脱炭素社会に向けた意欲的な計画を持つ企業は、業種を問わず、気候変動対策のリーダーとなることができます。これからの10年間は、これまでとは異なり、気候変動対策のリーダーであることが競争上の優位性となると考えます。
サイモン・ウェバー
グローバル株式リードファンドマネジャー
イザベラ・ハーベイ・バサースト
グローバル・セクター・スペシャリスト
この夏、気候変動への対応が急務であることが明らかになりました。トルコやカナダ、中国、ドイツ等、様々な地域で火災や洪水が発生し、異常な熱波や降雨の影響が明らかになりました。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は8月、このまま地球温暖化が進めば、このような異常気象がより頻繁に発生するようになると警告しました。そのため、温室効果ガスの排出量を削減し、地球の気温上昇を産業革命前と比べて2℃か、できれば1.5℃に抑えるための迅速な行動が必要です。
多くの国の政府が炭素排出量をゼロにする目標を掲げているにもかかわらず、世界は気温上昇を抑えるための軌道に乗っていません。シュローダーが長期的な気温上昇予測を客観的に示す指標として開発した「気温上昇予測ダッシュボード」においても、足元進展は見られるものの、最新の長期的な気温上昇予測は3.4℃となっています。より多くのことを、しかも迅速に行う必要があります。
これは投資家にとってどのような意味を持つのでしょうか?
緊急性が高まっていることから、投資家は、急速な脱炭素化の実現に向けた戦略に自分の資産を確実に投資したいと考えるようになっています。2021年のシュローダーの機関投資家調査によると、機関投資家の21%が気候変動リスクを投資に影響を与える主な要因としていますが、2020年はわずか8%でした。
脱炭素化に投資するということは、風力タービンやソーラーパネルの製造会社等、製品を通じてエネルギー転換を直接実現している企業だけを選択することを意味するかもしれません。しかし、すべての産業が温室効果ガスの排出削減に貢献する必要があるという認識が高まっています。
図表1に示すように、スコープ1およびスコープ2の排出量を測定した結果、排出量の少ない企業は、排出量の多い競合他社と比較して、すでに株価にプラスの影響が出始めています。スコープ1の排出量は、企業の活動によって直接発生するもので、スコープ2には企業が使用するエネルギーが含まれます。
(図表1)炭素集約度の低い企業は、集約度の高い競合他社と比べ株価にプラスの影響
しかし、企業はより野心的になってきています。より多くの企業がネットゼロに取り組む中で、その目標をスコープ3の排出量、つまりバリューチェーンの中でサプライヤーや販売された製品の使用によって発生する間接的な排出量にまで拡大しつつあります。
間接的な排出量を企業目標に含めるということは、企業が目標を達成するために、同じ道を歩むサプライヤーと協力しなければならないということであり、ビジネスパートナーシップの好循環が生まれ始めています。
実際にそのような例を目にする機会が増えています。日本の電子部品サプライヤーの村田製作所は、最近、投資家に対して、「お客様の排出量の観点において村田製作所はスコープ3に含まれるため、お客様は部品サプライヤーを選定する際に村田製作所の温室効果ガス排出量削減の取り組みを必ず確認しており、満足のいく温室効果ガス排出量削減の取り組みを提示できなければ、ビジネスを失うことになるという明確なリスクがある」と説明しています。
これは、新しい要素がビジネス関係に入り込んできた最近の一例であり、気候変動対策のリーダーシップを有することが、競争上の優位性へと変化していくことは明らかだと考えています。
したがって、これらの企業への投資家は、より高い投資リターンを得ることができます。
取り組みが先行する企業は、遅れている企業よりも低リスクの投資対象となる可能性があります。サプライチェーンを含む事業の脱炭素化を他社に先駆けて進めることで、気候変動対策のリーダーは、温室効果ガスの排出に対する規制や課税、価格の設定について、政府や社会がより積極的に行動するというシナリオにおいて、そのリスクを最小限に抑えることができます。
気候変動対策のリーダーを見極めるには
企業は、その活動がエネルギー転換に直接関係していなくても、気候変動対策のリーダーになることができます。
気候変動対策のリーダーとは、脱炭素化のための野心的な計画を持つ企業と定義しています。これらの計画は、気候変動に関するパリ協定で定められている地球温暖化のシナリオを1.5℃以下にすることと一致している必要があります。
このような企業をどのようにして見つけるのでしょうか?まず、全世界の株式を対象に、2030年までに単位生産量あたりの排出量を80%削減するという排出削減目標を掲げている企業を探します。
次に、企業から提供されたデータを、Science-Based Targetsイニシアチブや国連のRace to Zeroなどの他の情報源と照合します。これらはいずれも、科学的根拠に基づいた排出削減目標を設定しようとする企業にとってのベストプラクティスを確立するためのものです。
また、排出量の削減目標が80%未満であっても、重要な点として、地域のセクター平均よりも単位生産量あたりの排出量を80%削減することを目標としている企業を気候変動対策のリーダー企業とみなしています。つまり、全体の目標が80%削減に満たなくても、明らかに同業他社をリードしている企業です。これは、すでに気候変動対策でリーダーシップを発揮している企業にペナルティを与えないためです。このような企業は、さらなる排出量の削減が難しくなるのは当然です。
また、これほど厳しい目標を掲げていなくても、業界の特性上、野心的で明確な気候変動対策のリーダーとなっている「はみ出し者」の企業があることも認識しています。
気候変動対策のリーダーシップの実践例:マイクロソフト
野心的な目標だけでは十分ではなく、その目標をどのように達成するのか、詳細な計画を立てる必要があります。また、目標には動きが必要です。目標が達成された後は、より野心的な目標を新たに設定する必要があります。私たちは、企業が目標達成に向けて順調に進んでいるかどうかを注意深く監視する必要があります。なぜなら、大変なのは目標設定ではなく、変化の実行だからです。
気候変動対策のリーダーとして、マイクロソフト社が挙げられます。同社は、ビジネスのあらゆる部分を動員するような野心的な目標を設定し、定期的に進捗状況を評価することを約束しています。
例えば、マイクロソフトは2025年までに使用する電力を再生可能エネルギー100%にすることを目標としています。また、2030年までに水の消費量を上回る水を補給するウォーター・ポジティブになること、2030年までに廃棄物ゼロの認証を受けること、すべての新規建設物の森林伐採量を実質ゼロにすることを約束しています。
さらにマイクロソフトは、2030年までにカーボンニュートラルを実現し、2050年までに1975年の創業以来に発生させたカーボンフットプリントをすべて相殺させることを約束しています。
どうやってこれを実現するのでしょうか?
ひとつの方法として、マイクロソフトの各部門が排出する炭素量に応じて支払う「炭素税」を社内で設定しています。この税金は、すでにスコープ1と2の排出量をカバーしていますが、今年からはスコープ3の排出量も含まれます。この税金は、各部門が排出量に注意を払い、その削減に努めるというインセンティブになります。
しかし、排出量を減らすことと、過去の排出量を相殺することは別のことです。過去の排出量を相殺するために必要な技術の多くは、まだ生まれたばかりの段階にあります。
そこでマイクロソフトは、炭素の削減・回収・除去技術のグローバルな開発を促進するために、気候イノベーション基金に10億ドルを投資しています。
重要なのは、マイクロソフトが毎年発行する「環境サステナビリティレポート」で、その進捗状況を公開していることです。
マイクロソフトはすでにネットゼロへの道を歩んでいますが、他の多くの企業は、脱炭素化の旅のはるかに初期段階にあります。
私たちは、脱炭素化の責任に真剣に取り組んでいる企業への投資に、明確な投資機会があると考えています。社会や政策立案者が、消極的な企業には罰則を与え、気候変動への取り組みを支援する企業には報酬を与える方向へと舵を切る中、こうした投資は価値を生み出すことができると考えます。
(図表2)マイクロソフトの2030年までのカーボン・ネガティブへの道筋
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