CEO・社長報酬水準は上昇基調が継続、企業規模による伸びの差も明らかに
デロイト トーマツ グループ(東京都千代田区、グループCEO:長川 知太郎)は、日本企業における役員報酬の水準や株式報酬制度等の導入状況、役員指名、コーポレートガバナンス領域も含めた中長期的な企業価値向上に資するトピックを包括的に調査した「役員報酬サーベイ(2026年度版)」の結果をお知らせします。
本サーベイは2002年の開始以来20年以上にわたり実施している、役員報酬に関する日本で最大規模の調査です。今年度も合同会社デロイト トーマツと三井住友信託銀行株式会社が共同で2026年6月~7月にかけて調査を実施し、プライム上場企業を中心に過去最高の1,377社が回答しました。
調査結果のサマリーとポイント
プライム上場企業のCEO・社長報酬は7,999万円。物価上昇・賃上げを背景に上昇
プライム上場企業のCEO・社長報酬水準(中央値)は7,999万円となり、前年から6.4%増加した。引き上げ理由としては、「ベンチマーク企業の報酬水準上昇」(57%)が前年同様に最多だった。一方で、「従業員報酬の賃上げ」は13ポイント増の39%、「物価上昇」は8ポイント増の30%となった。物価上昇や賃上げ要請が続く足元の経済環境下で、社内整合性やインフレへの対応を踏まえた役員報酬水準の見直しが進みつつある。
CEO・社長報酬の伸びには企業規模による差。時価総額1兆円以上企業で上昇が顕著
2022年から調査に継続参加する時価総額1兆円以上企業(大グループ)のCEO・社長報酬は1.75億円となり、2022年比45%増、前年比19%増と大きく伸びた。一方、時価総額1,000億~1兆円未満企業(中グループ)および1,000億円未満企業(小グループ)の報酬の伸びは、それぞれ前年比5%増、3%増にとどまった。この背景には、企業規模による報酬構成の違いがある。中グループ・小グループでは変動報酬の割合が相対的に小さく、企業価値向上が報酬に反映されにくいためである。今後も大グループで報酬水準が上昇していく場合には、中グループ・小グループでも報酬競争力の確保に向け、報酬構成の在り方を検討する必要がある。
インセンティブ報酬制度の普及が進んでおり、スキームや指標の高度化が今後の課題
短期・長期インセンティブを導入する企業は増加傾向。特に長期インセンティブではスタンダードおよびグロース上場企業での導入拡大が目立ち、プライム上場企業との差が縮小しつつある。一方で、採用スキームにはなお違いがみられた。プライム上場企業では業績連動型株式交付信託やPS/PSU(パフォーマンスシェア/ユニット)など、業績連動型の長期インセンティブを取り入れる動きが強まっている。これにあわせて、長期インセンティブの財務指標としてROEやTSRの採用も増加しており、企業価値向上に資する業績指標やスキーム設計が一段と重要になっている。
ガバナンス改革の次の論点は、取締役会・委員会を支える事務局機能の強化
取締役会や委員会の体制整備が進む一方で、実効性にはなお課題が残っている。取締役会の実効性評価では、後継者育成や社内・社外取締役間の情報格差是正などが主な課題として挙げられた。また、委員会運営では、委員への事前説明・情報提供不足が多く挙げられており、特に時価総額が大きな企業でその傾向が強かった。今後は、役員や委員の構成に加え、議論を支える事務局機能の強化も、コーポレートガバナンス実質化に向けた重要な論点となる。 |
「役員報酬サーベイ(2026年度版)」の調査結果
CEO・社長報酬総額・構成の推移
<報酬水準>
2026年調査におけるプライム上場企業のCEO・社長の報酬水準(中央値)は79,986千円で、前年の75,173千円から6.4%増となった。参加企業全体でのCEO・社長の報酬水準(中央値)は59,547千円で、前年から5.1%増である。
参加企業全体のうち、CEO・社長の報酬水準(標準額)を引き上げた企業(166社)では、その理由として、「ベンチマーク企業の報酬水準上昇」(57%)、「従業員報酬の賃上げ」(39%)、「物価上昇」(30%)が上位3項目であった。「ベンチマーク企業の報酬水準上昇」を挙げた企業割合は前年の64%から低下した一方、「従業員報酬の賃上げ」を理由とする企業割合は前年の26%から13ポイント、「物価上昇」は前年の22%から8ポイント上昇した。総務省の発表によると、2025年の消費者物価指数(平均)は前年比3.2%の高水準であった。こうした経済環境のもと、ベンチマーク企業の報酬水準にも物価上昇の影響が及びやすくなっており、役員報酬水準の見直しにおいて、ベンチマーク水準上昇の背景にある物価上昇そのものが、より意識されるようになっていると考えられる。あわせて、物価上昇を踏まえた従業員報酬の引き上げの動きも広がっており、社内整合性の観点から役員報酬水準の見直しを進める企業が増えていることがうかがえる。
また、2022年以降の報酬水準を時系列でみると、特に時価総額規模が大きい企業において、時価総額の伸長とあわせてCEO・社長の報酬水準も上昇する傾向がみられた。
2022年から調査に継続参加する時価総額1兆円以上(2026年調査基準)の企業(以下、「時価総額大グループ」)において、CEO・社長の報酬水準(中央値)は175,433千円であった【図1】。これは前年から19%増、2022年調査時からは45%増である。また、同グループの過去5か年の時価総額推移(中央値)をみると、前年比1.3倍、2022年比1.6倍であった。
一方、時価総額が1,000億円以上1兆円未満の企業(以下、「時価総額中グループ」)におけるCEO・社長報酬は、前年比5%増にとどまった。同様に、時価総額が1,000億円未満の企業(以下、「時価総額小グループ」)におけるCEO・社長報酬は、前年比3%増であった。これらのグループの時価総額はそれぞれ前年比1.3倍、1.2倍と、企業価値の成長率だけをみれば時価総額大グループと大差はみられない。時価総額の上昇倍率に比して報酬水準の増加率は限定的であったといえる。
<報酬構成>
時価総額大グループにおける報酬水準の上昇は、報酬構成の違いが一因と考えられる。CEO・社長の標準時の固定報酬と変動報酬(短期インセンティブおよび長期インセンティブ)の比率は、時価総額大グループで48%:52%であった【図2】。一方、時価総額中グループでは61%:39%、時価総額小グループでは72%:28%であった。時価総額規模が小さくなるにつれて固定報酬の割合が高まり、変動報酬の割合が低下していることがわかる。時価総額大グループと小グループの間で、変動報酬比率は2倍近い開きがみられた。仮に企業価値が同程度向上した場合、変動報酬の割合が大きい時価総額大グループのCEO・社長の方が、時価総額小グループより報酬額が大きくなりやすい構造となっている。
さらに、変動報酬比率を前年と比べると、時価総額大グループは2.9ポイント、中グループは0.9ポイント、小グループは0.7ポイントの増加であった。いずれのグループでも変動報酬比率は拡大しているものの、その拡大幅には差がある。この傾向が今後も企業成長とともに続いた場合、時価総額大グループと小グループの間で、報酬水準格差はさらに拡大する可能性がある。時価総額小グループにおいても、企業規模や成長段階に応じて、インセンティブを含む報酬制度全体からどのような価値を引き出すかを見定めていくことが求められる。
インセンティブ制度
<短期インセンティブ>
短期インセンティブを導入している企業は、全体で78%(1,068社)であった。2024年調査では75%、2025年調査では76%であり、導入企業は着実に拡大している。プライム上場企業における導入割合も、2024年調査の88%、2025年調査の91%、2026年調査の92%と、引き続き上昇傾向にある。
<長期インセンティブ>
長期インセンティブを導入している企業(国内居住役員)は全体で81%(1,119社)であり、こちらも年々増加している(2024年調査79%、2025年調査80%)。プライム上場企業における導入率は、前年比1ポイント増の94%であったが、スタンダード上場企業では4ポイント増(74%⇒78%)、グロース上場企業では9ポイント増(71%⇒80%)と増加幅が大きかった。従来はプライム市場中心であった株式報酬の導入が、スタンダード・グロース市場にも広がっており、株式報酬の利用が市場横断的な潮流となりつつある。
一方、導入される長期インセンティブのスキームには市場間で違いがみられた。上場企業では「譲渡制限付株式(RS)」の採用が最も多く(プライム上場企業46%、スタンダード上場企業47%、グロース上場企業34%)、非上場企業は「通常型ストックオプション」の採用が最多(28%)であった。
また、プライム上場企業においては、株式報酬を業績と連動するインセンティブとして活用する傾向も徐々に強まっている。業績連動型株式交付信託を導入する企業割合は2024年調査23%、2025年調査24%、2026年調査27%と増加傾向にある。同様に、PS/PSU(パフォーマンスシェア/ユニット)を導入する企業割合もそれぞれ、11%、12%、13%と拡大している。株主との利害共有の推進だけでなく、役員を経営課題の中でも業績達成にコミットさせるため、業績非連動型から業績連動型へのシフトや、両スキームの併用を進める企業が増えていることを示す。この潮流を踏まえると、既に長期インセンティブ(株式報酬)を導入している企業であっても、業績非連動型のみを採用している場合には、業績連動型を含めた報酬制度へ再設計する必要性が高まっているといえる。
業績指標
トップエグゼクティブの短期インセンティブと長期インセンティブに紐づけられる財務業績指標(全社指標)は、ともに「営業利益」を回答する企業が最も多かった(それぞれ43%、33%)【図3】。ただし、長期インセンティブについては、「ROE(自己資本利益率)」の採用割合が「営業利益」に迫る水準となっている。資本コストや株価を意識した経営への要請が高まるなか、ROEを企業価値向上の重要指標と位置づける企業が増えていることが要因と考えられる。実際に、ROEを長期インセンティブ指標として採用する企業割合は、2024年調査24%、 2025年調査29%、2026年調査31%と右肩上がりで増加している(2024年比+7.6ポイント)。短期インセンティブでも、売上や利益に関する指標と比べるとROEの採用企業割合は低いものの(2026年調査12%)、2024年調査時から4.2ポイントの増加となった。
また、長期インセンティブにおける財務指標としては、「TSR(株主総利回り)」の採用割合も伸びており、2024年調査8%、2025 年調査9%、2026年調査11%であった(2024年比+3.2ポイント)。採用割合および増加幅はROEに比べて小さいものの、株主リターンを経営評価に組み込む動きが強まっている。
ガバナンス機能の強化
<社外取締役>
執行と監督の分離を進める観点から、監督を担う社外取締役のさらなる選任が進んでいる。上場企業のうち、全取締役に占める社外取締役の人数割合が1/3以上の企業割合は91%で、前年と同水準であった。一方で、社外取締役が過半数を占める企業割合は、2024年調査19%、2025年調査21%(前年比+2ポイント)、2026年調査25%(前年比+4ポイント)と増加しており、その動きは加速している。プライム上場企業においては、前年比6ポイント増となる32%の企業が、社外取締役を過半数確保していた。
社外取締役をめぐる人材獲得競争は、報酬水準にも反映されている。プライム上場企業における社外取締役の報酬(中央値)は、2025年調査9,600千円から2026年調査10,000千円へ、4.2%上昇した。売上1兆円以上企業においては、2025年調査15,180千円から2026年調査15,720千円へ、3.6%の上昇である。社外取締役比率の向上を目指す企業が増えるなか、市場における人材獲得競争は今後も続くとみられる。これに伴い、報酬水準も引き続き上昇していく可能性が高い。
<取締役会および委員会の課題>
近年、政府および投資家からコーポレートガバナンスの形式整備にとどまらない実質化を求める声が、一段と高まっている。これを受け、上述のとおり社外取締役の選任や、経営アジェンダに対応する委員会の設置など、体制整備は進んできた。一方で、経営課題が複雑化・多様化するなか、こうした枠組みを整えるだけでは十分とはいえず、取締役会や委員会の実効性が、次の重要な論点となっている。
実際に、取締役会の実効性評価を実施した上場企業980社のうち、76%の企業で何らかの課題が抽出された。具体的には、「育成計画・手法の明確化」(20%)が最も多く、「社内外取締役の情報格差是正による議論の進化」(16%)、「多様性の充実化」(15%)が続いた。後継者指名・育成や社外取締役の機能発揮が依然として課題となっていることがうかがえる。
また、こうした課題は取締役会にとどまらず、指名委員会や報酬委員会などの運営にも表れている。委員会運営において何らかの課題があると回答した企業は75%にのぼり、具体的な内容としては、「委員への十分な事前説明・情報提供不足(タイミング・質)」(37%)が最も多くあげられた。これに続いて、「事務局メンバーのリソース不足」(28%)、「課題に対する事務局の関わり方」(22%)、「事務局メンバーのスキル・知識不足」(20%)と回答されている。時価総額規模別に課題をみると、「委員への十分な事前説明・情報提供不足(タイミング・質)」は規模が大きい企業ほど、回答割合が高まる傾向がみられた。大規模企業ではより高度な議論に対応するため、委員の期待に沿った情報提供・論点整理の難度が増し、それが課題として表われていると考えられる。一方、規模が小さい企業では、「委員会の役割・目的の具体化不足」や「事務局メンバーのスキル・知識不足」を課題として挙げる割合が大規模企業より相対的に高かった。すなわち、小規模企業では委員会の役割定義や事務局機能の構築そのものが、主要な論点となっている。「事務局メンバーのリソース不足」や「議題に対する事務局の関わり方」については、規模別に大きな差はみられず、企業規模を問わず共通する課題といえる。
なお、2026年7月に改訂されたコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)では、取締役会の活発な議論を支援する観点から、取締役会事務局(コーポレートセクレタリー)の活用が言及されている。これは、単なる事務処理にとどまらず、適切なアジェンダ設定や情報提供を通じて、議論の実効性を高める役割を期待するものである。CGコード上は、取締役会を支える事務局を念頭に置いたものである一方、指名委員会や報酬委員会の事務局運営にも通底する。こうした制度的な要請も踏まえると、今後は表に立つ役員や委員だけでなく、その議論を支える事務局機能についても、必要人数、役割、専門性を再点検し、支援体制の強化を進めることが重要である。
調査概要
調査期間:2026年6月~7月
調査目的:日本企業における役員報酬の水準、役員報酬制度やガバナンス体制、コーポレートガバナンス・コードへの対応状況等の現状に関する調査・分析
参加企業数:1,377社(集計対象役員総数 25,356名)
上場企業1,177社(うちプライム上場企業686社)、非上場企業200社
参加企業属性:製造業563社(うち医薬品・化学122社、電気機器・精密機器121社、機械91社等)、非製造業814社(うち情報・通信192社、サービス161社、卸売118社 等)
<役員報酬サーベイ(2027年度版)について>
役員報酬サーベイは、2027年度も継続して実施する予定です。
詳細が確定しましたら、別途当社Webページにてご案内します。
なお、調査協力企業にはサーベイ結果報告書(今年度は262ページ)を提供する予定です。
<役員報酬データベース「DEX-i」のご購入を検討されている方へ>
役員報酬サーベイをより有効活用したい企業様向けに、オンラインでアクセス可能な役員報酬データベース「DEX-i(デックス・アイ)」を有償*6でご提供しています。皆さまがお使いのPC上で、1,377社(2026年度)が参加する役員報酬サーベイのデータを、様々な切り口でクロス集計・分析し、Excel・PDFでダウンロード可能となります。またニュース・コンテンツ配信およびLearningツールといったデータベース以外の機能も拡充し、指名・報酬ガバナンスの一助となる情報をお届けします。ますます便利になる「DEX-i」をぜひ一度ご検討ください。
*6:お申込み金額は90万円/年度(税等別)となります
役員報酬・指名ガバナンス支援サービス「DEX-i(デックス・アイ)」のご紹介
https://www.deloitte.com/jp/ja/services/consulting/services/dex-i.html
<役員報酬サーベイ、役員報酬データベース「DEX-i」、役員報酬・指名制度改革に関するサービスの問合せ先>
合同会社デロイト トーマツ
ヒューマンキャピタル
役員報酬サーベイチーム
E-mail: dtcecsurvey@tohmatsu.co.jp