【東芝】LFP電池と同等の体積エネルギー密度を持ちながら、超急速充電と長寿命性能を両立する電池を開発

株式会社 東芝

大型商用電気自動車向けニオブチタン酸化物(NTO)負極電池、LFP電池の約10倍以上の充放電回数を実現

2024-11-6
株式会社 東芝

LFP電池と同等の体積エネルギー密度を持ちながら、超急速充電と長寿命性能を両立する電池を開発
-大型商用電気自動車向けニオブチタン酸化物(NTO)負極電池、LFP電池の約10倍以上の充放電回数を実現-
 
概要
 当社は、ニオブチタン酸化物(Niobium Titanium Oxide、以下NTO)を負極に用い、リン酸鉄リチウムイオン電池(以下LFP電池)と同等の体積エネルギー密度(*1)を持ちながら、LFP電池の約10倍以上(*2)の回数で超急速充電できる長寿命性能を備えた、バスやトラックなどの大型商用車に適したリチウムイオン電池を開発しました。NTO負極のNTO粒子の表面にナノレベルの導電剤を均一に分散させ、粒子間に強固な導電ネットワークを形成する電極製造技術を開発し、エネルギー密度と寿命の向上を達成するとともに、高い入出力性能を実現することで超急速充電を可能にしました。

 本電池は、5分間で約70%の超急速充電が可能で、超急速充電と放電を15,000回以上繰り返しても80%以上の電池容量を維持する長寿命性能を有しています(図1)。また、-30℃から60℃の過酷な環境下でも超急速充電が可能で、リチウムの析出が原理的に起こらないことから発煙・発火のリスクが極めて低く、低温~高温の環境下でも高い信頼性を有し、安全に利用することができます。商用車は稼働率が高く、厳しい外気温の中で運行されることが多いため、電動化には超急速充電、長寿命性能、高い安全性と信頼性が必要で、本電池はこれらの特長を兼ね備えています。また、本電池は超急速充電を繰り返し行うことができるため、電池搭載量を減らすことが可能で、さらに長寿命であるため、電池交換の必要性を大幅に減らします。商用電気自動車の初期コストと運用コストの両方を削減でき、総所有コスト(TCO:Total Cost of Ownership)の低減が期待できます。

 当社は、2017年にNTOを負極に用いた次世代リチウムイオン電池の試作に成功し、2018年にはCBMM(社長:リカルド リマ(Ricardo Lima)、本社:ブラジル・サンパウロ市)および双日株式会社(社長:植村幸祐、本社:東京都千代田区)と共同開発契約を締結し、本電池の商業化に向けた協業を進めています。3社は、開発した本電池を電気バスに搭載し、本年6月からCBMMが権益を所有するブラジル・ミナスジェライス州のアラシャ鉱山で、実走行の実証実験を行っています(*3)。
 
図1:開発したNTO負極セルの性能

開発の背景
 カーボンニュートラル社会の実現に向けて、自動車をはじめとした様々なモビリティの電動化が世界的に広がる中、商用車においても電動化の取り組みが進められています。既に普及が進んでいる自家用電気自動車においては、電池搭載量の拡大による充電1回あたりの航続距離の延伸や、部品の共通化などによる初期コストの低減が進む一方で、商用電気自動車は普及・拡大に向けた課題が多く残されています。
 商用車は自家用車に比べて稼働率が高く、稼働率の向上には充電効率と充電1回あたりの航続距離を確保することが必要です。充電効率を高めるためには、超急速充電の実現と、充放電を繰り返しても劣化が少ない長寿命性能が重要です。LFP電池は自家用電気自動車に広く用いられていますが、商用電気自動車に適用するには、超急速充電に加え、より高い長寿命性能が求められます。一方、航続距離は電池搭載量を増やすことでも伸ばせますが、乗客や荷物の積載スペースを圧迫し、車両の重量が増加することで電費悪化の原因となるため、電池の体積エネルギー密度を向上させ、最小限の電池を搭載して計画的に充電を繰り返すことで効率的な運用が可能です。
 また、商用電気自動車は厳しい外気温条件の中で運行されることが多いため、搭載する電池には高い耐久性が求められます。低温環境下では、電池の入出力性能が低下し、走行距離の短縮や、長い充電時間を要する問題が生じます。一方、高温環境下では、電池材料の副反応によりガスが発生、電池が膨張するなどの劣化問題が発生します。
 NTO負極を用いた電池は、リチウムの析出が原理的に起こらないことから、急速充電時に電流値を制御しなくても安全な超急速充電が可能で、充放電を繰り返しても劣化が少ない長寿命性を持ちます。さらに、低温~高温の環境下でも安定して利用できるため、稼働率と負荷が高い商用電気自動車への搭載に適しています。一般的に超急速充電を行うと電池温度が上昇し、充電速度が遅くなりますが、NTO負極を用いた電池は熱安定性が高いため、電池が高温になっても超急速充電が可能です。

本技術の特長
 当社は、LFP電池と同等の体積エネルギー密度を持ちながら、LFP電池の約10倍以上の回数で超急速充電できる長寿命性能を両立させ、低温~高温の環境で安全かつ安定した利用が可能な高信頼性を併せ持つNTO負極電池の開発に成功しました。
 NTO負極を形成するNTO粒子は放電状態で絶縁性を持つため、負極中のNTO粒子に電子を導通させるための良好な導電ネットワークを構築することが、超急速充電性と長寿命性の両立に効果的です。今般、当社は、NTO粒子の表面にナノレベルの導電剤を均一に分散させ、粒子間に強固な導電ネットワークを形成する電極製造技術を開発しました(図2)。
 
図2:粒子間に強固な導電ネットワークを形成する電極製造技術と製造した電極

 従来、大量の導電剤が必要だったため、エネルギー密度の低下や、導電剤と電解液の副反応による寿命低下が課題でしたが、本技術により、わずかな導電剤で導電ネットワークを形成できるため、エネルギー密度と寿命の向上を達成し、さらに高安全性を維持した状態で高い入出力性能を実現できます。
 当社は、本技術を適用した容量50 Ahの大型電池セルを用いて、循環バスの運行を模擬した超急速充電と放電を繰り返すサイクル試験(*4)を行い、7000サイクル後でも93%以上の容量を維持できることを実証しました(*5)。超急速充電サイクルで使用できる回数は15,000回以上と推定され、例えば、1回の充電で100km程度走行できる必要最小限の電池を搭載し、1日あたり2、3回の超急速充電を繰り返すような過酷な運用条件でも15年以上(150万km相当)の利用が可能で、途中で電池を交換することなく、廃車まで使い続けられるようになります。また、超急速充電の活用により、車両への電池搭載容量を減らし、車両コストの削減と軽量化による電費低減も可能です。初期コストと運用コストの両方でコスト削減を図れるため、総所有コスト(TCO:Total Cost of Ownership)の低減が期待できます。
 さらに、安全性評価としての釘刺し試験(*6)では発煙・発火がなく、高い安全性(EUCAR hazard level 3)が確認されました。また、負極への金属リチウムの析出が起こらないことから-30℃から60℃という過酷な外気温の環境下でも超急速充電が可能で、繰り返し充放電できることも確認しました。

今後の展望
 当社は、CBMMおよび双日と6月から実施している実証実験を通じて、NTOを用いた次世代リチウムイオン電池の特性および車両運行データの収集を行い、商業化に向けた取り組みを進めていきます。

*1 単位体積あたりに蓄えられるエネルギーの量
*2 超急速充電サイクルを想定した部分充放電サイクル(完全な充放電ではなく、一定の容量の範囲内における充放電)において当社比較
*3 https://www.global.toshiba/jp/news/corporate/2024/06/news-20240620-01.html
*4 3Cの充電条件(充電3C/放電1Cサイクル)において超急速充電と放電を繰り返すサイクル試験を実施。Cは電池容量に対する充放電電流値の比。1Cは1時間で満充電状態から完全に放電した状態になる時の電流値を表す。
*5 200サイクル毎に取得した0.2C放電容量基準の容量維持率
*6 釘刺し試験SAE J 2464準拠にて

その他のリリース

話題のリリース

機能と特徴

お知らせ