【東芝】電力損失を大幅に低減可能なパワー半導体トリプルゲートIGBTを開発

スイッチング時の電力損失を全体で最大40.5%低減、あらゆる電力機器に搭載される電力変換器を高効率化し、カーボンニュートラルの実現に貢献

■概要
当社は、電力の制御等に用いられるパワー半導体において、電力のオンとオフが切り替わるスイッチング時の電力損失(以下、スイッチング損失)を全体で最大40.5%低減するトリプルゲートIGBT(*1)を開発しました。
IGBTにおける電力損失は、IGBTがオン状態の際の電力損失(以下、導通損失)を低減させると、スイッチング損失が増えるというトレードオフの関係にあり、その改善が求められています。ゲート電極を3つ有する新構造のシリコンIGBTと、それらのゲート電極のオン/オフを高精度に切り替えるゲート制御技術により、導通損失を増加させることなく、ゲート電極がひとつのみの従来のIGBTと比較してターンオン損失(*2)を50%、ターンオフ損失(*3)を28%(全体で最大40.5%)と大幅に低減することに成功しました。パワー半導体の電力損失低減によるエネルギー利用効率の高効率化はカーボンニュートラルのカギとなると言われており、中でも、IGBTは現在幅広い分野に使用されている主要なパワー半導体で、さらなる電力損失低減への期待が高まっています。今回開発した技術により、再生可能エネルギーシステムや電気自動車、鉄道、産業機器といったあらゆる電力機器に搭載される電力変換器の高効率化が見込めます。
当社は本技術の詳細を、5月30日から6月3日にかけてオンラインで開催されるパワー半導体国際学会「ISPSD2021」にて発表します。

■開発の背景
電力を制御するパワー半導体は、電力エネルギーを“つくる”、“おくる”、“ためる”、“かしこくつかう”のあらゆる場面で使用され、安定した電源供給、省エネ化・省電力化に不可欠です。近年、カーボンニュートラルの実現に向けた電気自動車の普及や再生可能エネルギーによる発電量の増加などを背景にパワー半導体市場が拡大しています。2020年10月には日本政府が「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、今後もさらなる市場の拡大が見込まれます。
同時に、電力変換時に発生する電力損失の低減によるさらなる高効率化のために、パワー半導体のさらなる性能改善が求められています。中でも高耐圧のパワー半導体であるIGBTは幅広い電気機器の電力変換器に搭載されており、IGBTの電力損失の低減は、エネルギー利用効率向上の面からもカーボンニュートラルの実現に大きく貢献します。
IGBTは素子内部の電子とホールの蓄積量を増加させることで導通損失を低減できますが、一方でスイッチング損失が増加してしまいます。シリコンを材料とした従来のIGBTは過去30年にわたり、素子構造の改良による導通損失とスイッチング損失のトレードオフ改善が精力的に進められてきましたが、近年は性能改善が飽和傾向にあることが課題となっています。

■本技術の特徴
そこで当社は、IGBT内のキャリアである電子とホールの蓄積量をゲート駆動回路側から自在に制御することで、スイッチング損失を大幅に低減できるトリプルゲートIGBTとゲート制御技術を開発しました。
 今回開発したトリプルゲートIGBTは、同一チップ内にメインゲート(以下、MG)、第1コントロールゲート(以下、CGp)、第2コントロールゲート(以下、CGs)の計3つのゲートを有し、それらを独立に駆動させることが特徴です。ターンオン時はMG・ CGpに対してCGsを遅延させるようにゲートを制御することで、MG・ CGp・ CGsの3つのゲート電極が同時にオンになります。その結果、IGBT内に大量の電子とホールが高速に注入、蓄積されることで、スイッチング時間が高速化し、ターンオン損失を低減できます。
一方、ターンオフ時は、CGsはオフ状態としておき、MGに対してCGpを先にオフさせることで素子内部の電子とホールを減少させます。これにより、MGのオフするタイミング、すなわち、IGBTが完全にターンオフする時は電子とホールが高速に消滅し、ターンオフ損失を低減できます。
これらのトリプルゲートIGBTとゲート制御技術を組合わせることで、従来のIGBTに比べてターンオン・オフ損失をそれぞれ50%、28%削減し、全体のスイッチング損失において最大40.5%の削減を実現しました。本技術により、性能改善が飽和傾向にあったシリコンIGBTの電力損失の大幅な削減が可能となり、電力変換器での電力損失の低減に大きく貢献できます。

■今後の展望
当社は、本技術を適用したパワー半導体およびゲート制御技術の研究開発を進め、本技術の早期の実用化を目指します。当社は、さまざまなパワーエレクトロニクス応用製品の高性能化に貢献し、カーボンニュートラルの実現に貢献してまいります。




図1:トリプルゲートIGBTとゲート制御信号



図2:スイッチング波形とスイッチング損失の低減効果




*1 IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistorの略。MOSFETをベース部に組み込んだバイポーラトランジスタのこと。
*2 スイッチがオフからオンに遷移する際に発生する電力損失
*3 スイッチがオンからオフに遷移する際に発生する電力損失

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この企業の情報

組織名
株式会社 東芝
ホームページ
https://www.global.toshiba/jp/top.html
代表者
島田 太郎
資本金
20,086,900 万円
上場
東証プライム
所在地
〒105-8001 東京都港区芝浦1丁目1-1
連絡先
03-3457-4511

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