障害のある子どもや若者が、地域で安心して参加できる活動の機会を確保することは、心身の健康
や社会参加を支えるうえで重要である。一方で、知的障害や発達障害のある子どもや若者が、海や自
然環境を活用した活動に安全に参加できるための実践モデルや研究知見は、日本では極めて少ない。
「サーフセラピー」は、サーフィンや海での活動を治療的・支援的に活用するプログラムで、海外で
は子どもや若者の気分、自信、社会的交流、身体活動などへの効果が報告されている。しかし、日本
においては、知的障害のある子どもや若者を対象としたサーフセラピーの実施可能性と安全性を検
討した研究は報告されていなかった。
今回、中部大学 生命健康科学部 作業療法学科の津田聡子准教授は、国立成育医療研究センター
女性の健康政策研究部の窪田和巳室長、名古屋市立大学 医学部保健医療学科の塩津裕康講師ととも
に、NPO 法人The SCC Surf Therapy Japan(2025 年4 月に設立)の運営協力の下、全6 回のサー
フセラピープログラムを、知的障害のある自閉スペクトラム症(ASD)やダウン症の子ど
もと若者を対象に試行し効果検証を行った。
1.研究成果のポイント
・知的障害のある子どもや若者を対象としたサーフセラピー(注1)プログラムを日本で初めて試行した。
・評価対象者6 名は、6週間(週1 回)のプログラムのほとんどに積極的に参加した。
・保護者が子どもに代わって評価したQOL(生活の質)の調査票「KIDSCREEN-27(注2)」によれば、
プログラム終了1 か月後に健康関連QOL 全体と心理的幸福感の改善が示された。
2.発表概要
障害のある子どもや若者が、地域で安心して参加できる活動の機会を確保することは、心身の健康
や社会参加を支えるうえで重要である。一方で、知的障害や発達障害のある子どもや若者が、海や自
然環境を活用した活動に安全に参加できるための実践モデルや研究知見は、日本では極めて少ない。
「サーフセラピー」は、サーフィンや海での活動を治療的・支援的に活用するプログラムで、海外で
は子どもや若者の気分、自信、社会的交流、身体活動などへの効果が報告されている。しかし、日本
においては、知的障害のある子どもや若者を対象としたサーフセラピーの実施可能性と安全性を検
討した研究は報告されていなかった。
今回、中部大学 生命健康科学部 作業療法学科の津田聡子准教授は、国立成育医療研究センター
女性の健康政策研究部の窪田和巳室長、名古屋市立大学 医学部保健医療学科の塩津裕康講師ととも
に、NPO 法人The SCC Surf Therapy Japan(2025 年4 月に設立)の運営協力の下、全6 回のサー
フセラピープログラムを、知的障害のある自閉スペクトラム症(ASD)(注3)やダウン症(注4)の子ど
もと若者を対象に試行し効果検証を行った。
本研究では、プログラムへの参加状況、継続率、データ取得状況、安全性を確認するとともに、プ
ログラム前、終了後、1 か月後の3 時点の健康関連QOL の変化を、保護者代理評価による
KIDSCREEN-27 を用いて検討した。研究には、7 歳から21 歳までの8 名(ダウン症6 名、自閉ス
ペクトラム症2 名)が参加し全員に知的障害があった。このうち6 名を分析対象とした。その結果、
KIDSCREEN-27 の総得点(全般的健康)は、プログラム前の平均81.5±9.2 点から1 か月後には
106.5±13.0 点へ上昇し、統計的に有意な改善が認められた。下位尺度では、心理的幸福感が、プロ
グラム前の平均23.0±1.9 点から1 か月後には26.5±2.2 点へ上昇し、有意な改善が示された。これ
らの結果は、知的障害のある子どもや若者に対するサーフセラピーが、健康関連QOL に肯定的な影
響の可能性を示すものである。今回の研究成果は、7 月13 日付(中央ヨーロッパ夏時間)で国際的
な神経発達障害の専門誌Advances in Neurodevelopmental Disorders に掲載された。
ただし、今回は予備段階の調査で参加者数が少なく、対照群を置かない単群の予備的研究である。
そのため、今回の結果だけでサーフセラピーの効果を断定するには限界がある。本研究チームは今後、
より多くの参加者を対象とした比較試験や、保護者・教員・本人からの複数の情報源を用いた評価、
睡眠や身体活動などの客観的指標を含めた検証実験の実施を予定している。
本研究は、日本における障害のある子ども・若者の地域参加、インクルーシブな自然体験、そして
海を活用した新しい支援モデルの発展に向けた基礎的知見となることが期待される。
3.論文の情報
雑誌名:Advances in Neurodevelopmental Disorders
論文タイトル:Feasibility of an Inclusive, Co-designed Surf Therapy Program for Children and
Adolescents with Intellectual Disabilities in Japan: A Pilot Study
著者:Satoko Tsuda, Kazumi Kubota, Hiroyasu Shiozu *Co-first Author
DOI:10.1007/s41252-026-00507-y
4.用語解説
(注1) サーフセラピー(Surf Therapy)
米カリフォルニア州に本部のある国際サーフセラピー機構(International Surf Therapy Organization:ISTO)により、「心理的・身体的・心理社会的ウェルビーイングを促進するために、意図的かつ包括的に、対象者に合わせた科学的根拠に基づく治療的構造を提供する手段としてサーフィンを用いること」と定義されている治療法。競技としてのサーフィン技術の習得を目的とせず、参加者の特性やニーズに合わせ、安全に海や波と関わる体験を通して、心身の健康、自己効力感、社会参加、心理的ウェルビーイングの向上を目指す構造化された支援プログラムである。現在、世界の約20 か国・130 以上の団体で実施されている。
(注2) KIDSCREEN-27
KIDSCREEN は、2001~2004 年にドイツの研究グループが中心となって欧州13 か国(フランス、ドイツ、ギリシャ、オランダ、英国など)の共同研究により開発された健康関連QOL 評価の国際的に活用されている調査票である。質問数が10 問、27 問、52 問の3 種類の調査票があり、本研究で用いたKIDSCREEN-27 では、身体的幸福感、心理的幸福感、親子関係と家庭環境、社会的支援と仲間、学校の5 領域から構成されている。
(注3) 自閉スペクトラム症(ASD)
社会的なコミュニケーションや対人関係の困難さ、特定の物事への関心や同じ行動の繰り返しなどを特徴とする神経発達症の1 つである。特性の現れ方は一人ひとり異なり、感覚の過敏さや鈍感さ、学習や日常生活上の困難を伴うこともある。ASD のある人の割合は調査方法や対象により異なるが、近年は比較的多くみられる神経発達症の一つとされている。
(注4) ダウン症
21 番目の染色体が通常より1 本多いことなどにより生じる先天的な状態である。筋肉の緊張が低いことや、知的発達がゆるやかであることが多いが、発達の経過や必要な支援には個人差がある。心疾患などの合併症を伴う場合もある一方で、医療、療育、教育、地域支援の進展により、学校生活や社会生活に参加する人も増えている。
5.お問い合わせ先
【研究内容について】
津田 聡子 中部大学 生命健康科学部 作業療法学科 准教授
電子メール:s-tsuda@fsc.chubu.ac.jp
▼本件に関する問い合わせ先
中部大学 入試・広報センター(広報課)
TEL:0568-51-5541
メール:chubu-info@fsc.chubu.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/