神奈川工科大学らの研究グループはこのたび、米国ソルトレイクシティで開催された国際会議SC16に参加。併設された展示会のNICT(情報通信研究機構)ブースにおいて、日米間の200Gbpsの広帯域回線および暗号伝送環境を用い、日米の複数拠点のモーションキャプチャデータから8K超高精細CG映像のリアルタイムレンダリング処理を日本で行い、非圧縮のまま米国にリアルタイム配信するプレビジュアライズ制作環境を構築した。
学校法人幾徳学園 神奈川工科大学 (以下「KAIT」、学長:小宮一三)は、国立研究開発法人 情報通信研究機構(以下「NICT」)、大学共同利用機構法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(以下「NII」)と共同で、2016年11月に米国(ソルトレイクシティ)の国際会議SC16 (The International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage and Analysis)に併設された展示会のNICTブース(以下、「SC16ブース」)において、日米間の200Gbpsの広帯域回線および暗号伝送環境を用いて、非圧縮8K/4Kの超高精細映像の配信実験を行った。
日本国内および日米間のネットワークに関しては、NICTが国内外で運用するテストベッドネットワークJGN(注1)の実験回線環境を、SC16会場内のNICTブースまで伸長した。国内から会場までの実験回線は独立した100Gbps回線2本(合計200Gbps)を用意。これらはJGNおよび、NIIが運用する日本の学術情報ネットワークSINET5(注2)ほか、JGNと相互協力関係にある国内外の学術研究ネットワークが密接に連携することで初めて実現した。映像伝送時にストリームデータをJGN大手町アクセスポイントで暗号化処理を行い、SC16会場NICTブース内で復号することにより、日米間でのリアルタイム8K非圧縮超高精細映像の暗号化通信を実施した。この暗号化配信は今年2月に行った “さっぽろ雪まつり” 8Kライブ映像 超広帯域リアルタイム暗号化配信(注3)の技術的知見が大きく貢献した。
実験国内はKAIT拠点やNICTの大規模エミュレーション環境StarBED(北陸)をJGNやSINET5の100Gbpsの広域網を用いて接続し、この環境を利用してSC16ブースとの間で8K(7680×4320画素・ハイビジョンの16倍)および4K超高精細映像素材(注4)のライブ配信や蓄積配信を行った。また、世界初の取り組みとして、日米拠点の演者のモーションキャプチャデータから8K超高精細CG(コンピュータグラフィックス)映像のリアルタイムレンダリング処理をKAIT拠点内で行い、非圧縮のままブースにリアルタイム遠隔配信する制作環境を構築した。
SC16ブースの演者はリアルタイムにレンダリング結果を確認でき、CGを用いた番組制作に有効なプレビジュアライズ(プレビス)環境を日米間で非圧縮8Kの超高精細品質で実現できたことになる。
【背 景】
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて実用化が見込まれる8K/4K超高精細映像配信に対し、KAITでは2014年から4K映像伝送装置(注5)や広帯域IP映像サーバ(注6)を複数台用いて、世界に先駆けて高精細な8K超高精細映像(24Gbps)を圧縮を用いずに品質を一切落とすことなく伝送・蓄積配信できるシステムの開発に取り組んでいる。
同時に、専用システムでしか実現できなかった超高精細映像の制作環境をクラウド上のサービスとして実現することで、必要な時だけ簡便に利用できるシステムの構築を目指している。
2015年2月には、クラウド上に8K映像蓄積配信機能や映像加工機能の仮想的な構築に成功。また、2015年の6月のInterop Tokyo 2015では、8K(24Gbps)、4K60P(秒間60フレーム 12.8Gbps)、 4K30P(秒間30フレーム 6.4Gbps)の3種類の映像を完全同期して伝送するマルチレート伝送サーバの構築をクラウド上で実現した。
また、2016年の2月には、8K超高精細映像を対象に途中経路での悪意あるコンテンツ改ざん、盗聴等を防ぐリアルタイム暗号化配信に取り組んだ。
【今回の実験概要】
今回の実験では、国内と米国を接続する太平洋回線として、(1)SINET5が2016年4月から運用を開始した100Gbps回線、(2)TransPAC/PacificWaveが2015年から運用を開始した100Gbps回線の2系統の回線を併用した。
また、NICTの大手町拠点とSC16ブース間のリアルタイム暗号化配信技術として、IPsec(注7)の暗号化技術を用いて、日米間の広域ネットワーク上で非圧縮の8K超高精細映像をリアルタイムに暗号化、SC16ブース内で復号化し安全に配信できる仕組みを構築した。国内回線は、JGNとSINET5の100Gbpsの広域回線を使い、KAITとStarBEDの拠点を接続。KAITは情報発信拠点の1つとして、8Kカメラによるリアルタイム中継伝送、8Kサーバからの蓄積配信、および、後述する8KのCG映像の配信を行った。
また、StarBEDからは、8K仮想サーバからの蓄積配信を行い、SC16ブース内で受信素材を選択する運用を行った。また、KAITとSC16ブース間で、グローバルなIPネットワークを使って、4K非圧縮による双方向伝送を行った(図1)。
この環境を用いて、KAITの先進技術研究所第2プロジェクト小島一成准教授と情報学部情報ネットワークコミュニケーション学科丸山充教授、岩田一助教のチームはモーションキャプチャ(光学式,慣性式)を使った8K映像制作の取り組みを行った。
具体的には、米国のSC16ブース内では慣性式モーションキャプチャのボディスーツを着用した演者の動きを、データとしてKAIT拠点にモーションデータストリーミングする。同時に、日本側であらかじめ記録してあった光学式モーションキャプチャのモーションデータストリーミングと合わせて、2体のCGキャラクタの動きとしてアニメーションを生成し、背景映像と共にリアルタイムレンダリング処理を実施。この計算結果が8K非圧縮のYUV 4:2:2 10bit の映像フォーマット(48Gbps)として出力される。これを、今回は8Kカメラや8Kサーバで利用している8Kデュアルグリーン映像フォーマット24Gbpsに変換して、SC16ブースまでリアルタイム伝送した。SC16ブースの演者はリアルタイムにレンダリング結果を確認でき、CGを用いた番組制作に有効なプレビジュアライズ(プレビス)環境を日米間で非圧縮8Kの超高精細品質で実現したことになる(図2、写真1、写真2)。
ネットワーク上でのリアルタイム暗号配信状況の把握や映像素材のネットワーク上の安定的な配信を実現するため、高精度なネットワーク計測技術(注8)と8K映像トラヒックメータ(注9)を併用して、100Gbps回線の伝送状況を実時間で観測する実験を行っている。
【今後の予定】
今回の実証実験での結果を踏まえ、ネットワークやクラウドを利用した超高精細映像製作ワークフローの確立、マルチメディア研究との連携による新たなメディア製作手法の確立にむけて研究開発を進める。
*本実証実験の実施にあたり、ジュニパーネットワークス様、アリスタネットワークス様、アラクサラネットワークス株式会社様、アストロデザイン株式会社様、PFUビジネスフォアランナー株式会社様、シャープ株式会社様、北海道テレビ放送株式会社様、NTTアイティ株式会社様、WIDEプロジェクト様、ピュアロジック株式会社様、ナリッジサービスネットワーク株式会社様のご協力をいただきました。本実証実験の一部は、JSPS科研費26330121の助成を受けて進めました。
【注 釈】
(注1)JGN
NICTが運営している研究開発テストベッドネットワーク。2011年4月から運用している、新世代ネットワーク技術の実現とその展開のためのテストベッド環境のJGN-Xに引き続き、2016年7月からワイヤレステストベッド、大規模エミュレーション基盤、複合サービス収容基盤等のテストベッドと連携し、IoTの実証テストベッドとしての利用を含め、技術実証と社会実証の一体的推進が可能なテストベッドとして新規運用中である。KAITはJGN-X利用プロジェクトとして、2013年4月に「リアルタイム指向ネットワークコンピューティング技術を用いたストリーミングクラウド機能の検証」というプロジェクトを立ち上げ、JGNではNICT, 奈良先端科学技術大学院大学, NTTアイティ, PFUビジネスフォアランナー, アストロデザイン, 池上通信機, JVCケンウッド・公共産業システム, セイコーソリューションズの各組織と共同で、高精細映像伝送・蓄積配信実験を進めている。
(注2)SINET5
国立情報学研究所(NII)が日本全国の大学、研究機関等の学術情報基盤として構築、運用している学術情報通信ネットワーク。今回の実験では、全国の全都道府県および日米回線を100Gbpsの超高速ネットワークで結んで2016年4月より正式運用を開始したSINET5を利用し、東京−ロサンジェルス間を担当したほか、KAITのアクセス回線を収容した。
(注3)さっぽろ雪まつり” 8Kライブ映像 超広帯域リアルタイム暗号化配信
2016年2月に産官学関係組織46団体との連携によるNICT主催の実証実験として、8Kライブ映像の超広帯域リアルタイム暗号化配信に世界で初めて成功した。これは、8K/4K実用化に向けて不可欠となるセキュリティを実現した配信実証実験となった。
[参考URL]
https://www.nict.go.jp/press/2016/02/04-1.html
(注4)8K超高精細映像素材/4K高精細映像素材
「8K」は現行のフルハイビジョンの約16倍にあたる3300万画素を持つ。さまざまな方式が提案されているが、今回は8Kデュアルグリーン方式、フレームレート毎秒60枚、10bit映像(24Gbps)を扱った。
「4K」は2014年に試験放送が始まった次世代高品質テレビ規格のこと。さまざまな規格があるが、今回は、映像業界での素材として用いられる4K24P映像を利用した。
(注5)4K映像伝送装置
NTT未来ねっと研究所の技術を基に、PFUからQool Tornado QG70として製品化されている。QG70を1台で、非圧縮ハイビジョン素材(「以下HD」、1.5Gbpsの伝送レート)を4本同時に送受できる性能を有し、装置内の同期で4Kの非圧縮素材を送受可能。また、装置間の同期を行うことで、8K超高精細素材の伝送が可能である。
[参考URL]
http://www.pfu.fujitsu.com/qooltornado/
(注6)広帯域IP映像サーバ
NTT未来ねっと研究所の技術を基に、NTTアイティ社から「viaPlatz XMSサーバ」として製品化されている。本サーバ装置は、1台で4K@60P(12Gbps)を蓄積・配信できる性能を有する。本サーバ装置をKAITに2台設置し、8K超高精細素材の蓄積・配信を実現している。
[参考URL]
http://www.viaplatz.com/
(注7)IPsec
IPsecはインターネット上での安全な通信を実現するための方式で、IPネットワーク上での通信の端点と端点で暗号化と認証を行う。これにより、通信路上でのデータの改ざんや盗聴を防止することが可能となる。また、特定の通信のみを保護する方式と異なり、対象とするIPネットワーク上を流れるすべての通信を一元的に保護することが可能である。
(注8)高精度なネットワーク計測技術
JGNは、高精度ネットワーク測定装置PRESTA 10Gを複数配置し、多面的な計測ができる環境を用意している。PRESTA 10Gは、10Gbpsのキャプチャ・ジェネレータ機能を有する10ナノ秒粒度で測定可能なネットワーク測定システムであり、NTT未来ねっと研究所の技術を基に、NTTアイティ社から「viaPlatzストリームモニタ」として製品化されている。今回は100Gbps対応の装置を使って計測を行った。
[参考URL]
http://www.viaplatz.com/
(注9)8K映像トラヒックメータ
KAITでは、トラヒックを観測し、GUIで使用状況の高速表示ができるリアルタイムネットワークモニタを開発している。今回は、汎用スイッチのキャプチャ機能との連携によりトラヒック伝送状況の可視化を行う実験を行った。
▼本件に関する問い合わせ先
神奈川工科大学 工学教育研究推進機構
〒243-0292 神奈川県厚木市下荻野1030
担当: 井藤 晴久
Tel:046-291-3299
E-mail: ito.haruhisa@cco.kanagawa-it.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
http://www.u-presscenter.jp/