【大阪大学】大学院医学系研究科が住友ゴム工業株式会社との共同研究を開始 ― 個々のがん患者にあった治療薬を届けるコンパ二オン診断を目指して

大阪大学

大阪大学大学院医学系研究科の山本浩文教授らの研究グループは、住友ゴム工業株式会社と共同で開発した血中循環がん細胞(CTC*¹:Circulating Tumor Cell)の捕捉技術を活用して、個別のがん活性化シグナルを同定するための共同研究契約を2024年3月28日に締結しました。今回の共同研究では、住友ゴムが提供する特殊なチャンバースライドを利用して、がん患者から採取した血液中に存在する可能性のあるがん細胞を捕捉し、シングルセル解析技術などを通じて、がん細胞を活性化するシグナル伝達経路を明らかにする取り組みを行います。本研究の結果、これまで遺伝子変異を指標にして連結されていた分子標的治療薬の適応が拡がり、個別の治療に結びつくケースが大幅に増えることが期待されます。 【共同研究の背景】  近年、次世代シーケンサーによるDNA解読技術の飛躍的な進歩によって、壊れたがん細胞から血液中に漏れ出たDNA断片を読み取り、がんの遺伝子変異を同定することが可能となりました。しかし、がん細胞の遺伝子変異だけでは分子標的治療薬との連結が限られており、治療に結びつくケースが少ないことが問題となっています。 【共同研究の目標】 ■がんの活性化シグナルを明らかにすることで個々の患者さんに適した治療薬を届けること(コンパニオン診断系の確立)  共同研究では、死滅しつつあるがん細胞のDNA断片ではなく、血中に放出されたがん細胞を生きたまま捉え分析することにより、DNAを修飾するエピゲノム、RNA や蛋白レベルでの解析を行い、がんの活性化シグナルを明らかにすることを目指しています。米国のTCGAプロジェクト*²ではヒトのがんシグナルはわずか10種類に収束するという報告がなされています(Oncogenic Signaling Pathways in The Cancer Genome Atlas: Cell, https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(18)30359-3 )。  個別の患者のCTCがこれらの10個のがん活性化シグナルのうちどの経路に属するかを明らかにすることで、分子標的治療薬の恩恵を享受する患者層の拡大に繋がることが期待されます。 【共同研究の内容】  本共同研究では、住友ゴムが提供するPoly(2-Methoxyethyl Acrylate:PMEA*³)を塗布した特殊スライドを用いて、血中のがん細胞を培養します。PMEAは人工血管の内面のコーティングに使用されているポリマーで、がん細胞の培養の妨げとなる多くの血球を除去する作用があります。これまでCTCの培養は、血液10mL中にCTCが100個以上あるような大腸癌症例で例外的に成功した(4.2%)と報告されていましたが、同研究グループの方法によると、CTCが10個以下と少数のケースでも高率に培養に成功する(16/30:53.3%)ことが示されました(図1:Int. J. Mol. Sci.2023,24(4), 3949)。  最近では長期培養によって多くの癌細胞を回収できる例もみられていることから、対象疾患もこれまでの大腸がん、肝細胞がん、膵がんから拡大し、前立腺がんや乳がんも調査します。  この技術を基盤として、いろいろながんのステージIV患者の血液中のがん細胞を捕捉、分析し、がんの悪性化シグナルをリアルアイムに同定することで、個々の患者のがんの活性化シグナルを阻害する分子標的治療薬の投与に結びつけます。また個々の患者のがんシグナルの同定には、最新の分子関係性関数と人工知能とを駆使した新しい解析モデルを導入します。 【がんを根治するムーンショット計画との位置づけ】  山本浩文教授は、本共同成果とは別に、科学研究費基盤A課題(2024-2026)「多分子標的型核酸と高性能化DDSによって転移性癌をリセットするムーンショット計画」を開始します。これは新規の分子標的治療剤として期待される核酸医薬*⁴とその運び屋であるドラッグデリバリーシステム(DDS)によってがんを根治することを目的とする夢のある研究課題です。その中で、本共同研究によるCTCを用いたがん活性化シグナルの同定は、個別の患者に有効な核酸を選別するために必須のパートとなります。 【特記事項】  本研究は、大阪大学大学院医学系研究科 泌尿器科 野々村祝夫教授、乳腺外科 島津研三教授、消化器外科 土岐祐一郎教授・江口英利教授、大阪国際がんセンター 外科 大植院長、泌尿器科 西村副院長らの協力を得て遂行します。 【用語説明】 ※1 CTC  血中循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell)。がん患者の血中を漂流するがん細胞。 ※2 TCGA プロジェクト  The Cancer Genome Atlas(TCGA)は、米国の主導で行われた大規模ながんゲノムプロジェクト。2006年から始まり、さまざまながん種についてゲノム、エピゲノム、トランスクリプトーム、バリアント情報などを包括的に解析した。 ※3 PMEA  Poly(2-Methoxyethyl Acrylate)。生体適合性のある非イオン性のポリマー。血小板の付着を防止し、抗血栓作用を有する。 ※4 核酸医薬  従来の医薬品はタンパク質を標的としていたのに対し、核酸医薬はタンパク質の前駆物質であるRNA(リボ核酸)を標的とする。アンチセンス、siRNA、microRNAなどがあり、後2者は血中で分解されやすいため、運び屋としてのDDS(Drug delivery system)が必要となる。 【参考 URL】 ① 山本浩文教授 研究者総覧URL  https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/2b45e19711bba744.html ② 大阪大学大学院医学系研究科 保健学専攻 生体病態情報科学講座 分子病理学教室  https://sahswww.med.osaka-u.ac.jp/~yamalab/ 【図1 参考URL】  Int. J. Mol. Sci.2023,24(4), 3949: https://doi.org/10.3390/ijms24043949 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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