優れた正孔輸送特性を有するポリチオフェン系有機半導体材料を開発 ~ 極めてシンプルな分子デザインによる高い正孔輸送特性の発現に成功 ~ 東京農工大学



国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門 荻野賢司教授と大学院生物システム応用科学府生物機能システム学専攻修了生の冨田恵里さん、および大学院工学府応用化学専攻 兼橋真二特任助教は、ポリ3-ヘキシルチオフェン(P3HT)とポリスチレン(PSt)からなるブロック共重合体(注1)が、P3HT単独のものよりも3桁以上高い正孔移動度(注2)を有することを発見しました。
現在、P3HTは太陽電池をはじめ、有機電界効果トランジスタ(注3)分野への応用に大きく期待される有機半導体材料(注4)のひとつとして、さまざまな研究が進められています。今回、発見したブロック共重合体では、ミクロ相分離したP3HTドメインに生じる特殊な階層構造により、薄膜内に電子の移動に有利な“電荷の通り道”を形成していることが、高い正孔移動度の発現に関係していることを明らかにしました。本成果は、半結晶性有機高分子材料を用いた有機半導体材料の開発において、正孔移動度向上のための非常に有効なアプローチとして期待できます。




 本研究成果は、Wileyの科学誌「Macromolecular Chemistry and Physics」(8月22日付)に掲載され、本誌のフロントカバー(Issue 18/2018)に採用されます。
 タイトル:Enhancement of out-of-plane hole mobility in poly(3-hexylthiophene)-b-poly(styrene) film
 URL:https://doi.org/10.1002/macp.201800186 

現状:
 現在、有機半導体材料は、有機材料が有する軽量、フレキシブル、低コストといった利点から、有機薄膜太陽電池、有機エレクトロルミネッセンス(EL)、有機電界効果トランジスタ分野への応用に大きく期待されています。有機半導体材料は一般に低分子材料と高分子材料の二種類に分類されます。それぞれの特徴として、低分子材料は比較的電子や正孔の移動度が高く、真空蒸着法などで製膜が可能です。一方、ポリチオフェン系をはじめとする高分子材料は低分子材料に比べると移動度はやや劣るものの、溶液塗布プロセスによる大面積化が可能といった特徴があります。



研究成果:
 本研究では、半結晶性の有機半導体であるポリチオフェンと電気的に不活性な汎用高分子であるポリスチレンからなるブロック共重合体を合成し、この高分子の薄膜が高い正孔移動度を示すことを見出しました。これまで数多くのポリチオフェン誘導体を中心とした様々な共役系高分子が合成され、その正孔輸送特性が報告されていますが、今回のような極めてシンプルな分子設計により優れた正孔輸送特性の発現に成功した例はありません。互いに相分離したポリチオフェンとポリスチレンドメイン間に形成された剛直なアモルファス領域がポリチオフェンの結晶領域を結ぶ役割を果たし、その結果、効果的な''電荷の通り道''を形成し、高い正孔移動度を発現させることに成功しました。

今後の展開:
 今回合成したポリチオフェンブロック共重合体におけるポリチオフェンおよびポリスチレンの分子量や化学組成およびそれらの違いにより形成されるさまざまな異なるレベルのミクロな階層構造がどのように正孔輸送特性に影響するのか明らかにしていきます。

〈用語の解説〉
(注1)ブロック共重合体:
 2種類以上の単量体から合成される重合体であり、各成分がひとつの高分子鎖の中で結合したもの
(注2)正孔移動度:
 半導体材料中の正孔(ホール)の移動度を表し、単位電界強度における単位時間あたりに移動する平均距離のことをいう。
(注3)有機電界効果トランジスタ:
 活性層に有機半導体材料を用いた電界効果を利用した電流の流れを制御する半導体素子
(注4)有機半導体材料:
 導体と絶縁体の中間の電気伝導率を有する有機材料。プラスの電荷である正孔とマイナスの電荷である電子と呼ばれるキャリアを流すことができ、それにより電流が生じる。

◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門
 教授 荻野 賢司(おぎの けんじ)
 TEL:042-388-7404
 FAX:042-388-7404
 E-mail:kogino@cc.tuat.ac.jp

◆取材に関する問い合わせ◆
 東京農工大学総務部総務課広報・基金室
 TEL:042-367-5930
 E-mail:koho2@cc.tuat.ac.jp

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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代表者
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連絡先
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