JSTとANRの戦略的国際共同研究プログラム(SICORP) 「日本-フランス国際産学連携共同研究」(エッジAI)研究課題への採択 ~AIを用いた自律的な無線アクセス制御技術の研究開発の加速~

日本電信電話株式会社

発表のポイント:
  • NTTとNIIはJSTとフランスのNational Research Agency (ANR)が公募する戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)「日本-フランス国際産学連携共同研究」(エッジAI)に応募し採択されました。
  • 本プログラムにより、これまでNTTとNIIで研究開発した深層学習や強化学習を活用した無線制御技術を発展させ、非力な小型端末等でも動作する軽量なエッジAIによる無線制御技術の研究開発を推進します。
  • エッジAIによる無線制御により、工場などの遮蔽となる棚や柱、人、工作機器の移動などの影響で複雑に電波状態が変化する環境下で多数の端末が通信する状況においても、変化に追随し、より大容量、高信頼といった高品質な無線通信を提供できるようになります。
 日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)、国立情報学研究所(東京都千代田区、所長:黒橋(くろはし) 禎夫(さだお)、以下「NII」) は、科学技術振興機構(JST)とフランスのNational Research Agency (ANR)が公募する戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)「日本-フランス国際産学連携共同研究」(エッジAI)*1に対し、フランスの研究機関 Institut de Recherche en Informatique et Systèmes Aléatoires (IRISA)、Wavely社と連携し、無線通信とセンシングを協調させたスマート工場向け省電力軽量エッジAI技術(LIGHT-SWIFT*2)の研究課題を提案し、採択されました。
 今回の採択により、小型端末等でも動作可能な軽量なエッジAI技術と、これまで研究開発した深層学習や強化学習を活用した無線制御技術を発展させ、工場などの遮蔽となる棚や柱、人、工作機器の移動などの影響で複雑に電波状態が変化する環境下で多数の端末が通信する状況においても、変化に追随し、高品質な無線通信を提供できる技術の研究を推進します。
 

1.背景
 2030年代の6G無線時代には工場のオートメーションや自動運転など、Industrial Internet of Things (IIoT)端末の利用が拡大し、それらを制御、管理するための無線通信の重要性が増大することが想定されます。無線通信の通信品質は周囲の環境により刻々と変化し、また、多数のIIoT端末が接続されると品質が不安定となるため、その中で厳しい通信要件を満たすものを高信頼(極小なパケットロス、低遅延)に通信させることは困難です。また、多数のIIoT端末の通信を制御するためには、個々に異なる周囲環境を管理する必要があり、通信の最適化を集中制御により行うことは、個々の端末の電波状態をリアルタイムに把握・制御するための情報の送受信や消費電力が大量になる課題があります。
   
2.採択された提案のポイント
 採択された研究課題では、高性能かつ省電力なエッジAI技術を開発し、低機能なIoT端末でも利用可能な「軽量AI」を実現するとともに、軽量AIを活用した、端末等のエッジデバイスでのセンシング技術、無線通信制御技術を開発します。それにより、工場などの複雑な通信環境の変化に適応して安定的に高信頼な通信を実現できる技術の確立をめざします。従来は基地局やコントローラによって集中的に通信環境を制御することが一般的でしたが、軽量なエッジAIにより多数の端末ごとの通信環境の変化に応じた制御が可能となります。
 NTTとNIIは、これまでの共同研究で培った強化学習を活用したマルチ無線制御技術をもとに、軽量なエッジAIによる無線制御技術に発展させ、実用化に向けた技術検討を加速します。本課題において、現行のアルゴリズムに比べ、エッジAIの消費電力を1/2に抑え、収束速度を1/2にすることを目標とします。

3.リスクアバース強化学習を活用したマルチ無線制御技術
 NTTとNIIでは、これまでの共同研究により、強化学習の手法の一つであるRisk-Averse Q-learning (RA-QL) *3法を活用した、マルチ無線アクセス技術を開発しました。図2に示すように、RA-QL法では無線回線でのパケットロスにセンシティブに反応し、複数の無線インタフェースを備えた無線通信において自律的にパケットを送信する無線インタフェースを選択し、パケット量を調整することで、最適な通信量で高信頼な通信を実現します。本技術により各基地局・端末の周囲の状況に合わせた送信制御が可能となります。本技術の効果についてシミュレーション評価では、sub6・ミリ波の2つの周波数の無線インタフェースを備えた基地局・端末での伝送において、目標とするパケットロス率に対して、従来の強化学習法を用いた制御に比べ、より低いパケットロス率を実現できることを確認しました*3。また、エッジAIに向けた深層強化学習(Deep Q-Network等)の活用に向け、より低負荷な処理をめざし、Deep Q-Networkを軽量化した無線通信アルゴリズムの検討も進め、難関論文誌に採択されています*4。
 

4.各者の役割
・NTT:共同研究における本技術の創出の議論、適用アーキテクチャの検討、実験評価 (主たる共同研究者:鷹取 泰司)
・NII:本技術の基幹アルゴリズムの考案、評価、戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)の課題における日本側代表機関 (研究代表者:金子 めぐみ)

5.今後の展開
 今後も、複雑な環境下で多数の端末が通信する状況においても、変化に追随し、高品質な無線通信を提供できるエッジAIを用いた無線制御技術の研究を推進します。また、これらの技術をベースとしながら採択された研究課題をすすめ、エッジAIとしてより実用的な技術の確立をめざします。

【用語解説】
*1 科学技術振興機構報 第1657号 戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)「日本-フランス国際産学連携共同研究」(エッジAI)における新規課題の決定について
https://www.jst.go.jp/pr/info/info1657/index.html
*2 LIGHT-SWIFT: LIGHTweight edge artificial intelligence for Sensing and WIreless communications in connected FacTories
*3 T. H. L. Dinh, M. Kaneko, K. Kawamura, T. Moriyama and Y. Takatori, "Improving Reliability by Risk-Averse Reinforcement Learning over Sub6GHz/mmWave Integrated Networks," ICC 2022 - IEEE International Conference on Communications, Seoul, Korea, Republic of, 2022, pp. 3178-3183.
*4 M. Kaneko, T. H. Ly Dinh, K. Kawamura, T. Moriyama and Y. Takatori, "Wireless Multi-Interface Connectivity with Deep Learning-Enabled User Devices: An Energy Efficiency Perspective," in IEEE Network, vol. 37, no. 3, pp. 132-139, May/June 2023.
 

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