目的に応じてツーバイフォー工法と在来軸組工法を使い分け、木造建築の利点を引き出す
カナダ林産品の普及活動を行う非営利業界団体カナダウッドの日本事務所、カナダウッドジャパン(所在地:東京都港区、代表:ショーン・ローラー)より、2022年6月に竣工した木造の高齢者福祉施設の事例をご紹介します。
厚生労働省所管の独立行政法人福祉医療機構による耐火木造施設への融資を契機として2010年以降、日本では木造施設が増加傾向にあります。特に高齢者福祉施設においては、木造は利用者にとって木の温かみが感じられ、コンクリート造に比べて歩行感に優れることから身体の負担も軽減されるという利点もあり、中でも建物の品質や性能を維持しつつ建築コストを低減できるツーバイフォー工法(枠組壁工法)は大きな魅力です。加えて、木材は二酸化炭素を固定化し、環境保護にも貢献できるため、政府も建築物の木造化を推奨する動きがあり、木造建築に対する注目は一層高まっています。
2022年6月に竣工し、7月に開所した兵庫県伊丹市の高齢者福祉施設「中野ぬくもりの郷(さと)」(建築主:社会福祉法人伊丹市社会福祉事業団)は、建築主の「安全・安心」「多様性」「拠り所」という基本理念に対して、「地域に根ざした家」をコンセプトに木造分棟形式の集合体として計画され、設計は株式会社松田平田設計(本社:東京都港区、代表取締役社長:江本正和、以下:松田平田設計)、施工は住友林業株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:光吉敏郎、以下:住友林業)が手掛けました。
(左)「中野ぬくもりの郷」 (右)地域交流棟外観(提供:日暮雄一(株式会社日暮写真事務所))
養護老人ホーム棟、特別養護老人ホーム3棟、地域交流棟の計5つの建物が連結して構成される延床面積3,000㎡超の木造施設となっており、それぞれの棟は目的に応じて適切な工法を使い分けています。養護老人ホーム棟はツーバイフォー工法での3階建てで多くの居室を効率的に配置し、特別養護老人ホーム棟はツーバイフォー工法の平屋建てですべての居室に庭を持ち、自宅のような安らぎをもたらしています。中央に位置する地域交流棟には在来軸組工法を用いており、入居者だけでなく地域のイベントにも活用されるため、木材を現(あらわ)し露出させた木材特有の温かみと迫力のある大空間としています。そして、外観は切妻屋根にすることで、伊丹市の歴史ある酒蔵の街並みを継承し、調和するデザインに仕上げています。
(左)特別養護老人ホーム棟外観(提供:日暮雄一(株式会社日暮写真事務所))
(右)地域交流棟内観(提供:日暮雄一(株式会社日暮写真事務所))
「中野ぬくもりの郷」では、木造の採用で設計および施工の工期とコストの最小限化を実現しました。特別養護老人ホーム各棟を繋ぐ境界部には異種構造(鉄骨造耐火建築物)を挟むことで各棟を耐火上別棟扱いにし、これにより火災時の建物間の延焼を防ぐとともに耐火規定を緩和しています。
利用者に向けた工夫としては、特別養護老人ホーム3棟を1階に配置することで夜間緊急時の職員の移動と対応を容易にしたほか、養護老人ホーム棟は2ユニットを1フロアに配置し、少ない職員数であっても多くの入居者のケアが可能な構造としました。また、地域交流棟の正面の柱は通行の妨げにならないよう、可能な限り小さな断面にしており、柱頭は木桁梁の代わりに鉄骨T断面にして垂木を強調した架構計画としています。
正面柱の柱頭部
カナダ林産業審議会 市場開発部本部長のケビン・ビューズは、「大規模木造建築における在来軸組とツーバイフォー両工法のハイブリッド構造は、多彩なデザインの可能性を広げることができるほか、建設費の抑制にも貢献できるため、カナダではすでに一般的な手法となっています。一方、日本ではこのような事例はまだ少なく、今回、松田平田設計と住友林業のチームにより竣工した「中野ぬくもりの郷」は、革新的なプロジェクトと言えます。今後の日本の大規模木造建築に発展と拡大をもたらす、素晴らしい事例と言えるでしょう」とコメントしています。
カナダウッドジャパンでは、今後も日本国内における高齢者福祉施設をはじめとした非住宅分野でのツーバイフォー工法のさらなる普及および情報発信に取り組み、引き続き木材の利用機会拡大・促進に努めていきます。
本件に関するお問合せ先: カナダウッドジャパン TEL 03-5401-0531