再生医療に使われる骨髄間葉系幹細胞の新しい老化メカニズムを発見 細胞老化を抑制するなど、再生医療技術の発展の可能性



近畿大学病院(大阪府大阪狭山市)麻酔科教授 中尾 慎一および近畿大学病院高度先端総合医療センター再生医療部長 福田 寛二らの研究チームは、骨や軟骨損傷の治療、皮膚難病や血管疾患など多くの領域で再生医療に使われている幹細胞の一種である「骨髄間葉系幹細胞」の新しい老化メカニズムを発見しました。骨髄間葉系幹細胞は骨軟骨疾患や脊髄損傷をはじめ多くの難病で高い効果をあげていますが、加齢による劣化や、培養による細胞老化などの問題が知られていました。
本研究成果により、移植細胞の老化を抑制するなど新たな再生医療技術の開発につながる可能性があります。
本件に関する論文が、令和2年(2020年)2月28日(金)19:00(日本時間)に、イギリスの科学誌「Scientific Reports」(インパクトファクター 4.525,2018)にオンライン掲載されました。




【本件のポイント】
●老化した骨髄間葉系幹細胞では、miR-142※1 とよばれる核酸が高発現しており、細胞小器官「ペルオキシソーム」の分解を抑制するため、細胞内に劣化したペルオキシソームが蓄積
●劣化ペルオキシソームは老化の一因である活性酸素の発生源となる
●miR-142の制御により移植細胞の老化を抑制するなど、新技術開発につながる可能性

【論文詳細】
・論文名:miR-142 induces accumulation of reactive oxygen species(ROS) by inhibiting pexophagy in aged bone marrow mesenchymal stem cells
 (マイクロRNA-142は老化骨髄間葉系幹細胞において、ペキソファジーの抑制を行うことで活性酸素の蓄積を引き起こす)
・掲載誌:Scientific Reports(IF:4.525@2018)
・著者:法里 慧、森 樹史、小野寺 勇太、辻本 宜敏、竹原 俊幸、中尾 慎一、福田 寛二
・責任著者:寺村 岳士(近畿大学病院高度先端総合医療センター再生医療部 講師)

【本件の内容】
 現在、ES細胞やiPS細胞など「幹細胞」を用いた再生医療が注目を集めています。幹細胞は「分化」と呼ばれる様々な細胞に変化する能力や、傷の治癒、炎症の抑制に効果のあるタンパク質を作り出す能力があることから、これまでに有効な治療方法がなかった難病や怪我の治療に有効であると考えられています。
 骨髄間葉系幹細胞(Bone Marrow Mesenchymal Stem Cells、以下「BMMSC」)はヒトの骨髄に存在し、骨、脂肪、軟骨などに分化することができる組織幹細胞です。移植後に腫瘍を形成する危険性が非常に低いことから、骨や軟骨損傷の治療、皮膚難病や血管疾患など多くの領域で再生医療の中心として使われています。また最近では、初の細胞医薬品としても実用化されているなど、非常に注目度の高い細胞です。その一方で、BMMSCは加齢に伴う劣化や、培養による細胞老化などの問題が知られていました。これまでにも老化のメカニズムは示されてきましたが、今回、新たな仕組みを発見しました。
 本研究では、低分子核酸の一種であるmiRNA※2 (マイクロRNA)に着目し、老化したBMMSCでの発現パターンを調べました。
 その結果、老化したBMMSCではmiRNAの「miR-142」が強く発現していること、若く健康な細胞にmiR-142を発現させると細胞小器官の一種であるペルオキシソームが増加することを発見しました。
 ペルオキシソームは脂質の代謝などに関わる働きをしており、古くなって劣化すると、細胞は自らペルオキシソームを取り除く「ペキソファジー」という仕組みで、入れ替えを行なっています。
 ペキソファジーをmiR-142が抑制することで、劣化したペルオキシソームが細胞内に蓄積してしまい、老化形質を加速させているという仕組みを明らかにしました。
 本研究成果により、再生医療に用いるBMMSCの品質検査や、miRNAを制御することで移植細胞の老化を抑制するなど、これまでになかった再生医療技術の開発が期待されます。

【研究詳細】
 今回、研究チームは老化細胞の重要な特徴である活性酸素の蓄積には、老化で発現するmiRNA(Ag-miRNA)が関与していると想定し、次世代シーケンサーによる解析でmiR-142を発見しました。研究を進める中で、劣化した細胞でみられるペルオキシソームの異常蓄積現象がmiR-142の発現によって引き起こされること、miR-142はペルオキシソームを除去するシステムを阻害していることを明らかにしました。
 これまでの研究で、老化した細胞では、いくつかの転写因子の発現が抑制されていることがわかっています。研究チームがソフトウェアによるシミュレーション解析を実施したところ、Ep300※3 という転写補酵素の減少が、老化によるmiR-142の発現を引き起こすということを明らかになりました。

【用語解説】
※1 miR-142
 miRNAの一種で、今回、老化細胞で多く作られていることが明らかになった。
※2 miRNA(Ag-miRNA)
 マイクロRNAと呼ばれる、20個前後の少数の塩基で構成されるRNA(リボ核酸)の総称。
 遺伝子の発現を調整する役割があり、近年ではがんの早期発見やiPS細胞などの再生医療分野での活用が注目されている。
※3 Ep300
 遺伝子の発現調節に関わるタンパク質の一種。ガンや再生など様々な現象に関わることがわかっている。

【関連リンク】
・医学部 医学科 教授 中尾 慎一(ナカオ シンイチ)
 https://www.kindai.ac.jp/meikan/591-nakao-shinichi.html

・医学部 医学科 教授 福田 寛二(フクダ カンジ)
 https://www.kindai.ac.jp/meikan/601-fukuda-kanji.html

・医学部 近畿大学病院高度先端総合医療センター 講師 寺村 岳士(テラムラ タケシ)
 https://www.kindai.ac.jp/meikan/1599-teramura-takeshi.html関連URLhttps://www.med.kindai.ac.jp/


▼本件に関する問い合わせ先
総務部広報室
住所:〒577-8502 大阪府東大阪市小若江3-4-1
TEL:06‐4307‐3007
FAX:06‐6727‐5288
メール:koho@kindai.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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