【中部大学】アルカリ水溶液でA型インフルエンザウイルスが不活化されるメカニズムを解明 ― 感染症予防に新たな可能性 ―



【研究成果のポイント】
■A型インフルエンザウイルス(IAV)は水素イオン濃度指数(pH)11.75以上で効果的に不活化されることを確認
■IAVが持つスパイク(注1)であるヘマグルチニン(HA)タンパク質がpH11.75 以上で加水分解され構造と機能に影響を受ける




●発表概要
 インフルエンザは毎年のように流行するが、その中でもA型インフルエンザウイルス(IAV)は特に感染力が強い。B型、C型と比べて症状も強く、時には重篤化するケースもある。
 現在、脂質二重膜のエンベロープ(注2)を持つウイルスは、主に油を溶かすエチルアルコールによるエンベロープの破壊作用を利用したウイルスの不活化が行われている。一方、アルカリ水溶液によりIAVが不活化される現象が実験で確認されていたが、どのようなメカニズムで不活化されるかは明らかにされていなかった。


 今回、中部大学大学院生命健康科学研究科の瀬口愛斗大学院生(博士後期課程1年)と鶴留雅人教授、伊藤守弘教授らの研究チームは、アルカリ水溶液がIAVを不活化するメカニズムを明らかにした。
 水素イオン濃度指数(pH)の異なる水溶液をIAVに作用させた実験において、pH11.75以上でIAVが不活化された。
 さらに感染に関係するスパイク(ヘマグルチニン(HA)タンパク質)の量を調べたところ、pH11.75以上で明らかに減少し、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では、pH12.0ではウイルススパイクの確認が不可能であった。


 実験にはA型インフルエンザウイルス(PR-8 株)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、pH調整に水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を用いた。pH 7.4から12.0までの水溶液において、pH11.25 までほぼ不変であったウイルス感染力価(注3)が、pH11.75以上で検出限界以下になった。さらに宿主の細胞への感染に関わるHA タンパクを検出したところ、pH11.75以上で明らかに減少した。HAはHA1サブユニットとHA2サブユニットで構成されているタンパク質だが、アルカリの作用によってHA1とHA2が解離してしまうこともわかった。


 さらに、TEMによる観察によって、pH12.0でウイルス粒子表面のスパイクが消失していることも分かった。
 総じて、本研究成果は、アルカリ水溶液がエンベロープウイルスのスパイクタンパク質を変性させることが考えられ、アルカリ水溶液がウイルスの持つタンパク質を分解もしくは変性させ、感染能を不活化させたことを示唆するものである。

 以上の研究結果は、ウイルス感染症を予防する新たな消毒剤として、アルカリ水溶液が有望であることを示している。
 詳しい研究内容はウイルスの専門誌Virusesに掲載された論文に記載した。

●論文の情報
・雑誌名: Viruses
・論文タイトル:Effects of Alkaline Solutions on the Structure and Function of Influenza A Virus
・著者:Manato Seguchi, Seiji Yamaguchi, Mamoru Tanaka , Yukihiro Mori, Masato Tsurudome and Morihiro Ito
・DOI: 10.3390/v16101636
・URL: https://doi.org/10.3390/v16101636

●用語解説
注1 スパイク
 ウイルスの表面に見られる突出物(トゲ)の部分。スパイクが宿主細胞表面に存在する対応受容体に結合し、さらにエンベロープと細胞膜の膜融合を誘導することにより、ウイルス遺伝子が細胞内に移行して感染が成立する。

注2 エンベロープ
 ウイルスの一番外側を覆う脂質二重膜の構造(体)。ウイルスの遺伝情報を持つDNA あるいはRNA はカプシドと言うタンパク質の膜に覆われている。さらにウイルスは、カプシドがエンベロープで覆われたエンベロープ型とむき出しのノンエンベロープ型に分類される。エンベロープ型ウイルスにはコロナウイルス、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、風疹ウイルスなど、ノンエンベロープ型ウイルスにはノロウイルスやロタウイルスなどがある。

注3 ウイルス感染力価
 ウイルス力価とも言う。試料中に含まれる感染性のあるウイルス量のこと。定量法には実験動物や培養細胞などを用いた様々な手法があり、「PFU(プラーク形成単位)」「TCID50(50%培養細胞感染価)」「ID50(50%感染量)」などの単位で表される。




▼お問い合わせ先
【研究内容について】
 中部大学大学院 生命健康科学研究科 生命医科学専攻
 伊藤守弘 教授
 電子メール m-ito@isc.chubu.ac.jp
 電話 0568-51- 7054


▼本件に関する問い合わせ先
中部大学 学園広報部広報課
TEL:0568-51-7638
メール:cuinfo@office.chubu.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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