放射性抗体の超音波内視鏡ガイド投与による膵がんPET画像診断の医師主導治験(第Ⅰ相臨床試験)を開始
微小膵がんの早期診断・精密治療方針決定の革新的画像診断法の開発を目指す
- 生存延長効果が期待される1cm未満の微小膵がんの発見と精密な治療方針の決定を実現するため、新しいPET用放射性薬剤を用いたPET画像診断法の医師主導治験を行います。
- 本試験で用いる新しいPET用放射性薬剤(64Cu-NCAB001)は、通常のPET画像診断では画像化できない3mm~1cmの微小膵がんを明瞭に画像化できることが非臨床試験において明らかになっています。
- 本試験において、世界で初めて本薬剤(64Cu-NCAB001)をヒトの腹腔内に投与してのPET画像診断を行い、本診断法の安全性と推奨投与量を評価します。
- 本試験の結果を踏まえ、膵がんの革新的な早期診断法と精密治療方針決定法の開発を進めてまいります。
通常のPET検査(FDG-PET)では、放射性フッ素を付加したブドウ糖を静脈から注射するのに対し、本試験では膵がん細胞の表面に高発現する上皮成長因子受容体(EGFR)注2に特異的に結合する特性を有する放射性抗体(64Cu-NCAB001)を超音波内視鏡で腹腔内に投与(超音波内視鏡ガイド投与)しPET画像診断を行います。本薬剤(64Cu-NCAB001)のヒトへの投与は世界で初めてで、ファースト・イン・ヒューマン試験となります。
参加対象は、臨床的に遠隔転移がないと診断される膵がん患者さんで、国立がん研究センター中央病院(病院長:瀬戸泰之、東京都中央区)並びに神奈川県立がんセンター(総長:古瀬純司、神奈川県横浜市)で実施します。
本試験を実施する研究チームは、膵がん領域の超音波内視鏡を専門とする臨床医や核医学を専門とする臨床医、放射性薬剤製造の専門家で構成され、本試験の結果を踏まえ、膵がんの早期診断と精密な治療方針の決定を実現する新しい検査・診断法の開発を進めてまいります。
なお、本医師主導治験は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の臨床研究・治験推進研究事業の支援を受け実施しています。
膵がんの検査・診断法の現状について
膵がんの予後を改善するためには、早期診断と精密な治療方針の決定を実現させることが必要です。特に1cm未満の微小膵がんの発見・治療は生存延長効果がある注と期待されており、その手法開発が求められています。
膵がんの標準的な診断として、血液検査や超音波検査で膵がんが疑われる場合、造影CT(コンピュータ断層撮影)検査、造影MRI(核磁気共鳴画像)検査、超音波内視鏡検査が行われます。これらの検査によって診断されなかった場合には、内視鏡を用いて十二指腸乳頭部から膵管にカテーテルを挿入し、膵液を採取して細胞の検査(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)を行います。また、可能な限り細胞や組織を用いた病理検査により確定診断を行います。しかし、これらの検査法では1cm未満の微小膵がん、転移性病変の検出感度は低いのが現状です。
(注)Egawa S, Takeda K, Fukuyama S et al. Clinicopathological aspects of small pancreatic cancer. Pancreas 2004; 28: 235-240.
本試験に使用する放射性抗体64Cu-NCAB001は、抗EGFR抗体であるNCAB001に陽電子を放出する放射性同位元素である銅-64(64Cu)を結合させた新しいPET用放射性薬剤です。膵がん細胞の表面に高発現するEGFRをPET画像診断時に識別するため、本研究チームで開発してきました。マウス等での非臨床試験を行い、本剤を腹腔投与しPETで撮像すると、従来のPET検査(FDG-PET)や本剤の静脈投与では検出できない3mm~1cmの微小膵がんを明瞭に画像化できることが明らかになっています。こうしたことから、64Cu-NCAB001のPET画像診断により、膵がんに対する革新的な早期診断法・精密治療方針決定法を提供し、現在生存率が極めて低い膵がんの予後改善に貢献できると期待されます。
試験名
臨床的に遠隔転移のない膵がん患者に対する診断用放射性薬剤64Cu-NCAB001の推奨用量を決定する第Ⅰ相医師主導治験(NCCH2212):PRIME-64 (Pancreatic canceR IMaging Early diagnosis with copper-64)試験
本試験の目的
臨床的に遠隔転移がないと診断される膵がん患者さんを対象に、64Cu-NCAB001 の安全性を評価し、第Ⅱ相試験以降の推奨用量を決定します。また、64Cu-NCAB001を用いるPET の画像収集の手法および画像評価規準を検討します。
1. 文書による同意が得られる
2. 膵がんが強く疑われる
3. 18歳以上80歳以下である
4. 膵がんまたは消化器がんに対する手術・抗がん剤治療・放射線治療歴がない
5. 日常生活に支障がない、又は軽作業や座っての作業は行うことができる
6. 全身的な治療を必要とする感染症がない
7. 重篤な糖尿病、心疾患、肝障害、精神疾患がない
8. 女性の場合、妊娠中でなく、今後妊娠する可能性がない
注:上記の患者選択基準は概要であり、上記に該当していてもこの治験に参加できないことがありますので、ご留意ください。
実施方法
病理診断のための組織や細胞を採取する超音波内視下穿刺吸引法 (EUS-FNA)とあわせて、腹腔内にPET用放射性薬剤(64Cu-NCAB001)を投与し、PETで撮像します。
肱岡 範(国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科 医長)
臨床研究実施計画・研究概要公開システム
jRCT番号:jRCT2031230311
臨床研究実施計画・研究概要公開システム
URL: https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2031230311
医師主導治験(PRIME-64試験)参加施設一覧
国立がん研究センター中央病院(東京都中央区築地5-1-1)
神奈川県立がんセンター(神奈川県横浜市旭区中尾2-3-2)
用語解説
注1 治験、第Ⅰ相臨床試験:
治験とは、新薬について国の承認を得ることを目的として行う臨床試験のこと。臨床試験には、その開発段階に応じ、第Ⅰ相臨床試験(薬の安全性と投与量を調べることを目的とする試験)、第Ⅱ相臨床試験(第Ⅰ相で決定された投与量を用いて薬の有効性と安全性を確認する試験)、第Ⅲ相臨床試験(第Ⅰ相、第Ⅱ相の結果を踏まえ、より多くの患者さんに参加していただく大規模試験)がある。抗がん剤の第Ⅰ相臨床試験では、少数の患者さんで投与量を段階的に増やしていき、薬の安全性や推奨される投与量、投与方法などを調べる。
注2 上皮成長因子受容体(EGFR):
EGFRとは、Epidermal Growth Factor Receptorの略で上皮成長因子受容体のこと。膵がんを含む多くのがんで高発現することが知られる。
研究費
本第Ⅰ相臨床試験について
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
臨床研究・治験推進研究事業(令和4年度~令和7年度)
「膵がん早期発見・精密治療方針決定を実現する新規放射性抗体医薬を用いた超音波内視鏡ガイド投与による革新的PET画像診断の第Ⅰ相医師主導治験」