◆580万人のデータを用いて特定健診・保健指導の効果を検証◆肥満指標と生活習慣病にわずかな改善を認めるも、時間と共に減衰~ナショナルデータベースを用いた研究~



 このたび関西大学ソシオネットワーク戦略研究機構(RISS:The Research Institute for Socionetwork Strategies)の中尾葉子研究員(リーズ大学心血管代謝研究機構)、本西泰三研究員(関西大学経済学部)らは、厚生労働省より提供を受けた匿名レセプト情報・匿名特定健診等情報データ(ナショナルデータベース)を用いて、分析を実施しました。その結果、特定健診で保健指導対象と指摘された人をそうでない人と比較すると、男女ともに肥満指標がわずかに改善されたことがわかりました。また、血圧、ヘモグロビンA1c、中性脂肪値においても短期的な改善が見られました。




【本件のポイント】
・保健指導対象と指摘された人はそうでない人と比較し、肥満指標がわずかに改善
・心血管リスクや生活習慣も改善を認めた
・実際に保健指導を受けた人の改善効果は、受けていない人より大きい可能性がある
・しかしその効果は、年々減衰を認める



■ 研究背景

 生活習慣病である高血圧、糖尿病、脂質異常症は、増加の一途をたどっています。これら生活習慣病の罹患により動脈硬化が進行することで、循環器疾患を発症する危険が増大します。循環器疾患は国民医療費や要介護の原因の大きな割合を占めており、生活習慣病の予防と治療は不可欠です。



 特定健康診査(特定健診)・特定保健指導は、他国に類を見ない全国規模で実施されている日本独自の予防政策です。特定健診・保健指導で収集したデータは厚生労働省において蓄積され、匿名化された「匿名レセプト情報・匿名特定健診等情報データ(ナショナルデータベース)」は研究利用されています。本研究では、このナショナルデータベースを用いて、特定健診・保健指導により、その後の腹囲・体重等の肥満指標や心血管リスク、生活習慣に改善が見られるかを縦断的に検討しました。データ分析に際しては準実験的手法の一つである、回帰不連続デザインを採用しました。

■ 研究成果
 2014年に特定健診を受診した5,819,041人(男性:3,490,112人、女性:2,328,929人)のうち、保健指導対象と指摘された人は、1年間で肥満指標がわずかに減少しました(腹囲:男性 -0.27 cm(95% 信頼区間 [CI] -0.29 ~ -0.26);女性 -0.34 cm(-0.41 ~ -0.27)、体格指数:男性 -0.07 kg/m2(-0.075 ~ -0.066);女性 -0.11 kg/m2(-0.13 ~ -0.10)、体重:男性 -0.21 kg(-0.22 ~ -0.19);女性 -0.28 kg(-0.32 ~ -0.24))。ただしこれらの効果は、時間の経過とともに減衰しました。男女ともに、血圧、ヘモグロビンA1c、空腹時血糖、中性脂肪にも短期的な改善が見られました。


 さらに、その後保健指導を受けた人では、保健指導を受けなかった人より大きな改善が見られた可能性があります(腹囲:男性 -5.0 cm(95% 信頼区間 -5.3 ~ -4.6);女性 -5.7 cm(-7.0 ~ -4.4)、体格指数:男性 -1.3 kg/m2(-1.4 ~ -1.2);女性 -1.9 kg/m2(-2.1 ~ -1.6)、体重:男性 -3.8 kg(-4.0 ~ -3.5);女性 - 4.7 kg(-5.3 ~ -4.0))。また、保健指導は男性の血圧、ヘモグロビンA1c、空腹時血糖、中性脂肪、およびHDLコレステロールの改善と関連していましたが、関連の大きさは女性でより小さくなりました。

■ 論文情報
論文名: Impact of a national screening programme on obesity and cardiovascular risk factors
著者名: Yoko M Nakao (中尾葉子)1,2,3 , Chris P. Gale2,3,4, Kei Miyazaki (宮崎慧)1,5,
Hajime Kobayashi (小林創)1,6, Ayako Matsuda (松田絢子)6, Ramesh Nadarajah2,3,4,
Taizo Motonishi (本西泰三)1,6

所属(研究当時):
1 関西大学ソシオネットワーク戦略研究機構
2 Leeds Institute of Cardiovascular and Metabolic Medicine, University of Leeds
3 Leeds Institute for Data Analytics, University of Leeds
4 Department of Cardiology, Leeds Teaching Hospitals, NHS Turst
5 関西大学商学部
6 関西大学経済学部

雑誌名:European Journal of Preventive Cardiology
DOI: https://doi.org/10.1093/eurjpc/zwac283
公表日:2022年11月30日(オンライン公開)

※本研究は、関西大学教育研究高度化促進費による支援を受けて実施されました。

【本件に関するお問い合わせ先】
●ソシオネットワーク戦略研究機構研究員・リーズ大学心血管代謝研究機構 中尾 葉子(なかお ようこ)
E-mail:y.nakao(at)leeds.ac.uk ※(at)は@に置き換えてください。
●ソシオネットワーク戦略研究機構研究員・関西大学経済学部教授 本西 泰三(もとにし たいぞう)
E-mail:tmoto(at)kansai-u.ac.jp ※(at)は@に置き換えてください。

 RISSは文部科学省「共同利用・共同研究拠点」に認定されている関西大学の付置研究所であり、実験回数・実験参加者数等の点で国内最大規模の経済実験室を学外に開放するとともに、経済実験やビッグデータ分析などを通じた、行動科学に基づく政策研究を行っています。




▼本件の詳細▼
関西大学プレスリリース
https://www.kansai-u.ac.jp/ja/assets/pdf/about/pr/press_release/2022/No52.pdf



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【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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