422)に掲載されました。
【本件のポイント】
●バイオ燃料の生産などの外的要因がもたらすアフリカの食料価格への伝播メカニズムを最新の計量経済モデルを用いて初めて解明
●米国のバイオ燃料生産量と農産物への金融投機がアフリカの食料価格の高騰に影響
●農産物への金融投機活動の抑制とアフリカ諸国の食料自給率アップの必要性示す
近年、気候変動による食料供給の影響が世界各地で顕在化しています。更に、ウクライナとロシアの戦争が勃発し、食料とエネルギー価格の高騰に拍車をかけました。中でも、食料の輸入をロシアとウクライナに大きく依存しているアフリカ諸国は持続的な食料不足に直面しており、主食であるトウモロコシや小麦(図1)の価格高騰による生活費の上昇は、社会的不安や政治的混乱を引き起こす可能性があります。また、近年開発が進むバイオ燃料は大量のトウモロコシや大豆が資源になるなど、グローバル化でアフリカ経済が世界経済の変動に影響を受けやすくなっています。郭教授らはアフリカ諸国の食料安全保障を考えるために、バイオ燃料の生産などの外的要因がアフリカの食料価格へもたらす影響を最新の計量経済モデルを用いて解明することにしました。
分析手法として「拡張的時変パラメータベクトル自己回帰」を使い、バイオ燃料の生産量、農産物への金融投機、国際エネルギー価格、国際食料価格などの外的要因が時間と共にアフリカの食料価格に影響を与えるメカニズムを実証分析し、以下の主な結果が得られました。
1) 2000年のITバブルの崩壊、2007年の食料危機、2008年の世界金融危機、および2020年のコロナ禍の
パンデミックの時期において、外的要因がアフリカの食料価格により強い影響を与えた
2)米国のバイオ燃料生産量と農産物への金融投機がほかの外的要因に比べて、アフリカの食料価格に与える
インパクトが大きい
3)農産物を原料とするバイオ燃料の生産が長期にわたって(2002~2021年)アフリカの食料価格に影響を及ぼした
本研究の分析結果から、アフリカ諸国の食料安全保障のため、農産物への金融投機活動を抑制し、投機目的の取引にトービン税=注=を導入することが必要だということが分かりました。また、バイオ燃料の生産による農産物の価格上昇の影響を減らすためには、アフリカ諸国におけるトウモロコシ以外の食料品に対する消費量を増し、食料消費の多様化を推進することが重要です。更に、食料価格の高騰による社会的不安や政治的混乱を防ぐためには、アフリカ諸国が自国の食料自給率の向上を図るべきであるということが言えます。
本研究は日本学術振興会(JSPS)科研費JP21K05805(研究代表者:郭 進)の助成を受けたものです。
注:トービン税=ノーベル経済学賞受賞者のジェームズ・トービンが1972年に提唱した税制度。投機目的の短期的取引を抑制するための国際通貨取引への超低率の課税
▼本件に関する問い合わせ先
学校法人常翔学園 広報室
坂上、上田
住所:大阪府寝屋川市池田中町17-8
TEL:072-800-5371
【リリース発信元】 大学プレスセンター
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