生分解性脂質ナノ粒子を用いたマクロファージへの核酸医薬の送達が疾患の治療に有効な手段となる可能性を実験的に証明

 横浜市立大学大学院医学研究科 免疫学 川瀬 航(かわせ わたる)(大学院生)、黒滝 大翼(くろたき だいすけ) 講師(現 熊本大学 特任准教授)、田村 智彦(たむら ともひこ)教授らの研究グループは、エーザイ株式会社、東京大学と共同で、生分解性脂質ナノ粒子(LNP)を用いたマクロファージ(*1)への核酸送達による転写因子IRF5(*2)発現の抑制により肝炎の発症を抑制できることをマウスにおける実験で明らかにしました。本研究成果は米国科学誌「Molecular Therapy - Nucleic Acids」に掲載されました。(日本時間2021年9月11日午前0時)

研究成果のポイント
  • 生分解性LNPは様々な組織のマクロファージに短い二本鎖RNA(siRNA)を送達できることを示した。
  • IRF5は肝炎の治療標的となることをマウスモデルにより示した。
  • IRF5に対するsiRNAを内包する生分解性LNPのマウス肝炎モデルへの投与実験により肝障害が抑制されることを明らかにした。

研究背景
 核酸医薬は低分子化合物や抗体では標的とすることが困難な分子を特異的に抑制できる可能性だけではなく、目的のタンパク質を新たに作り出すことができることから世界中で研究開発が進められています。核酸医薬の実現にはRNAなどの核酸を安定的に目的の場所へ送達する物質の開発が必須です。脂質ナノ粒子(LNP)は核酸を細胞内に送達することが可能な微粒子製剤の1つであり、2018年にアメリカ食品医薬品局に承認された世界第一号となるRNA干渉(*3)治療薬や、さらに最近では新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンにも採用されていることから非常に注目を集めています。
 2017年にエーザイ株式会社では低毒性かつ効率的に核酸を内包可能な生分解性LNPを開発しました(Suzuki et al, Int J Pharm 2017)。生分解性LNPは肝細胞に核酸を送達できることが明らかにされていましたが、免疫細胞に対する生分解性LNPの効果は十分に解析されていませんでした。

研究内容
 本研究では、生分解性LNPがどのような免疫細胞に取り込まれるのか詳しく解析を行いました。その結果、マクロファージ、特に肝臓に存在するマクロファージが生分解性LNPをよく取り込むことが分かりました。一方で、リンパ球や顆粒球などほかの免疫細胞へはほとんど取り込まれませんでした。次に生分解性LNPを送達物質として用いることで、マクロファージに発現する遺伝子の発現を抑制できるかについて評価しました。マクロファージは炎症性疾患の増悪化に関与することが知られています。そこで生分解性LNPに内包させるsiRNAの標的分子として、マクロファージで強く発現し、炎症の誘導に重要な転写因子IRF5を選択しました。IRF5に対する短い二本鎖RNA(siRNA)を内包した生分解性LNP(siIrf5-LNP)をマウスに投与したところ、肝臓などさまざまな臓器のマクロファージにおいてIRF5の発現が7日間以上も抑制されることがわかりました。以上の結果は、生分解性LNPをsiRNAの送達物質として利用することで、組織に存在するマクロファージにおいて長期的に遺伝子発現を抑制できることを示しています。
 さらに、炎症性疾患における生分解性LNPの有用性を調べるために、肝臓に存在するマクロファージが疾患発症に重要な役割を果たすことが知られている、コンカナバリンA(レクチンの一種)投与マウス肝炎モデルを用いて評価しました。まず、IRF5遺伝子を欠損したマウスでは肝障害が改善されることを明らかにし、これはIRF5が肝炎における治療標的となることを示しています。次に、siIrf5-LNPを投与したところ、炎症を引き起こす物質であるTNFやIL-6といった炎症性サイトカインの産生が減少し、肝障害が抑制されることがわかりました(図1)。



図1 本研究結果から考えられる生分解性LNPによる肝炎の予防効果

今後の展開
 本研究から、生分解性LNPを用いたsiRNAのマクロファージへの送達が炎症性疾患の治療のための有効な手段になる可能性が示されました。また生分解性LNPは生体内におけるマクロファージの機能を調べる研究にも有用と考えられます。今後は生分解性LNPの取り込み効率のさらなる改善等を行い、新たな治療法開発へ繋げていきたいと考えています。

研究費
 本研究は、文部科学省「先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム 翻訳後修飾プロテオミクス医療研究拠点の形成」(産学連携協働企業としてエーザイ株式会社からのマッチングファンドを含む)、エーザイ株式会社からの共同研究費、日本学術振興会科学研究費助成事業の支援を受けて実施されました。

論文情報
タイトル: Irf5 siRNA-loaded biodegradable lipid nanoparticles ameliorate concanavalin A-induced liver injury.
著者: Wataru Kawase*, Daisuke Kurotaki*, Yuta Suzuki, Hiroshi Ishihara, Tatsuma Ban, Go R. Sato, Juri Ichikawa, Hideyuki Yanai, Tadatsugu Taniguchi, Kappei Tsukahara, and Tomohiko Tamura (*Co-1st authors)
掲載雑誌: Molecular Therapy - Nucleic Acids
DOI: 10.1016/j.omtn.2021.08.023

[参考]
用語説明
*1 マクロファージ:免疫において重要な役割を持つ免疫細胞の一種。体内に侵入してきた病原体などの異物を食べて死滅させるが、過剰に活性化することで炎症性疾患の原因ともなる。
*2 転写因子:ゲノム上のDNA配列を認識・結合して遺伝子の発現を制御するタンパク質。
  IRF5:自然免疫応答において働く転写因子。
*3 RNA干渉: siRNAにより特定の遺伝子の発現が抑制される現象。

参考文献
Suzuki, Y., Hyodo, K., Suzuki, T., Tanaka, Y., Kikuchi, H. and Ishihara, H. Biodegradable lipid nanoparticles induce a prolonged RNA interference-mediated protein knockdown and show rapid hepatic clearance in mice and nonhuman primates. Int J Pharm. 519, 34-43, 2017.




本件に関するお問合わせ先
横浜市立大学 広報課
E-mail:koho@yokohama-cu.ac.jp

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