【東京農業大学】イナゴマメの高品質ゲノム解読に成功、バイオサイエンス学科 篠澤 章久 助教、坂田 洋一 教授が宮城大学、富山大学と共同研究



東京農業大学 生命科学部 バイオサイエンス学科の篠澤 章久 助教、坂田 洋一 教授が宮城大学 食産業学研究科の阿久津 光紹さん・日渡 祐二 教授、富山大学の西山 智明 特命准教授らとの共同研究に参画し、イナゴマメのゲノムの全塩基配列を解読し高品質な遺伝子情報を得ることに貢献しました。宮城大学 植物分子遺伝育種学研究室 ( 日渡 祐二 教授 ) は、植物分子遺伝学、植物細胞生理学、発生進化学を専門分野として、食料・バイオマス増産に関わる有用形質の制御メカニズムについて基礎研究を行っており、この度の宮城大学を中心行われた共同研究の成果が、国際学術雑誌 DNA Research に 2024 年 12 月 2 日付で掲載されましたのでお知らせいたします。
De novo sequencing allows genome-wide identification of genes involved in galactomannan synthesis in locust bean ( Ceratonia siliqua) . DNA Research, Volume 31, Issue 6, dsae033, Published:02 December 2024
DOI:https://doi.org/10.1093/dnares/dsae033

イナゴマメから抽出、世界中で利用されている食品添加物「ローカストビーンガム」
現在は全量輸入に頼っており、人工的に生産する技術開発を模索中



イナゴマメは、主に地中海沿岸に生息するマメ科の木本植物です。その種子は重さが均一であるため、古代には分銅として用いられ、「カラット」の語源にもなりました。この種子は食用としても利用され、近年ではチョコレートの代替品として注目されています。この種子には、粘性のある多糖類「ローカストビーンガム」が含まれており、ソースのとろみ付けやゼリーの凝固剤など食品添加物として世界中で広く利用されています。

日本では食品ラベルに「増粘多糖類」として一括表示されるため、一般的にその名称を目にする機会はほとんどなく、ご存知の方も少ないのではないでしょうか。

ローカストビーンガムは食品産業にとって極めて重要な原料ですが、天然資源であるため収穫が気候変動などの影響を受けやすいという課題があります。特に食品メーカーにとっては、生産の不安定性が商品の品質低下や価格上昇につながる可能性があり、消費者にも影響が及ぶ恐れがあります。日本ではイナゴマメの栽培が難しいため、ローカストビーンガムの全量を輸入に頼っているのが現状です。この問題を解決するため、阿久津さんら研究チームはイナゴマメの細胞を利用して、人工的にローカストビーンガムを生産する技術の開発に取り組んでいます。


図1 イナゴマメガラクトマンナンは食品添加物として利用(※試料提供:咲くやこの花館)

ローカストビーンガムの主成分である「ガラクトマンナン」の合成過程
イナゴマメの遺伝子情報全体を明らかにし、合成酵素を特定することが鍵となる


糖質には、ブドウ糖などに代表される単糖類、単糖が10 個以上つながったデンプンなどに代表される多糖類があり、それぞれ分子構造の違いによって体への吸収の早さが異なります。ローカストビーンガムの主成分である「ガラクトマンナン」は、単糖類であるマンノースとガラクトースが結合した多糖類の総称で、植物では細胞壁の構成成分や炭素の貯蔵物として合成されます。特にイナゴマメの種子の胚乳には高濃度で蓄積されています。このガラクトマンナンの合成には、以下の2 つの酵素が必要です。

・マンナン合成酵素(ManS):マンノースを結合してマンナンを合成する酵素
・ガラクトマンナンガラクトース転移酵素(GMGT):マンナンにガラクトースを付加する酵素


イナゴマメは、世界中で利用されているにもかかわらず、その遺伝子に関する情報はほとんど公開されていませんでした。

そのため、これらの酵素をコードする遺伝子を特定することができず、ガラクトマンナンの合成過程を解明することができずにいました。イナゴマメにはどのような遺伝子がどれだけ存在しているのか、遺伝子情報全体を明らかにするとともに、前述した「マンナン合成酵素(ManS)」や、「ガラクトマンナンガラクトース転移酵素(GMGT)」をコードする遺伝子を特定することが、人工的なローカストビーンガム生産技術の開発を実現するための鍵となります。
※1 ゲノム:細胞に含まれる全ての遺伝情報を指します。核内に含まれるものは「核ゲノム」と呼ばれ、遺伝情報は DNA( デオキシリボ核酸) の塩基配列として記録されています。ゲノムを解読するためには、この塩基配列をすべて決 定する必要があります。
※2 遺伝子の発現:DNA に書き込まれた遺伝情報が機能するプロセスを指します。まず、DNA の塩基配列がコピーさ れてメッセンジャーRNA( 転写産物) に書き写される「転写」が行われます。その後、RNA の塩基配列をもとにタンパ ク質が作られる「翻訳」が行われます。生成されたタンパク質は、体を作る材料になったり、物質合成などのさまざまな 役割を果たします。

このデータを基に、ローカストビーンガム( ガラクトマンナン) の合成に関わるマンナン合成酵素(ManS) とガラクトマンナンガラクトース転移酵素(GMGT) をコードする遺伝子について、候補を絞り込むことに成功しました。しかし、これらが本当に目的の遺伝子であるかを確認する必要がありました。ガラクトマンナンはイナゴマメの種子で作られるため、これらの遺伝子は葉や茎では発現していないと考えられます。さまざまな組織や器官について、これらの遺伝子の転写産物を検出したところ、マンナン合成酵素(ManS) とガラクトマンナンガラクトース転移酵素(GMGT) の候補遺伝子が種子でのみ発現していることが確認されました。この結果から、これらの遺伝子が目的のものであると特定できました。この研究により、イナゴマメがガラクトマンナンをどのように合成するのか、その分子メカニズムの解明が大きく進むことが期待されます。


図2 イナゴマメの高品質な遺伝子情報の整備とガラクトマンナン生合成の遺伝子の発見

研究チームは現在、発見したイナゴマメのマンナン合成酵素(ManS) とガラクトマンナンガラクトース転移酵素(GMGT)を植物細胞内で人工的に働かせ、ローカストビーンガムを生産する技術の開発を進めています。コンピューターで復元したイナゴマメの遺伝子配列情報は非常に有用であり、これを基に、将来的には遺伝子組み換えを行わずに植物細胞を利用してローカストビーンガムを生産する新しい技術を構築することを目指しています。

近年、細胞培養技術を活用して食材やその素材を生産する取り組みが注目されています。この方法は「細胞農業」(※3) と呼ばれ、持続可能な農業の新しい形態として期待されています。本研究に基づく植物細胞の培養によるローカストビーンガムの生産は、植物性食資源の新たな技術開発につながる可能性を秘めています( 図3)。
※3 細胞農業:細胞を培養して食品やその素材を生産する新しい農業の方法です。この技術は、環境変動の影響を受 けずに安定した生産を可能にします。また、温室効果ガスの削減や資源の効率的な利用が期待される環境負荷の少な い方法とされています。具体例として、動物の筋肉細胞を培養して作る「培養肉」や、カカオ豆の細胞を利用したチョコ レートの研究が進められています。


図3 細胞培養によるローカストビーンガムを生産する取り組み( 細胞農業)

日渡教授は「今回の研究で得られたイナゴマメの遺伝子情報は、世界に公開する予定です。この公開により、ローカストビーンガムの生産技術の進展にとどまらず、イナゴマメの未知の特性解明やさまざまな応用分野への展開が期待されます。私たちは、この研究を通じて、イナゴマメの持つ可能性を広げ、社会に貢献することを目指しています」とコメントしています。今後の展開にご期待ください。
※本研究は「東京農業大学生物資源ゲノム解析センター生物資源ゲノム解析拠点事業における共同研究」および「生研支援センター:スタートアップ総合支援プログラム(SBIR 支援)JPJ010717」のサポートを受けて行われました。
本件に関するお問合わせ先
東京農業大学 企画広報室
TEL: 03-5477-2650 / FAX: 03-5477-2804 / Email: info@nodai.ac.jp

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組織名
学校法人東京農業大学
ホームページ
https://www.nodai.ac.jp/hojin/
代表者
江口 文陽
資本金
0 万円
上場
非上場
所在地
〒156-8502 東京都世田谷区桜丘1丁目1-1
連絡先
03-5477-2300

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