東京工科大学(東京都八王子市、学長:軽部征夫)応用生物学部の今井伸二郎教授らの研究グループは、山梨学院短期大学食物栄養科の萱嶋泰成准教授らとの共同研究により、ライ麦や小麦などの植物種子外皮に存在する成分「アルキルレゾルシノール」が、老化抑制や生命維持に重要とされる酵素サーチュインを特異的に活性化することを発見した。この研究成果は、2017年3月2日に英国Nature Publishing Groupの科学誌「Scientific Reports」に掲載された(注1)。
【背景】
我が国の平均寿命は女性で87歳を超えるなど超高齢社会となっているが、その実態は必ずしも健康寿命が延伸しているわけではない。こうした中、高齢者の健康維持や疾病予防など健康寿命の延伸に役立つ技術の開発が期待されている。
今井教授らは、老化を抑制し、肥満や糖尿病などのメタボリックシンドローム(代謝症候群)に有効な機能性食品の研究開発に取り組んできた。本研究で着目した小麦外皮のフスマやライ麦外皮は、繊維質が豊富で従来から健康食として有用とされており、実際に「地中海式ダイエット」として注目されるギリシアのクレタ島や南イタリアの伝統的な食事法にはこれらが多く含まれている。世界規模の疫学調査や臨床試験の結果、この食事法を実践している地域の平均寿命は他の地域より長いことが確認されているが、どのような成分が効果を示すのかについては、これまで有用な知見は得られていなかった。
【成果】
サーチュインは、細胞の維持や増殖に関与するアセチル化タンパク質のアセチル基を取り除く働きをしており、量を増やしたり活性化することで寿命延長やメタボリックシンドローム抑制に繋がることが確認されている。
本研究では、植物種子外皮に多く含まれるアルキルレゾルシノールという成分をショウジョウバエに摂取させたところ、雌雄差なく通常食に比べ平均寿命が10日(22%)程度延長することを確認した。これは、人の平均寿命を80歳とするとおよそ100歳に延長したことに相当する。
一方、ぶどう種子に存在する成分レスベラトロールもショウジョウバエのオスに対して寿命延長効果を示したが、メスにはほとんど効果がなかった。また、サーチュインが遺伝的に欠損したショウジョウバエに対してアルキルレゾルシノールを摂取させた場合、寿命延長効果は見られないことから、この効果はサーチュインに依存的であることも確認された。(図1)
【社会的・学術的なポイント】
今回の発見は、地中海食の有用性を裏付ける新たな証拠の一つになると考えられる。
前述の成分レスベラトロールは、当初サーチュインを直接活性化する物質として注目されたが、その後の研究により、酵素の基質であるアセチル化タンパク質の構造次第で活性化しないことが判明している。しかし、アルキルレゾルシノールの場合は基質の構造に依存せず、サーチュインを活性化することが確認された。このような成分の確認は世界で初めての発見であり、学術的に意義深い。
(注1) 著者:K Yasunari Kayashima, Yuki Katayanagi, Keiko Tanaka, Ryuta Fukutomi, Shigeru Hiramoto, and Shinjiro Imai 論文名:Alkylresorcinols activate SIRT1 and delay ageing in Drosophila melanogastei, 雑誌:Scientific Reports, 7:43679, 2017.
■東京工科大学応用生物学部 今井伸二郎(免疫食品機能学)研究室
アレルギー等の免疫疾患や老化関連疾患予防に有効な機能性食品についての研究を行っている。
[主な研究テーマ]
1.トウモロコシヒゲによるアレルギー疾患の予防
2.金時草と乳酸菌の組合せによるアレルギー疾患の予防
3.植物種子外皮成分による老化抑制
4.食品成分によるインドールアミンジオキシゲナーゼの制御
■応用生物学部WEB
http://www.teu.ac.jp/gakubu/bionics/index.html
▼研究内容に関しての報道機関からのお問い合わせ先
東京工科大学 応用生物学部
教授 今井伸二郎
TEL: 042-637-2584(研究室直通)
E-mail: imaishi(at)stf.teu.ac.jp
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【リリース発信元】 大学プレスセンター
http://www.u-presscenter.jp/