【本件のポイント】
・微細な繊維粉のエアロゾル吹付けにより、立体構造物を高速に形作る手法を発見した。
・繊維同士の「摩擦による絡み合い」で構造物が成形されるメカニズムは、世界初の発見であり、オランダの科学学誌Materials & Designに本研究成果が掲載された。
・繊維の長さ分布が鍵となるこの技術は、長軸構造を持つ短繊維素材に広く適用可能であり、この技術の適用範囲を探索することで、新たな機能性素材を創り出せる可能性がある。
【本件の概要】
森正和准教授(龍谷大学先端理工学部)、于洪武助教(特任)(岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域※研究当時 現在、東京科学大学・総合研究院・特任助教)、池田直教授(岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域)、狩野旬研究教授(岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域)、明渡純(国立研究開発法人産業技術総合研究所・エレクトロニクス基盤技術研究部門・招聘研究員、名古屋大学客員教授、大阪大学招聘教授)と朴載赫(成均館大学・客員教授)からなる国際共同研究チームは、短炭素繊維(注1)(長さ0.2 mm未満)を「吹き付ける」だけで、接着剤(バインダー)を用いることなく、高速かつ立体的に成形する新技術「繊維エアロゾル(注2)堆積法(Fiber Aerosol Deposition: FAD)」の開発に成功しました。
本技術は、従来の3Dプリンティング技術を大幅に上回る最大0.3 mm/sの垂直成長速度を実現しました。また、その成形メカニズムが、従来のエアロゾル堆積法(AD法)(注3)で知られる衝撃固化とは異なり、繊維同士の「摩擦による絡み合い(Frictional Entanglement)」であることを世界で初めて明らかにしました。リサイクル炭素繊維や多様な短繊維素材の有効活用や、水処理フィルター、次世代電極材料などの創製を加速する画期的な成果です。
本研究成果は、2025年12月にオランダの科学学誌Materials & Designに掲載されました。
■森准教授のコメント
本技術は、驚異的な速度で立体構造物を成形する新技術であり、例えば、リサイクル現場で大量に発生する安価な短炭素繊維を3D構造体へ高付加価値な材料へと再生することができるなど、本学が目指す「循環型社会形成」に将来資する画期的な成果です。
【詳細】
<現状>
リサイクル炭素繊維の課題
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のリサイクル過程で発生する「短炭素繊維(SCF)」は、短い繊維長を持ち、機械的特性に優れるだけでなく、導電性や化学的安定性にも高い性能を有しています。そのため、バルク形状の構造体へ成形できれば、各種電極材料や水質浄化材料などへの応用が強く望まれていました。しかし従来のSCF成形技術(不織布製造法、静電植毛法、加圧成形法など)では、短繊維の成形が困難である、高さ方向への積層ができない、接着剤が必要であり導電性を損なう可能性があるといった課題がありました。
・不織布製造:長い繊維にしか適用できず、短繊維には不向きです。
・圧縮成形・電着植毛:接着剤(バインダー)が必要であり、乾燥工程の長期化や、導電性の低下と
いった課題がありました。
<研究成果の内容>
FAD法による革新的3D成形
研究チームは、セラミックスの常温衝撃固化(RTIC)(注4)に用いられるAD法を応用し、短炭素繊維を窒素ガスとともに噴射するFAD法を構築しました。実験では、炭素フェルトを基板とし、異なる繊維長のSCFを用いて構造体の形成に成功しました。その結果、30μm以上の長さを有する短繊維が、基板の繊維と絡み合うことで緻密な中間層を形成し、その上からさらに短い繊維が捕捉・積層されることで、自立性の高い3D構造体が構築されるメカニズムを解明しました。
・驚異的な成形速度:0.3 mm/sの成長速度を達成し、従来の付加製造技術と比較して劇的な効率向上を
実現しました。
・バインダーフリー:接着剤を一切使わず、繊維の形状を維持したまま、自立した立体構造を形成でき
ます。
・メカニズムの解明:100 μm以上の長い繊維(LSCF)が垂直に突き刺さり、「ケージ(鳥かご)状の骨
格」を形成します。
・その隙間を短い繊維(SSCF)が埋めることで、緻密で強固な構造体が成長することを突き止めまし
た。
・基板の重要性:カーボンフェルトのような、繊維が「定着」しやすい多孔質な基板を用いることで、
効率的な堆積が可能になります。
【図1.】参照
走査型電子顕微鏡(SEM)(注5)およびX線CT(注6)による詳細な観察から、構造体内部は比較的長い繊維が表面近くで垂直に配向したフレームを形成し、内部には短い繊維がランダムに高密度に充填された、独特な階層構造を持つことが明らかになりました。このプロセスでは繊維が粉砕されることなく、繊維同士の摩擦力によって強固に結合されるため、バインダーを一切使用せずに高い機械強度を実現しています。
【図2.】参照
以上の成果により、FAD法は従来の微粒子を対象としたAD法とは根本的に異なり、「繊維の絡み合いと機械的固定化」に基づく新たな材料形成原理を有する技術カテゴリーであることが実証されました。本手法は、リサイクル炭素繊維をバインダーなしで迅速に成形可能であり、複雑な3D形状を持つ電極やフィルターなど、多様な機能性部材の製造への応用が期待できます。今後は、さらなる構造制御の高度化と、実際の応用を見据えた実証研究を推進していきます。
【図3.】参照
<社会的な意義>
本技術は、リサイクル現場で大量に発生する安価な短炭素繊維を、高付加価値な3D構造体へと再生する道を開きます。さらにアスペクト比の高い物質全般に適応することで、新たな機能性素材を開発する可能性があります。
応用先
・水質浄化 :実際に合成された構造体が、フィルターとして機能することを確認済みです。
・エネルギー:燃料電池用電極や触媒担体としての活用が期待されます。
・新領域 :本原理は炭素繊維に限らず、ポリマー繊維、植物繊維、さらにはDNAなどのバイオ素材に
も応用可能です。
以上のように我々は、エアロゾル化した短繊維素材が絡まり合いながら堆積される現象を初めて見出しました。本研究はこのFAD法を炭素短繊維に適用できることを報告しました。この技術は長軸構造を持つ短繊維素材に広く適用可能です。例えばナノサイズの繊維状物質(金属繊維、植物由来繊維、プラスチック繊維、DNAなどが想定できる)に拡張できる可能性があります。この技術によって新奇な繊維の立体的な絡み合い素材を開発することが可能になりました。この技術の適用範囲を広く探索することで、近未来に今まで発見されていなかった機能性素材を創り出せる可能性があります。
■論文情報
論 文 名:An entangled material made from fiber aerosol deposition method
掲 載 誌:Materials & Design
著 者:Hongwu Yu, Naoshi Ikeda, Masakazu Mori, Jun Kano, Jae-Hyuk Park, Jun Akedo
D O I:10.1016/j.matdes.2025.115195
U R L:
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264127525016168
■補足・用語説明
注1. 短炭素繊維(SCF):長さが1 mm未満の炭素繊維。リサイクル材として注目されている。
注2. エアロゾル(Aerosol):気体の中に微細な液体や固体の粒子が浮遊している状態、またはその粒子そ
のものを指す。エアロゾルは、粒子が極めて小さく軽いため、重力ですぐに落下せず、空気の流れ
に乗って長時間・広範囲を漂う。
注3. エアロゾル堆積(AD)法:微細な粒子をガスと混ぜエアロゾル状態とし、加速することで基材に衝
突させて成膜する。本研究の共同研究者である産業総合技術研究所の明渡博士が発明した日本発の
常温コーティング技術。セラミックスなどの微粒子をガス中に分散(エアロゾル化)させ、ノズル
から超音速で基板に吹き付ける。粒子が衝突した瞬間に破砕・変形し、そのエネルギーで粒子同士
が原子レベルで結合(常温衝撃固化)することで、緻密な膜が形成される。通常、セラミックスを
固めるには高温で焼く必要があるが、AD法は加熱が不要であることが特徴。これにより、従来は不
可能だったプラスチックやフィルム、金属などの熱に弱い素材の上にも、硬くて高機能なセラミッ
クス膜を直接作ることが可能になった。
注4. 常温衝撃固化(RTIC):AD法において、粒子が衝突時のエネルギーで変形・粉砕され、固まる現象。
注5. 走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope):光の代わりに「電子線(ビーム)」を
用いて、ナノメートル単位の微細な世界を観察する装置。真空中で、細く絞った電子ビームを試料
の表面に当て、なぞるように高速で「走査(スキャン)」する。この時、試料表面から飛び出してく
る「二次電子」などの信号を検出器で捉え、その情報の強弱をモニター上で映像化する。光学顕微
鏡に比べて倍率が高い(数千~数十万倍)だけでなく、焦点深度が非常に深い。これにより、凹凸
の激しい試料でも奥までピントが合い、まるで肉眼で近づいて見ているような迫力ある立体的な画
像が得られる。
注6. X線CT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影):対象物のX線吸収をさまざまな方向から
測定し、データ処理によって対象物の内部を「輪切り」にした断面像を描出する画像作成技術。通
常の単純X線撮影が2次元的な撮像を行うのに対し、CTは対象物の重なりを排除した3次元な画像が
得られる。
▼本件に関する問い合わせ先
龍谷大学 龍谷エクステンションセンター
栗田
TEL:077-544-7291
メール:rec-shiga@ad.ryukoku.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/